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2021年8月13日(金)

主張

入管死亡報告書

構造的な問題を不問にするな

 名古屋出入国在留管理局の収容施設でスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさんが3月に亡くなった事件で入管庁は、最終報告書を公表しました。報告書は、体制などで改善すべき点があったとしたものの、各地の入管施設で死亡事件が相次いでいたのに、なぜ教訓化されず死を防げなかったのか、具体的検証はありません。「不当なものであったと評価することはできない」と入管庁の対応を正当化さえしました。当事者である同庁任せの調査では全容解明ができないことは明らかです。

「最終」の名に値しない

 報告書は、「病死」としながら、死因特定は「困難」としました。死亡の1カ月以上前から嘔吐(おうと)を繰り返し、「食べたいが食べられない」と訴えていたにもかかわらず、摂取できた量も不明です。

 亡くなる3週間前の尿検査の結果は、「飢餓状態」でしたが、内科的な処置は行われていません。この検査結果は、4月に入管庁が公表した中間報告で伏せられていました。本人が点滴や受診を求めていた事実も分かりましたが対応しませんでした。収容の契機とされるウィシュマさんのDV被害についての調査もおざなりです。

 報告書は、これらの原因を「医療体制の制約」や情報共有・対応の体制の問題としています。しかし、入管職員が、体調不良の訴えは仮放免を得るための「詐病」とみなしたとの記述もあり、体制があっても対応しなかった可能性は否定できません。

 各地の入管施設では以前から、体調不良を訴えても診療を認めようとせず、診察までかなりの日数がかかるなど被収容者にまともに向き合わない姿勢が批判されてきました。背景には、仮放免や入院の必要性について、医師の判断より施設長の判断を優先させる入管行政の構造上の問題があります。

 報告書は、在留資格のない外国人は全て収容する「全件収容主義」のもとで、司法審査を経ず無期限で収容する非人道的な扱いなど、国際的に批判の強い制度のあり方には一切言及していません。

 ウィシュマさんの仮放免を不許可とした決裁書には「支援者にあおられて仮放免を求めて執ように体調不良を訴えてきている者」「一度、仮放免を不許可にして立場を理解させ、強く帰国説得する必要あり」と記されていたとしています。被収容者の訴えに耳を傾けず、長期収容を送還に追い込む手段として、組織的に用いていることをうかがわせます。

 入管施設で医療を受けられず死亡した事例が後を絶たず、職員の暴力、暴言、人権侵害を告発する声も続出していたのに改善されないことは深刻です。ウィシュマさんがものを飲み込めず苦しむ様子をからかう職員がいたことは、信じがたい人権意識の欠如です。これまでの事件の際、不十分な調査でお茶を濁し、人権無視体質を温存してきたことを猛省すべきです。

「全件収容主義」改めよ

 今回の報告書で幕引きは許されません。第三者による内部立ち入りを含めた調査、ウィシュマさん死亡前の施設内でのビデオ映像の全面開示、国会での十分な審議を行い、真相を徹底究明すべきです。その上で、外国人の人権保障の観点にたち、「全件収容主義」の廃止など、入管行政そのものを抜本的に改めなければなりません。


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