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2021年8月9日(月)

ゆがんだ五輪正す力は

スポーツ部長 和泉民郎

 もやもやと複雑な思いを残しつつ東京五輪が8日、閉幕しました。

 新型コロナウイルス感染拡大で緊急事態宣言下の異常な大会。東京は1日5千人を超える感染爆発に見舞われ、選手・関係者も累計で400人を超える陽性者を出しました。

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 「リスクはゼロ」。開幕前に国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長はいいました。菅首相は「国民の命と安全を守るのは私の責務。守れなくなったら(五輪を)やらないのは当然」と豪語したものの、ともに“公約”はどこにいったのか。

 政府やIOCが、命より五輪を優先して強行した結果、国内外から憂慮や懸念の声があふれ、“祝福されない大会”となりました。

 余波は選手に重くのしかかります。7日、陸上女子1万メートルに出場した新谷仁美(にいや・ひとみ)選手は、涙ながらに苦しい胸の内を明かしました。

 「昨年12月に代表に決まってから、ただただ逃げたかった。アスリートがどういった目で見られているのか、街中を走っていればわかるので」

 同選手は昨年、コロナ禍の五輪開催の是非をこう語りました。

 「選手がただやりたいというのはただのわがまま。東京五輪は国民のみなさまといっしょの気持ちになって初めて成立するもの」

 思いを共有する選手は海外にもいます。

 競泳女子で通算七つの金メダルを手にしたケイティ・レデッキー選手(米国)は「米国民は私がメダルをとるかどうかより、世界で起こっていることをもっと気にかけるべきだ」。

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 共通するのは、社会が健全でこそ五輪は成り立つという「社会ファースト」の視点です。実は、同様の思いを持つ選手はこの2人だけではありません。そのことにわずかな光明をみる思いです。

 だとしても人々の命、健康が脅かされる最中に大会を強行した誤った判断は、厳しく問われます。菅首相には、総選挙を有利にしたいというよこしまな思惑があり、IOCは収入の7割を占め約1300億円といわれる放映権料欲しさという事情がありました。

 そこにはアスリート・ファーストはなく、五輪の理念を捨て去った姿があるだけです。政治が利用し、お金にまみれ、民意を踏みにじる―。今大会は五輪の醜い実像をあぶりだしました。

 「人間の尊厳保持」「平和な社会の推進」をうたう五輪憲章。その根底には「人の命の大切さ」があるはずです。命を粗末にし、社会を不幸にするのは五輪とは呼べません。

 五輪を正常な軌道に戻すのは簡単ではないでしょう。しかし、世界が現在地を共有した意義は大きい。ゆがんだ軌道を正すには、世界の選手と健全で厳しい世論が確かな力になると思うからです。


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