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2021年6月9日(水)

「離婚後共同親権」の拙速導入ではなく、「親権」そのものを見直す民法改正を

日本共産党ジェンダー平等委員会

 日本共産党ジェンダー平等委員会は8日、次の見解を発表しました。


 今年2月、上川陽子法相が、離婚後の面会交流、親権制度についての見直しを法制審議会に諮問したことから、この問題が国会、地方議会で取り上げられる機会が増えています。「離婚後共同親権」を求めるさまざまな動きも起こっています。

 日本共産党は、「離婚後共同親権」を拙速(せっそく)に導入するのではなく、子どもの権利擁護の立場から、「親権」そのものを見直す民法改正をおこなうべきだと考えます。

 現行民法の下、近年、「親権」は親に課された子に対する養育の「義務・責任」だという解釈が示されています。しかし、「親権」という言葉自体に“親が子を思い通りにする権利”というニュアンスがあり、条文上も、子は「父母の親権に服する」(818条)となっています。これは戦前の明治民法下で戸主が家族を支配していた時代の名残です。戦後の民法改正が不十分であったために、誤った認識が国民や行政の中にも広く残ってしまっています。

 欧米諸国では、1970年代後半から国際人権規約、女性差別撤廃条約、子どもの権利条約などに基づき、子どもの権利を中心に据えて捉え直す動きが広がり、「親権」の用語自体も廃止・変更されてきました。わが国の民法の規定は世界的にも遅れたものであり、抜本的な改正が必要です。

 政府の家族法研究会においても、「『親権』の用語については…親の子に対する責任を強調する用語に置き換えることとし、親の『責務』、『責任』等の用語を候補としつつ、更に検討を進めてはどうか」との見解が報告書で示され、子どもの権利擁護の立場からの離婚後の家族関係のあり方が再検討されています。「親権」の定義や用語の見直しが必要だという点では、「共同親権」への賛否にかかわらず多くの研究者も一致しています。

 以上のとおり、「親権」については見直すべき問題があり、この「親権」概念を前提にして「単独か共同か」を論じることは適切ではありません。

 また、「親は子を思い通りにする権利がある」などの認識が広く残るもとで「離婚後共同親権」が導入されれば、DV加害者は、「共同親権」を理由に離婚後も元配偶者や子への支配を継続しやすくなり、子どもの権利への重大な侵害を引き起こす危険性があります。DVは決して一部の人の問題ではなく、女性の約4人に1人、男性の約5人に1人が体験しており、「何度もあった」という人も女性は10・3%(男性4・0%)にのぼります。被害を受けたことがある家庭の3割は子どもへの被害もあります(内閣府2021年「男女間における暴力に関する調査」)。これらの実情に照らしても、「共同親権」を拙速に導入することには賛成できません。

 日本共産党は、民法の「親権」にかんする規定を抜本改正し、子どもの権利を実現する親と社会の責任・責務という位置づけを明確にすることを求めます。その上で、離婚後の子どもの養育、親の責任のあり方や分担をどうするのかについては、国民的な議論を重ねて合意をつくっていくことが必要だと考えます。

 面会交流や養育費の支払い、DV問題などについては、民法改正を待つまでもなく早急な改善が必要です。「離婚後共同親権」を導入すべき、との主張のなかには、面会交流や養育費の支払いを促進するため、とする声がありますが、これらはそもそも「親権」制度とは関係ありません。現行制度のもとで十分にやれるものであり、子どもの権利を実現する親と社会の責任・責務という観点から、今すぐ改善に力を尽くすべきです。

 面会交流については、実施の決定や、問題が生じたときの対応のカギを握る家庭裁判所の体制がきわめて脆弱(ぜいじゃく)であり、量質両面からの強化が必要です。

 家庭紛争の当事者や関係者と面接を行い、問題解決のために必要な検討を行い、裁判官に報告する役割を担っている家庭裁判所調査官は、この20年ほとんど増員されていません。現状では子の意思が尊重される仕組みが確立されておらず、子ども自身が明確に拒否したにもかかわらず裁判所に面会交流を強制される例や、面会交流時に母や子が父に殺される最悪のケースが日本国内でも生まれています。一部の自治体で学校や保育園を面会交流の場として活用する動きがありますが、専門性も体制もない現場の職員に多大な負担と責任を課すやり方は問題です。家裁調査官の増員をはじめ、公的な責任の下、専門性をもち、子どもの意思を尊重できる体制の確立が急務です。

 離婚調停後のケアやフォローアップ、面会交流の実施への立ち会い等については、民間が取り組みを広げていますが、これに対する公的サポートの強化が必要です。

 養育費の支払いは、非監護親(別居親)に課せられる「生活保持義務」ですが、日本の母子家庭では、養育費の取り決め自体が43%しかなく、受け取っているのは24%にすぎません(厚労省「2016年度全国ひとり親世帯等調査」)。スウェーデン、ドイツ、フランスなどで行われている、国による養育費の立て替え払い制度、養育費取り立て援助制度などは、長年の切実な要求にもかかわらず放置されてきました。今こそ一日も早く実現すべきです。

 DVそのものをなくしていく努力、被害者支援を拡充していくことも急務です。DV被害者の保護、自立支援を充実させ、民間への財政支援と関係機関との対等な連携をすすめ、切れ目のない支援体制を確立・強化することが急がれます。同時に、加害者更生プログラムの制度化など、加害者の更生対策も進めるべきです。

 現行法の下で今すぐやれるこれらの切実な課題に取り組みながら、ジェンダー平等社会をめざし、戦前の名残を一掃する民法改正に踏み出すことが必要です。


※「親権」は大別すると、子と同居し保護する監護権(民法820条)と、教育・居所・職業選択・財産管理などの重要事項決定権(同820~824条)を内容としています。

※「生活保持義務」は、子の生活を少なくとも自らと同等に保持する義務。


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