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2021年5月14日(金)

高まる世論 入管法改定案 廃案しかない

根本にメス入れず人権侵害加速

 政府・与党が衆院法務委員会で入管法改定案の採決強行を狙う緊迫した情勢が続いています。同改定案の採決に抗議し、廃案を求める世論が急速に高まっています。日本共産党など野党は採決阻止のために結束。世論と結んで大きな運動を起こし、廃案に追い込む構えです。


死亡事件 真相究明もないまま

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(写真)入管法改定案について質疑に立つ藤野保史議員(右)。左奥は上川陽子法相=12日、衆院法務委

 在留資格を失った人を収容する入管施設では近年、死亡事案や長期収容に抗議するハンガーストライキが頻発し、人を人として扱わない入管行政の実態が浮き彫りになっています。

 2019年には長崎県の大村入国管理センターで、ナイジェリア人男性がハンストの末に餓死。入管の対応が問われたものの、法務省は責任を認めていません。

 そうしたなか、改定案が国会提出された直後の3月、名古屋出入国管理局でスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが亡くなりました。支援団体は、本人や支援者が点滴や入院治療、一時的に施設を出る「仮放免」を求めていたのに、聞き入れられなかったと告発しました。

 TBSは、死亡2日前に診察した外部の精神科医が「仮釈放してあげれば良くなることが期待できる」と指摘していたと報道。法務省は審議で事実を認め、医師の指摘が死亡経緯に関する中間報告で欠落していることが問題になりました。

 日本共産党の藤野保史衆院議員は、入管が医師への診察依頼書で「詐病(利益を得るために病気を装うこと)などの疑いがあると言及していた」との共同通信の報道に触れ、入管が“ウィシュマさんはうそをついている”とのシナリオを描き、「(それに)合う記述のみ記載したのではないか」と指摘しました。しかし、法務省は、仮放免を勧める部分を記載しなかったのは、ウィシュマさんの「名誉・プライバシーへの配慮」だと言い募っています。

 1日にはウィシュマさんの妹2人が来日。死に至った経緯の真相解明を求めています。

 入管施設は本来、本国に帰国するまでの一時的な収容の場。在留資格のない外国人を原則全員収容する「全件収容主義」や、収容や仮放免の際に人権保障の観点から司法が審査する仕組みがないことが国内外の批判の的になっています。

 改定案は、こうした入管行政の根本問題にはメスを入れず、出入国在留管理庁の裁量や権限を拡大するものです。入管の人権無視の実態が凝縮したウィシュマさんの死亡事件の真相解明なしに、改定案の採決など言語道断です。

国際法に反し強制送還可能に

 改定案は、国内外から批判を受けている根本問題にメスを入れるどころか、さらに人権侵害を加速させる内容にもなっています。

 改定案は、「難民認定の手続き中は送還しない」とする規定に例外を設け、3回目の申請以降は審査をせず、強制送還を可能とします。

 これは、難民認定申請をする権利を大幅に制限するもので、迫害を受ける恐れのある国への追放・送還を禁じる国際法の原則にも反しています。

 そもそも、日本の難民認定率は0・4%と世界的に見ても極めて低い割合です。しかし、政府・与党はこうした根本的な原因には目を向けていません。法務政務官を経験した自民党の井野俊郎衆院議員が4月21日の法務委員会で、「納得がいかなくてサインを拒否した」と難民認定を拒んだ経験を手柄のように語り、「私も難民認定をちょっとだけかじった程度だけど、救われるべき人が多くいたか、むしろ少なかったと思う」と述べるなど、送還ありきの姿勢も浮き彫りになっています。

 さらに改定案は、「在留が認められないものは迅速な強制送還」を掲げ、国外退去を拒んだ外国人への罰則を新設します。退去強制令書を受けた約9割が国外退去に応じています。それでも帰国できないのは、「家族が日本にいる」「生活基盤の全てが日本にある」など、さまざまな事情を抱える人です。

 刑事罰で威嚇して、送還を強制し、拒否すれば、刑務所に入れられるのでは、深刻な人権侵害が繰り返されることになります。

 収容に代わる仕組みとして新設された「監理措置制度」にも批判が上がっています。

 同制度は一定の要件を満たす人の収容を解く一方で、「監理人」を置き、収容者の生活の監視・報告を義務付けます。監理人には弁護士や支援団体が想定され、入管への届け出義務に違反した場合は罰則が科されます。

 支援団体の調査では支援者の約9割が監理人に「なれない・なりたくない」と回答。入管問題に携わってきた児玉晃一弁護士は「弁護士が仮放免の保証人になることもあるが、監理人制度になると、(対象者を)監視しなくてはいけない。ものすごい葛藤が生まれる制度だ」(4月21日、衆院法務委の参考人質疑)と懸念を示しました。

SNSでも広がる抗議行動

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(写真)入管法改悪に反対して座り込む人たち=7日、衆院第2議員会館前

 改定案に反対する世論は急速に高まっています。

 SNS上には、「#入管法案採決しないでください」「#入管法改悪反対」「#難民の送還ではなく保護を」などのハッシュタグが付けられ、著名人もツイッターで反対を表明。国際人権法などの研究者124人が廃案を含めた再検討を求める声明を発表し、国会前では、高校生が廃案を求める緊急アクションを呼びかけるなど、抗議行動も大きく広がっています。

 日本共産党は国会審議で廃案を要求。立憲民主党の枝野幸男代表も10日の衆院予算委員会で、スリランカ人女性の死亡事件の真相解明と十分な審議を要求し、11日のツイッターでは「まずは法案を廃案に」と踏み込みました。

 日本共産党、立憲民主党、国民民主党の国対委員長は12日、与党が狙う改定案の採決を阻止するために結束していくことを確認。参院では、日本共産党、立憲民主党、国民民主党、社民党、参院会派「沖縄の風」、れいわ新選組の各党会派で改定案の対案を共同提出しています。

 日本は、技能実習生や留学生アルバイトなどで外国人労働者を「安価な労働力」として受け入れています。その一方で、過酷な労働や暴力で失踪し、在留資格を失った外国人を強権的に排除する仕組みまでつくろうとする日本の入管行政の根本が今、問われています。

 昨年は、政府・与党が新型コロナウイルスの感染拡大がつづくなかで検察庁法を改定しようとしたことにネット上で広範な抗議行動が巻き起こって強行を阻止しました。

 通常国会の会期は6月16日まで。新型コロナの感染拡大のもと、改定案のごり押しは許さない―。こうした世論のうねりが政治を動かす大きな力となります。


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