「しんぶん赤旗」
日本共産党
メール

申し込み記者募集・見学会主張とコラム電話相談キーワードPRグッズ
日本共産党しんぶん赤旗前頁に戻る

2013年5月28日(火)

志位 和夫著 『綱領教室』 (全3巻)

綱領の奥深い意味を歴史的、理論的に解明した書

長久理嗣

このエントリーをはてなブックマークに追加 Yahoo!ブックマークに登録 mixiチェック

(1)

写真

(写真)志位和夫委員長の『綱領教室』(全3巻)

 志位和夫・日本共産党委員長の新著『綱領教室』全3巻が完結しました。「古典教室」(講師・不破哲三社研所長)とともに、全国をインターネット中継で結んだ「党内通信」での、日本共産党綱領を学ぶ「綱領教室」(2010年12月〜2012年3月)の講義に加筆・補正をおこなってまとめられた著作です。第1巻には第1回〜第4回講義(「なぜ綱領を学ぶのか」、綱領の章では、第一章・戦前論、第二章・現在の日本社会の特質)が、第2巻には第5回〜第8回講義(綱領第二章の続き、第三章・世界論)が、第3巻には第9回〜第12回講義(綱領第四章・民主主義革命と民主連合政府、第五章・未来社会論)が、それぞれおさめられています。両講義はDVDセットとなり、日本共産党中央委員会ホームページにもアップされて、党の「支部教室」などで活用されてきました。今後とも、それらの活用を願うものです。

 そのうえで、本書が、理論的探究の独自の意義をもった成果であり、かつ、豊かな資料を駆使してたいへんわかりやすく書かれた労作であることを強調したいと思います。それだけに、党員のみなさんはもちろんですが、日本の現実と将来を誠実に考える各界のかたがたに広く読まれることを心から期待します。実際、本書は、米軍基地問題、雇用などの「働くルール」、農漁業、原発、社会保障、教育などの問題、(侵略戦争を肯定・美化する)「歴史逆行」とのたたかいなどとしっかり結びついています。国民の運動と結んだ日本共産党の国会論戦も、随所に出てきます。ですから、それこそ「一点共闘」的に、読者の関心ある問題にそくして、どこからでも読みすすめることができる内容です。

(2)

写真

(写真)講義をする志位和夫委員長

 さて、本書の全体をつらぬく魅力、特色を2点あげたいと思います。

 一つは、説明が「綱領の文章にそって、できるだけ逐条的な形でおこな」われていること(第1巻「まえがき」)です。その努力は、第五章の未来社会論にいたるまで、つらぬかれています。そして、そういう形で講義をおこなうなかで、志位さん自身が「あらためて何よりも感動したのは、綱領の一つひとつの文章、一語一句に、実に深い意味が込められ、その組み立て全体が論理的に仕上がっているということでした」(同前)、「綱領のどの一行一行にも、たいへんな奥深い意味があることをあらためて痛感します」、日本共産党の「たたかいの歴史も、理論の探究の歴史も、そのすべてが綱領に刻み込まれています」と書いていることです(第3巻の結び)。私は、講師のこの「感動」に、深く共鳴しました。同時に、この「逐条的な」説明には、日本共産党の綱領を、知る、学ぶ、語る、一つの重要な方法論があると思います。

 いま一つは、著者ならではの鋭い問題意識がすえられていることです。たとえば、朝鮮・韓国問題の解明です。そこでは、「朝鮮の植民地支配の実態はどのようなものであったのか」を知らないといけない(第1巻)という強烈なメッセージが発せられています。そして、韓国での外交活動をふまえた臨場感あふれる叙述があり、「朝鮮王室儀軌」返還や日本軍「慰安婦」問題などに言及しつつ「過去の過ちの清算に積極的に取り組む」べきことを強調(第3巻)するなど、著者ならではの解明となっています。また、戦前の党と人民の不屈のたたかいの部分では、そこに先輩たちの柔軟で創意ある活動があったことに光が当てられていることが特徴です。さらに、沖縄が1945年から「本土とはまったく違った苦難の道」を歩んだ歴史を解明し、この点は戦後論で「絶対に欠かしてはならない重大な視点」であるとの強調(第1巻)も印象的です。

(3)

 「実践して初めて綱領なのです」(第3巻の結び)――本書の何より重要な内容は、第3巻で民主的改革のビジョンが縦横に、著者の熱い思いをこめて語られていることです。そしてそれは、第1巻、第2巻で、各分野の研究を生かしつつ豊富な資料によっておこなった日本社会の特質についての具体的で歴史的な解明に立脚しています。

 「国の独立・安全保障・外交の分野」では、第1巻で、米軍の全面占領時代の分析、サンフランシスコ平和条約と国民を欺く旧安保条約体制の「三重底」構造の解明、新安保条約体制の「表の条約」と「裏の密約」群との関係の解明、そしてその異常な従属状態が今日どこまで来ているのかの解明があります。これらは、「なぜアメリカへの異常な従属が続くのか」の疑問に、わかりやすく答えたものです。第3巻では、その異常を打破するうえで安保条約第10条にもとづく「通告による廃棄」が要をなすことを明らかにします。同時に、その先の展望として、綱領がアメリカとの対等平等の友好条約締結を明記していることに注意が喚起されます。ここで、相手側のアメリカを「まるごと知る」必要が強調され、自らの訪米の体験や「マルクスとリンカーンの交流」のエピソードも語られているのが、興味深いところです。自衛隊解消への展望についての党の立場の丁寧な説明があります。「異なる文明間の対話と共存」の問題では、「異なる価値観」もあるが「より深いところ」で「共通する価値観」もありうるのであり、それを「対話と共存」を通じて見いだしていくことが大切だとの指摘などにも注目したいと思います。

 「憲法と民主主義の分野」では、「現行憲法の前文をふくむ全条項をまもり、とくに平和的民主的諸条項の完全実施をめざす」綱領の立場が解明されています。これは現在、憲法改悪への策動がつよまるなかで、参議院選挙の争点になってきました。憲法96条改定問題の「注」もくわえられています。天皇問題では、民主的改革でおこなうべきは、「天皇は国政に関する権能を有しない」などの憲法の制限規定を厳格に実施し、逸脱を許さないことだとの解明がなされましたが、これも4月28日の「主権回復」式典の強行にさいしての天皇の政治利用として、鋭い政治問題になったところです。

 「経済的民主主義の分野」では、第2巻で、日本の財界・大企業による国民への支配のとらえ方の発展の説明があり、ヨーロッパとは異なる「顔つき」をしているその姿が、各分野のリアルな告発によって全面的に解明されています。これを踏まえた第3巻では、「経済的民主主義」とは何か、その根本的な考え方が示されます。これまで党として発表してきた、「経済提言」「賃上げ・雇用アピール」「景気回復提言」などの根底におかれている考え方が、骨太く語られています。

 原発問題について特筆したいと思います。「連続教室」の途中の2011年3月、東日本大震災、福島原発事故が起き、国民の苦難解決に取り組む立党の精神を発揮した全党の活動とともに、「連続教室」でも原発問題の理論的、政治的な解明がなされました。「古典教室」では、不破さんが原発災害を解明し、パンフレット『「科学の目」で原発災害を考える』として活用されました。「綱領教室」では、「原発列島」化も対米従属の枠組みで起きたこと(第1巻)、福島原発事故に政治と経済界がどういう対応をしているか、また日本経済をゆがめる「アメリカの介入」の角度でも語られました(第2巻)。くわえて第3巻に、「綱領と原発・エネルギー政策の発展について」の補論が書き下ろされています。福島原発事故以来、「原発ゼロ」をめざす政策的な発展をはかってきましたが、それは綱領の「安全優先のエネルギー体制」の立場から「エネルギー政策の根本的な転換をはかる」という根本精神にたった努力、具体化であったことが説かれています。そして、第6回中央委員会総会決定までの政策的発展のあらましがまとめられ、日本の原子力問題の歴史、日本共産党の活動の歴史を系統的に知ることができます。

 さらに本書では、そういう民主的改革に取り組む民主連合政府をどうやってつくるのか、その前途の問題での基本的な考え方がよくわかります。統一戦線論での綱領の原則、その規定の一行一行につまっている統一戦線と政府の問題についての探求の歴史をまとめて知ることができます。変革の事業にたいする妨害とのたたかいでは、講義で、日本の巨大メディアが権力と癒着、一体化している異常ぶりが明らかにされ、パンフレット『日本の巨大メディアを考える』となって広く読まれてきましたが、その部分が「社会の革命は上部構造で決着がつけられる」(「古典教室」での解明)という位置づけで本書に収録されています。発達した資本主義国での革命の事業の困難にうちかち、職場での党支部づくりをはじめとする党建設を成功させる決定的重要性が、力をこめて語られています。

(4)

 日本共産党の綱領には、日本の進むべき変革の道、ビジョンとともに、世界がどういう方向で動いているのかを示し、どういう世界をめざすのかの旗印が明らかにされています。第2巻の世界論での読みごたえのある解明として、世界の経済と政治に大きな比重を占めつつある中国やベトナムにかんする部分をあげたいと思います。

 著者は、これらの国について考えるとき、綱領が「たいへん慎重で厳密な書き方をしてい」ることに注意を喚起し、徹底して逐条的な説明を試みます。一方で、綱領が何をもって、「資本主義を離脱したいくつかの国ぐに」で「社会主義をめざす新しい探究」が「開始」されているとしているかを説明してゆきます。他方で、「政治上・経済上の未解決の問題」についての党の立場をくわしく紹介します。尖閣諸島をめぐる紛争問題の補論もあります。さらに、それらの国ぐにの「現在と今後」をどう見るか――二つの角度を提起します。一つは、「できあがった社会主義を代表する国ぐに」ではなく「『探究が開始』されている国ぐに」だということです。いま一つは、「生産者が主人公」の大原則への接近の努力がどうなっているか、国民のなかに資本主義の害悪の理解を広め社会主義への自覚を高める努力がどうなっているかを見る角度です。

 世界論では、国連の活動の発展、「核兵器のない世界」をめざす活動などで非同盟諸国が果たしている積極的役割など、人類史、国際政治の巨大な変化が、著者の国際活動の体験をふまえてリアルに語られます。そのなかで、過去にさかのぼって「植民地責任」が問われるようになっている問題にかんして、著者が、「ダーバン宣言」(2001年、南アフリカのダーバンで開催された国連中心の世界会議の「宣言」)に光を当てた(第1巻、第2巻)ことも、この会議の意義が世界政治の場で陰に隠された面があるだけに、重要な問題提起として記しておきたいと思います。さらに、旧ソ連論や、日本共産党の「自主独立の立場」の確立から覇権主義との闘争の歴史についてのまとまった叙述も、本書の特徴となっています。

(5)

 著者は、第1巻「まえがき」で、講義の準備にあたって不破哲三さんの「綱領や古典に関する著作の全体」を参照したと書いています。実際、不破さんの研究の到達点を徹底的にふまえ、そして著者ならではの新しい展開を試みたことが、本書をつらぬくもう一つの特徴だと感じます。

 とくに、第3巻の未来社会論の部分に注目しました。ここでは、「綱領第五章の未来社会論をよくこなして、広範な国民にどうやって語っていったらいいのか」、工夫や研究がいると課題を提起し、それへの回答を試みています。未来社会論をどう語るか。「社会主義は時代遅れでは?」との疑問は、崩壊したソ連が「社会主義」の代表だと思っているところからきているものだから、旧ソ連が社会主義とは無縁の体制であって日本共産党が自主独立の立場でその誤りとたたかいぬいたという話は、当然必要になります。同時に、「あなたはこの資本主義の社会が人類の到達した最後の社会、理想の社会だと考えますか」と問い返してみたらどうでしょう。そこから対話が始まるかもしれません。志位さんは、資本主義がかかえる矛盾の現実から出発し、その解決の道である社会主義的変革の中心課題である「生産手段の社会化」が、社会のあり方、人間のあり方を大きく変えていくことについて語ります。

 では、「社会主義・共産主義社会というのは、一口でいうと、どんな社会なのですか」と問われたらどう答えるか。それには、社会主義的変革の中心は何かという問題とは少し違って、「未来社会の特質は何か」を語ることではないかと、著者は提起します。そして、その特質は「人間の自由、人間の解放」にあると、第23回党大会の綱領改定の討論についての結語や、「各人の自由な発展が万人の自由な発展の条件であるような一つの結合社会」だという『共産党宣言』を引いたエンゲルスの手紙を紹介して、力説しています。

 「真の自由の国」の説明で、『資本論』第三部のマルクスの示唆をどう読みとるかを深めていることにも注目したいと思います。人間の活動には、本来の物質的生産にあてられる時間(必然性の領域)と、人間が労働から解放されて自由に使える時間(自由の領域)の「二つの領域」があること、未来社会では労働時間の短縮によって「自由の領域」が飛躍的に拡大し「真の自由の国」が開花するという展望です。

 著者は他方で、日本共産党の「自由と民主主義の宣言」(1976年に決定。96年に一部改定)にあらためて光を当てつつ、綱領が展望する未来社会が資本主義時代の価値ある成果のすべてを継承、発展させる――この角度から語っていくことも提起しています。その内容として、近代民主主義と未来社会の自由との関係、特定の世界観や政党を特別扱いすることをきびしくしりぞける問題、「ルールある経済社会」の成果の多くも引き継がれること、「個性の発展」の条件も資本主義が準備する問題などの点を解明しています。

(6)

 最後に、この著作を生みだした「綱領・古典の連続教室」が、日本共産党の事業にとってどういう位置づけをもっているかについて述べたいと思います。

 その始まりは、第1巻「まえがき」にあるように、2010年9月の第2回中央委員会総会での参議院選挙結果の自己分析にありました。「党の自力をつける」ことに最大の教訓があること、「長期にわたる党勢の後退・停滞を打破し、新たな上げ潮をつくること」を、今後の選挙での前進に不可欠な問題、「それなくしては党綱領の実現はありえない、わが党の死活にかかわる大問題」と位置づけ、新たな挑戦を決意したのです。そこで挑戦していく課題の一つが「綱領的・世界観的確信を全党のものに」することであり、その具体化として「連続教室」の開催を決めたのでした。

 5月8日の第7回中央委員会総会では、今後の選挙戦でも、「つねに綱領的立場から情勢をつかむ」、「党と科学的社会主義の事業の不滅性への確信をもつ」という第6回中央委員会総会(今年2月)決定を堅持して勝利への道を切り開くために、「綱領学習を全党的に抜本的に強化し、『綱領・古典の連続教室』をひきつづき活用」しよう、情勢に曲折や波乱も予想されるなか、「表面の情勢に一喜一憂せず、つねに深いところで情勢をとらえ、困難に負けず不屈にたたかう党をつくりあげながら、選挙をたたかおう」と呼びかけられました。

 それだけに、党が新たな前進を切り開くうえで、この著作を読み、生かしていく実践的な意義は明瞭だと思います。初めて綱領を勉強しようとする人にもとてもわかりやすい本であり、綱領の目でものごとを見るとはどういうことかがよくわかる本です。もちろん、最初にも述べたように、本書は平和と民主主義をねがう人びとに広く読んでいただきたい本です。同時に、この書が党の事業の結実として生まれ、党の前進の道を開くために生かしていこうという性格をもった著作であることも知って、お読みいただければと思います。

 (ながひさ・みちつぐ 党学習・教育局次長)


見本紙 購読 ページの上にもどる
日本共産党 (c)日本共産党中央委員会 ご利用にあたって