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2012年5月1日(火)

ニュースを解く TPP 何が問題か

米国向けに経済・社会を改造

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 日本の環太平洋連携協定(TPP)参加に向け、政府は関係国との協議を加速しています。他方、日本の参加に反対する声も強まっています。改めて、TPPを考えます。(北川俊文)


太平洋圏内で自由貿易

 TPPはもともと、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国の貿易協定です。例外なしの関税撤廃のほか、広い分野で各国の制度の調和を目指す協定です。当初から、アジア太平洋地域の他の諸国が加入することを想定していました。

 米国は、自らこの協定に加入し、太平洋をめぐる諸国へ拡大することによって、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)のような米国主導の貿易圏の形成を目指しています。ほかに、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシアが加わり、9カ国で新たなTPPを交渉しています。これまでに、11回の交渉会合が行われました。

 2011年11月、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際、9カ国首脳が「TPPのおおまかな輪郭(大枠合意)」を発表しました。この機会に、日本、カナダ、メキシコがTPP交渉参加に向け、協議入りの意向を示しました。日本はその後、関係国との協議を順次行い、9カ国を一巡したところです。その結果、米国、オーストラリア、ニュージーランドを除く6カ国が日本の参加に肯定的な回答を行ったとされます。6カ国はみな、日本と経済連携協定(EPA)を結んでいます。

国民生活・産業への影響

 TPPで関税が撤廃されると、国内産業や地域経済が打撃を受けます。農林水産省試算によると、農林水産分野で、生産が4兆5700億円減少し、350万9000人分の就業機会が失われ、食料自給率が13%まで低下します。皮革・履物などの地場産業も、外国産や逆輸入の製品の流入で圧迫されます。

 TPPは、関税撤廃だけでなく、非関税障壁を撤廃し、各国の制度も限りなく共通にすることを目指しています。政府や自治体の官公需(政府調達)の受注は、外国企業にも開放され、地元業者を優先する施策が壊されます。投資家対国家紛争解決(ISDS)の条項が盛り込まれると、国内の制度や政策で不利益を受けたと主張する外国企業が国家を訴えることができることになります。

 国民の安全にかかわる食品安全基準、食品添加物規制、農産物の残留農薬基準も、外国の輸出企業に不利だという理由で、緩和を迫られます。国民生活にかかわる医療制度、薬価制度、郵便、保険など公的性格を持つ事業も、「民業圧迫」で外国企業の参入の障害になるとして、改変を要求されます。

除外品目なしの関税撤廃

 9カ国の交渉は、21分野について24作業部会で行われています。政府の発表でも、関税について、90〜95%を即時関税撤廃(協定発効日に関税撤廃)し、残りも7年以内に段階的に撤廃すべきだと主張する国が大勢です。

 日本のTPP参加について、米通商代表部(USTR)が公募した意見をみると、米国の業界の身勝手な対日要求が目白押しです。農産物の関税撤廃はもとより、政府調達、薬価制度、食品安全基準、郵便、保険などあらゆる分野で、米国企業が参入できるよう国内制度の変更を求めています。サービス産業連盟は、政府の審議会への米国企業の正式参加まで要求しています。

 政府は、TPP交渉に参加しても「守るべきものは守る」と述べています。しかし、TPPは例外なしの関税撤廃が前提であり、政府の説明はごまかしでしかありません。

主権・民主主義を脅かす

 TPPが国内制度の大きな変更を強いるにもかかわらず、その交渉は、多くの外交交渉と同様に、秘密裏に進められています。

 各国の提案や交渉文書、関連資料は、政府当局者のほかは、一部の者を除き、一般には公表されません。TPPが発効した後も4年間は秘匿されます。TPPが成立しなかった場合は、交渉の最後の会合から4年間は秘匿されます。

 他方、米国は一貫して、他国との協定より国内法が優先するという立場です。そのために、TPPが米国内法より下に置かれ、事実上、各国に米国内法の基準が押し付けられる危険があります。

 直近の米韓自由貿易協定(FTA)でも、それを実施する米国内法である米韓FTA実行法は、「紛争における合衆国法の優越」を定め、国内法に反する協定の条項は効力を持たないとしています。

 こうしたことから、長年かけて築いた国民に役立つ制度が、TPPによって掘り崩される恐れがあります。TPP交渉参加国でも、市民団体などが国家の主権や民主主義への脅威を指摘しています。

強まる懸念、広がる反対

 政府が情報を十分に提供しない中でも、TPPの破壊的影響の大きさが明らかになるにつれ、日本の参加に反対する声が強まっています。

 全国農業協同組合中央会(JA全中)はTPPに反対する1166万8809人の署名を集め、政府に提出したのをはじめ、各界と連携して交渉参加への反対を訴えています。

 日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の医療3団体は連名で声明を発表し、公的保険制度を守るよう訴えました。日本医師会はさらに、TPP交渉への参加そのものにも反対する立場を表明しました。

 また、日本消費者連盟、主婦連合会、全日本民主医療機関連合会(民医連)、全国保険医団体連合会(保団連)、農民運動全国連合会(農民連)、全国商工団体連合会(全商連)、全国労働組合総連合(全労連)など、多くの団体がTPP参加に反対する声を上げています。

 地方自治体でも、全国町村議会議長会が全国大会でTPP反対の特別決議を採択しています。また、農水省の11年9月末時点のまとめによると、43道県議会、1075市町村議会(一部重複)が、TPPに「参加すべきでない」または「慎重に検討すべき」だとする意見書を可決しています。

TPP用語解説

 アジア太平洋経済協力会議(APEC)=アジア太平洋地域の19カ国と2地域が参加する地域機構。19カ国=日本、韓国、中国、ロシア、ベトナム、フィリピン、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、パプアニューギニア、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、アメリカ、メキシコ、チリ、ペルー。2地域=香港と台湾。

 アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)=アジア太平洋地域を一つの貿易圏にまとめようという構想。2006年のAPEC首脳会議でブッシュ米大統領(当時)が提案。09年のAPEC首脳会議はその検討を確認。10年11月のAPEC首脳会議(横浜)はその推進を確認。

 世界貿易機関(WTO)=関税その他の貿易障壁をなくし、世界的規模で貿易自由化を進める目的を持った国際機関。事実上、新自由主義の機関で、米国基準を国際基準として世界各国に押し付け、多国籍企業が世界中で自由に活動できる環境を目指す。

 自由貿易協定(FTA)=モノやサービスの貿易にかかる関税を撤廃・削減する2国間・多国間の協定。WTO体制のもとでは例外的な措置として認められている。扱う範囲が狭い。

 経済連携協定(EPA)=2国間・多国間の協定で、関税の撤廃・削減を目指す点でFTAと同じ。WTO体制のもとでは例外的な措置として認められている。FTAより広い分野で経済制度を共通にすることを目指す。FTAがEPAの核になっているので、実態はEPAでも、FTAと呼ぶことがある。TPPもEPAの一種。

 関税=輸入品にかかる税金。日本の場合、関税収入は歳入の2%以下で、財源としての意味は大きくない。関税の主な目的は、外国製品から国内産業を守ること。関税は、輸入者が国に支払う。輸入者は、関税負担を国内販売価格に上乗せするので、外国製品の価格が高くなり、国産品との価格競争で不利になり、国内産業が守られる。

 食料自給率=国内で消費される食料のうち国産で賄われている割合を示す指標。一般に供給熱量ベース総合食料自給率が用いられる。栄養価である供給熱量(カロリー)を尺度に、国内で消費される熱量を算出し、そのうち国産で賄われる割合を示す。2010年度の食料自給率は39%。

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