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私と資本論

ブラックバイト告発そのもの

和光大学名誉教授・ジャーナリスト
竹信三恵子さん

写真:竹信三恵子

 「先生、『資本論』をやりましょう」。大学の教員をしていた数年前、ゼミの学生から突然、提案された。「ハードルが高くない?」と聞くと、「『労働日』の章だけならゼミのテーマのブラックバイトや過労死そのものですよ」と言う。

 提案したのは、今時珍しい理論書好きの学生だった。ほかの学生はどうかと心配したが、「資本論ってどんなものか知りたい」という声が多数を占め、挑戦が始まった。

 学生時代、その貨幣論の鮮やかさに目を見張り、興奮した。だが、労働日のくだりはすっかり忘れていた。再読して、その生々しさに衝撃を受けた。

 学生たちのバイト職場では、着替え時間を労働時間に算入できないよう、タイムカードは制服に着替えてからでないと押せないところに設置されている例がある。残業代は本来1分刻みで計算するが、30分ごとに計算すると言われ、残業代なしで25分労働時間を延長された例も聞く。なぜ、雇い主はそんなことをするのか。

 「労働日」の章ではこれらの行為が、食事や休息の時間を工場主が「少しずつ盗む」ことによる「数分間のもぎとり」と呼ばれ、小さな労働時間のごまかしが、ちりも積もる形で大きな利益を生むことが明らかにされる。

 いま、政府の規制改革会議や経済界では、仕事量の多さは不問に付し、「残業は帰りたがらない社員のせい」とする発言が目立つ。

 これも、「労働日」の章での「彼ら(工員)がどうしても工場を去ろうとしない」とする工場主らの言いわけにそっくりだ。工員たちは、翌日の自分たちの仕事のため、機械の補修を、操業後の「サービス残業」で行わざるを得なかったのだ。

 貴族らの社交界シーズンを前に、ドレスの大量注文で過労死したお針子も登場する。「女性活躍だね」と、私たちは話し合った。「資本論」の先駆性に驚きつつ、「私たちはこんな時代に戻ってきてしまったのだ」とも思った。

 「資本論」を指南役に、学生たちは顔を引き締めて社会に出て行った。

「しんぶん赤旗」2020年2月5日


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