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私と資本論

経済学界のピカソ、すてきだ

同志社大学教授
浜矩子さん

写真:浜矩子

 私と『資本論』はそれなりに付き合いが長い。かれこれ50年くらいだ。その間、つかず離れずというか、離れずつかずというか。絶妙の遠隔恋愛というか。極上の別居結婚関係というか。いい感じが形成されて久しい。

 ただ、この数年、ぐっとお付き合いが密着的になっている。親しい仲間たちと『資本論』を読む会を始めたからである。じっくりゆっくり、一語一句読み合わせ方式で進めている。英語版を共通テキストにしている。適宜、日本語訳も参照している。会のメンバーは皆さん日本人だが、各種の邦訳バージョンがあまりにも難解なので、英語版を基本テキストとすることにした。

 一行ずつたどっていくと、実に面白い。マルクス先生の文章運びの癖がとてもよく分かってくる。またもや、例のしつこくてくどいヤツが始まったな。読み込みを重ねてきているから、この感じがすぐ共有できる。

 ある一つの事象や論点を、徹底的に360度方式で語り尽くさないと、マルクス先生は気が済まない。3次元的にみせるだけではいけない。展開図的に示したい。ピカソの絵みたいな全方位性をもって、折り鶴を解体してみせてくれる。そして、それを緻密にやればやるほど、文章が長くなり、込み入ってくる。

 だが、どんなに長くなって込み入ってきても、決して脈絡は失われない。文法的な齟齬も発生しない。ここが先生のすごいところだ。

 筆者が学生さんたちの論文書きをサポートする時、必ず言うのが「一文一事」だ。一つの文章の中では一つのことしかいわない。この原則を守れば、おのずと文章は短くなる。短文を積み上げることで、脈絡の喪失や文法の破綻なく論点を積み上げていくことができる。

 ところが、先生はこの手法に全く従っていない。延々と一つの文章が続く。グジャグジャだ。だが、ピカソの絵のグジャグジャさと同じで、何が描出され、何を主張しているのかは、必ず分かる。先生は、経済学の世界におけるピカソなのである。とってもすてきだ。

「しんぶん赤旗」2020年1月31日


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