しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

私と資本論

経済だけでなく社会変革実践書

読売新聞特別編集委員
橋本五郎さん

写真:橋本五郎

 大学1年生のとき、「最初にそろえるべき書物」として『資本論』を買いました。大学を卒業するとき、ゼミの教授から「社会人1年目は、通勤途中で、学生時代に読み残した本を読みなさい」といわれ、『資本論』に挑みました。私にはなかなか難解で、解説書を読みながら悪戦苦闘しました。

 最近発売された『新版資本論1』も買いました。フランス語版への序言には、「学問の険しい小道をよじ登る苦労を恐れない人々だけが、その輝く頂上にたどりつく幸運にめぐまれるのです」と書かれています。その通りです。

 ソ連、東欧の崩壊で、マルクスはもう死んだかのようないわれ方をしました。私は疑問でした。私の立場は資本主義ですが、現在の暴力的な資本主義、つまり投機が横行するカジノ資本主義、貧富の格差拡大をもたらす「行き過ぎたグローバリゼーション」は制御する必要があります。

 マルクスが『資本論』を書いた動機は、格差のある社会を変えたいだったはずです。あらゆる人間の価値が「交換価値」に置き換えられる社会を正したいと考えたはずです。

 円を描くコンパスは、一本の軸は固定されていてぶれません。もう一つは自由に動かせます。マルクスの「ぶれない軸」は格差のない社会の実現です。そのために商品や労働などを分析して資本主義を乗り越えようとしました。

 自由に動かせるもう一つの軸は、時代や各国の実情に応じて、その時々の人が使いこなせばいいと思います。ソ連のスターリンは「共産主義」の名を借りて独裁体制を作りました。「ぶれない軸」=変わらず大切なものから逸脱した時は、反対の声をあげなければいけません。いまの中国を見ていると、そう感じます。

 マルクスのすごいところは、『資本論』を狭い意味での経済学書にとどめず、思想の書、社会変革の実践の書にしているところです。現在も『資本論』は生命力を発揮していると思います。

「しんぶん赤旗」2020年1月8日


pageup