2025年11月3日(月)
主張
国立劇場閉場2年
国の責任で一刻も早い整備を
今年の映画界では6月公開の劇映画「国宝」(李相日監督)が話題を呼びました。長崎出身の主人公が歌舞伎の名家に引き取られ芸の道を究めていく一代記。1千万人以上が映画館に足を運び、興行収入は160億円を超えました。
映画のヒットを機に歌舞伎への関心が若い世代にも広がっています。日本の伝統芸能の観客のすそ野の広がりにつながれば喜ばしいことです。
ところが、日本の伝統芸能の殿堂というべき国立劇場は2023年10月末に閉場したまま、2年たった今も再開のめどが立ちません。国立劇場主催の歌舞伎や文楽の公演は、専用設備の不十分な東京都内の劇場を転々としており、入場者数は大きく減少しています。
■民活方式の破たん
1966年に開場した国立劇場は、歌舞伎や文楽、舞踊、邦楽など伝統芸能の拠点として、民間劇場では難しい全幕上演の「通し狂言」や、埋もれた作品を再演する「復活狂言」などもおこなってきました。実演家やスタッフの育成、調査や資料収集でも役割を発揮してきました。そうした国立劇場ならではの役割が長期の閉場で果たせなくなっています。
開場から半世紀余を経て施設が老朽化していた国立劇場の大規模改修は必要なことでした。ところが2020年、政府の「国立劇場再整備に関するプロジェクトチーム」は、PFI(民間資金活用による社会資本整備)方式による全面建て替えに方針を変更しました。高層ビル化し、ホテルやレストランなどの商業施設を併設して、劇場を運営する日本芸術文化振興会(芸文振)が事業者から賃料を得る計画を推進し、29年度の完成をうたいました。
しかし、建設資材や人件費が高騰するなか、22年と23年の2回の入札は不調に終わり建て替えのめどが立たなくなりました。「稼ぐ文化」の名で国立文化施設に収益性追求を押しつけた自民党政権の路線の破たんにほかなりません。
プロジェクトチームは今年9月、整備計画を見直し、4年先延ばして「33年度の再開場を目指す」とする計画を発表しました。しかし、今年度中に公告を予定する3回目の入札の成立を前提にしたスケジュールであり、絵に描いた餅と言わざるをえません。
だいたいナショナルシアターが10年も閉じたままというのは、世界的に見ても異常というほかありません。
しかも他方で、建物は現存するため、芸文振は旅行業者のHISと提携し今年2月、有名ブランドのファッションショーを開催しました。「伝統芸能関係者の気持ちを激しく逆なでする企画」などの批判が寄せられたのは当然です。
■伝統芸能の存続を
日本舞踊協会などの関連団体は5月、日本の伝統芸能存亡の危機だとして、一刻も早い再開場に向けて約6万5千筆の署名を石破茂首相(当時)に届けました。市民グループも早期の再開場を求める署名を文化庁に提出しています。
政府はこうした声に向き合い、国として責任をもって国立劇場を整備し、一刻も早い再開場をはかるべきです。








