2025年10月31日(金)
主張
クマ被害と環境
生物多様性息づく森づくりを
クマ(ヒグマ、ツキノワグマ)による人身被害が全国で108人(9月末)となり、死者数は10月29日時点で12人と過去最多です。家屋や商業施設など人の生活圏に侵入する事例が多数あり、専門家は人慣れしたクマが増えていると指摘します。クマの生息地での遭遇も相次いでおり、10月の死者3人は、キノコ採りの最中犠牲になりました。
■人の生活圏に侵入
人の生活圏でのクマ被害急増に対し、国は2024年4月に規則を改正し、クマを指定管理鳥獣に指定しました。環境省、農林水産省、林野庁など関係省庁が連携して総合的な被害対策にあたることになっています。
環境省は17日、クマによる人身被害の防止にむけた大臣談話を出しました。地方自治体が発するクマの出没情報に注意を払うことを呼びかけ、(1)人の生活圏ではクマのエサになる栗や柿などの果樹を伐採し、ゴミは外に出さず室内で保管するなど誘因物となるものを適切に管理する(2)クマの生息地にむやみに入らない。仕事などでやむを得ない場合も単独行動は避け、鈴なども携帯する(3)クマと出遭った際は落ち着いて距離をとる。至近距離で出遭ったら、両腕で顔面や頭部を覆い、うつ伏せになるなど致命的なダメージを避ける行動をとる―よう注意を喚起しました。クマの捕獲を含めた個体管理を強めるとしています。
本来、警戒心が強く森林にすむクマがなぜ人の生活圏に出没するようになったのか。
環境省は、クマの個体数が多くなりすぎ、広葉樹のドングリの凶作などエサ不足で山を下り、里山など緩衝地帯でエサを探すクマが増えたことをあげます。
過疎化と高齢化による農林業の衰退などで里山里地での人間活動が低下し、クマが隠れやすい草ぼうぼうの耕作放棄地も増え、緩衝地帯から人の生活圏に接するようになったと分析します。
根本には、農林業をつぶして農村を疲弊させてきた自民党政治があります。
おいしいものが生活圏近くにあることを学習し、それを食べにくることも要因になっています。子連れの場合、子グマを守る本能から人を攻撃することも被害を生んでいます。川沿いの林を通って生活圏にくるため、河川敷の管理も重要となります。
■里山の復活・整備
世界では、生物多様性の保全と、地球温暖化・気候変動の課題に対する総合的な取り組みが求められています。日本は国土面積の66%が森林で、温室効果ガス吸収量の大半を占める森林の多面的機能の重要性がますます高まっています。
里山林の復活・整備と広葉樹の活用など、森林が多様な生物の生育・生息の場として機能することが重要です。
林野庁は、針葉樹林の針葉・広葉混交林化や広葉樹への誘導など、クマの生息環境の保全策を強めて、人とクマのすみ分けを図ることで被害を抑制したいとしています。
生態系を構成するクマを含めて生物多様性が保全される森づくりのため、政府の責任での専門的な人材育成と大幅な予算拡充が必要です。








