2025年10月27日(月)
2025焦点・論点 シリーズ 介護保険25年
どうみる「三大改悪」プラス1
公益社団法人認知症の人と家族の会代表理事・社会保障審議会介護保険部会委員 和田誠さん
地域格差拡大・利用抑制進む危険 今が正念場 大きな世論で阻止を
2027年度の介護保険制度見直しに向けた議論が厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会で進んでいます。「消滅危機」が指摘されている過疎地の訪問介護について、同省は人員基準の緩和を打ち出しました。さらに同省は、(1)2割負担の対象拡大、(2)ケアプラン有料化、(3)要介護1・2の「生活援助」の自治体事業へ移行―などの改定案を来年の通常国会に提出するため、審議を急いでいます。公益社団法人認知症の人と家族の会代表理事で、同部会委員の和田誠さんに聞きました。(内藤真己子)
![]() (写真)わだ・まこと 1966年福井県生まれ。2011年福井県民生活協同組合「高齢者介護きらめき」入職。現在、施設長。認知症の人と家族の会理事を経て6月から代表理事(共同代表)。行政書士、介護福祉士。 |
―審議会ではどのような議論が進んでいますか。
9月末の介護保険部会で、いわゆる「三大改悪」が論点として提示されました。ここから年末の結論に向け、本格審議がスタートした形です。政府の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)2025」では、こうした「給付と負担の見直し」について「2025年末までに結論が得られるように検討する」と明記しており、これから具体案が俎上(そじょう)にのってくると思います。
審議会では、これに先行し、「しんぶん赤旗」が調査報道してきた訪問介護事業所「ゼロ」「ラストワン」の自治体への対応が議論されてきました。厚労省は「事業所を存続させる」ため、中山間・人口減少地域の特例として、人員配置基準などの「規制緩和」を行う方向を示しています。
私は利用者の立場から、「介護保険はもともと全国一律のサービス・給付が前提だったはずだ。事業所が人手不足で人員配置基準を満たさなくなっているといって基準を緩和するのは、そもそもおかしいのではないか」と訴えています。
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配置基準の緩和で事業所が存続しても、そこで働く訪問介護員は果たして確保できるのでしょうか。今の議論は、骨折して手術が必要な患者に絆創膏(ばんそうこう)を貼っているようなもので、低賃金のヘルパーさんが次々と辞めている現状に歯止めをかけ、事態が好転するような予感はまったくしません。
また規制緩和が一度認められると、なし崩し的に広がっていく懸念が強い。今は「中山間地域」の特例という形ですが、今後、日本の大都市以外はほとんどが人口減少・高齢者減少の地域になっていきます。その時に、「高齢者人口が減ってきたから、うちの市も規制緩和してほしい」という話が全国に広がっていくのではないでしょうか。全国一律であるはずの保険サービスの質が、地域によってバラバラになる危険性をはらんでいます。
![]() (写真)利用者のひげをそるホームヘルパー=京都市内 |
―報酬体系の見直しも議論されていますね。
特例地域の訪問介護は、配置基準を緩和したうえで、現行の「1回いくら」という出来高払い方式ではなく、月額定額の「包括報酬」を事業者が選択できるようにする案が浮上しています。事業者にとっては月額で報酬が決まっていれば経営が安定するとの説明です。選択制といいますが、選択権は事業者側にあるので、事業所は包括報酬を選ぶでしょう。報酬額は決まっていませんが、利用回数の少ない利用者は負担が急増する可能性があります。
私たちは、包括報酬の「問題例」をすでに「小規模多機能型居宅介護」(小多機)で経験しています。小多機は、通所や訪問、ショートステイを組み合わせたサービスで、介護度に応じた月額定額の包括報酬です。サービスの提供回数や時間の決まりがありません。
もちろん真面目にやっている事業所も多いですが、一部では「要介護1なら週に何回」といった事業所のローカルルールで運用され、必要なサービスが提供されていない実態があります。例えば、訪問介護であれば介護報酬に沿って30分、45分と決められたケアを行いますが、小多機の訪問では、玄関を開けて安否確認だけして帰ってしまう、「5分訪問」でも1回の訪問とカウントされてしまう。包括報酬なので事業所側からすれば、訪問回数や時間を極力減らした方が、利益が上がるという構造になってしまっているのです。この弊害が、訪問介護の中山間地域でも起こり得るのではないでしょうか。
訪問介護事業者の経営を安定させるのであれば、まず昨年4月実施の訪問介護基本報酬の2~3%引き下げを撤回するべきでしょう。出来高払いを維持して、ヘルパーが遠隔地を訪問する際の「移動時間」を報酬に算定するか補助金を出す。また豪雪地帯や今年の猛暑のような過酷な労働環境に対する手当を上乗せしていくべきです。なぜ、こうした議論が俎上に上がってこないのでしょうか。
―2割負担の対象拡大、ケアプラン有料化など負担増をどう考えますか。
厚労省は「医療保険では高齢者でも2割、3割負担の人が一定数いるのだから介護も合わせるべき」という論理で話をしてきます。しかし、医療は「治れば終わり」ですが、介護は「一生付き合っていく」ものです。性質が全く違います。「現役世代の保険料を下げる」と言いますが、ある日突然、親の介護が必要になったら利用料負担に耐えられるのか。払えなければ家族は働き続けられません。
また今、必要な介護サービスを受けていることで、なんとか在宅生活を維持し、重度化を遅らせている側面は非常に大きいのです。負担が増えることでサービスの利用を控えれば、それだけ重度化のリスクが高まります。目先の給付費は抑えられても、中長期的には重度化が進み、全体の介護給付費は確実に上がります。
ケアプランの有料化も断固反対です。現在、ケアプラン作成にかかる費用(居宅介護支援費)は全額保険給付で、自己負担はゼロです。これがもし有料化されれば、1割負担でも月1000円~1500円程度(要介護度による)の新たな負担がいきなり発生します。入り口で、サービスから遠ざけられる人が出ます。
有料化がケアマネジャーの地位向上につながる、という意見もありますが、私は逆だと思います。「お金を払っているんだから、あれもこれもやってくれ」と、余計にケアマネジャーに負担が来ると思います。
―「要介護1、2の生活援助サービス」を市町村の「総合事業」へ移行する案はどうでしょうか。
これも絶対にダメです。そもそも、要介護1、2の状態を「軽度者」と扱うこと自体が、現場を知らない人の言うことだと断言できます。特に認知症の介護をしている家族にとって、在宅介護で一番大変なのは、要介護1、2の時期なのです。徘徊(はいかい)や混乱など、目が離せない状況が続くこの時期を「軽度」と切り捨てるのは暴論です。
受け皿としている市町村の「総合事業」は機能しているとは言い難いです。「住民の支え合い」によるサービスを念頭にしていましたが、育っていません。事業者が安い単価で請け負っているのが現状です。「地域に戻す」というのは聞こえはいいですが、実態は「家族に押し付ける」のと同義です。厚労省はまず、全国の総合事業がどれだけ機能しているのか、サービスの利用率がどうなっているのか、実態をしっかり調査・把握した上で議論すべきです。
27日開催予定の介護保険部会で、2割負担の拡大など「給付と負担」に関する具体的な議論が始まると聞いています。私たち「認知症の人と家族の会」は具体案が出てきたタイミングに合わせ、11月から「三大改悪」に反対する署名活動を全国で始めようと準備しています。前回の改定時も、大きな世論と署名活動によって負担増が先送りになった経緯があります。今まさに正念場であり、最大の頑張りどころだと考えています。











