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2025年10月27日(月)

主張

理研裁判の和解

研究者の雇用安定化へ舵切れ

 理化学研究所の研究者の雇い止め裁判が終結しました。雇用は継続したものの研究員に降格された研究チームリーダーが降格撤回を求めた訴訟で東京高裁での和解が成立しました。理研が「労使コミュニケーションの齟齬(そご)」により紛争が生じたことについて原告と労働組合に遺憾の意を表しました。理研に非を認めさせたことは重要です。

 理研は、違法・脱法的な行為を猛省すべきです。

 2008年のリーマン・ショック後に非正規切りが横行した反省から労働者の使い捨てに歯止めをかけるために12年に労働契約法が改正されました。有期労働契約が更新され通算5年を超えた場合に無期雇用に転換する権利が労働者に与えられました。研究者は特例で10年とされました。

■違法な不利益変更

 しかし16年、理研は無期転換を避ける目的で研究者に10年の雇用上限を押し付けるという違法な不利益変更を強行しました。起算日を13年に遡及(そきゅう)し23年3月末での研究者の大量雇い止めを企てました。規模は380人に及ぶと判明し、『ネイチャー』など海外の科学雑誌は「研究者の使い捨て」と批判しました。

 チームリーダーが訴訟を起こしたことで、理研は一部雇用継続の救済策をだしましたが、雇い止め対象者の雇用上限は撤廃しませんでした。研究者・技師4人も訴訟に加わり、理研労組は雇用上限撤廃、雇い止め撤回を求めてストライキをうちました。

 その結果、196人の雇用を守ることができましたが、184人が理研での雇用を失いました。優秀な研究者が国外に転出し、日本の研究力低下に拍車をかけました。

 政府も猛省すべきです。文部科学省は「無期転換を避ける目的での雇い止めは望ましくない」との通知を出しながら、理研の一部救済策を好事例としてそこに書き込み、雇い止めにお墨付きを与えました。理研自身が「遺憾の意」を表明したことからも、好事例などではないことは明らかです。

 理研は百年の歴史を持つ国内唯一の自然科学系総合研究所で、かつてはノーベル賞を受賞した湯川秀樹、朝永振一郎氏らが集う「科学者の楽園」と呼ばれました。

 しかし現在は7割が任期付き雇用で、新規採用の多くは10年以内の雇用上限が設けられ“腰かけ研究所”と揶揄(やゆ)されています。研究所の世界ランキングも16年の72位から25年は115位に急落しています。理研だけでなく日本全体で任期付き研究者が増え、短期的成果主義が蔓延(まんえん)し、研究力が低下しています。

■無期転換の予算を

 18年2月1日、日本共産党の田村智子参院議員(当時)は「法にのっとった無期転換に、所管省庁が人件費増を認めるのが当然だ」と予算委員会で質問。安倍晋三首相(当時)は「無期転換ルールへの対応が円滑に行われるよう適切に対応していく」と答弁しました。文科省は無期転換による人件費増を措置し、法の趣旨に沿って研究者の使い捨てに歯止めをかけなければなりません。今こそ政府は、研究者の雇用の安定化に舵(かじ)を切るべきです。


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