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2025年10月25日(土)

高市首相の所信表明演説

大軍拡・改憲へ 社会保障バッサリ

国民の願いに背 維新の要求優先

 高市早苗首相は24日、衆参両院の本会議で所信表明演説を行いました。アメリカ言いなりの大軍拡や改憲に意欲を示す一方で、大企業本位の経済成長を優先し、社会保障は大なたをふるう考えを表明。国民の願い実現には背を向けながら、連立を組む日本維新の会の意向を意識した政策はふんだんに盛り込みました。

米の要求最優先

異次元の大軍拡方針に

グラフ

 高市首相は、アメリカの要求最優先で、異次元の大軍拡方針を打ち出しました。

 2027年度に軍事費を国内総生産(GDP)比2%(約11兆円)に増額する目標について「補正予算と合わせて今年度中に前倒しで措置する」と表明。また、軍事費の2倍化=「GDP比2%」への引き上げを定めた安保3文書を26年末までに前倒しで改定するため、ただちに作業に着手しました。

 この中では、長射程ミサイル搭載の潜水艦導入による敵基地攻撃能力のいっそうの強化や、日本全土のミサイル基地化などが想定されます。

 安保3文書に基づく大軍拡が始まった23年度以降のわずか3年間で、軍事費は防衛省の当初予算だけで3・3兆円増加。教育予算(文教費)の2倍以上になりました。

 25年度の軍事費は、防衛省予算に加えて海上保安庁予算など、北大西洋条約機構(NATO)基準で「国防費」に計上される関連経費を含めると約10兆円に達します(グラフ)。ここから「GDP比2%=約11兆円」を達成しようとすれば、補正予算で約1兆円を計上する必要があります。補正予算は自然災害や経済情勢など、当初予算編成後に生じた事象に対応するのが趣旨です。これを逸脱し、「第2軍事費」に変質させることになります。

 軍事費増額を急ぐ背景には、トランプ米大統領の存在があります。米政権は同盟国に軍事費増額を迫っており、日本にはGDP比3・5%への増額を要求しています。NATOは国防費を35年までにGDP比5%にする目標を決定。28日の日米首脳会談で、日本にも要求が突きつけられることは必至です。

 高市氏は所信表明演説で「主体的に防衛力の抜本的強化を進める」と表明しました。これはトランプ氏から言われる前に、「GDP比2%」超の軍事費増額を“主体的”に約束することを示唆しています。

 GDP比3・5%の軍事費は21兆円に達し、教育予算の数倍です。経済成長も見通せない中、財源の見通しはありません。社会保障切り捨て、大増税、さらに赤字国債の大増発は避けられません。

 沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設の「工事を進める」と明言したことも重大です。技術的にも財政的にも破綻した計画への固執は、米国への忠誠を示すものでしかありません。

「アベノミクス」の焼き直し

破綻済みの大企業優遇

 「この内閣では『経済あっての財政』の考え方を基本とする」―。高市首相は所信表明演説でこう宣言しました。「経済あっての財政」という言葉が意味するのは、大企業本位の経済成長を優先し、「財政健全化」に向けた取り組みは“二の次”にするということにほかなりません。

 高市首相は、故・安倍晋三元首相の経済政策「アベノミクス」の継承を掲げています。所信では「アベノミクス」を彷彿(ほうふつ)とさせる文言をちりばめて経済政策を訴えました。

 たとえば、「責任ある積極財政」の考え方のもと「戦略的に財政出動をおこなう」と表明しました。しかし、財源をどう捻出するかについては触れません。

 また、「成長戦略の肝は『危機管理投資』だ」として大企業へのさらなるバラマキを宣言。「成長戦略を加速させるためには、金融の力が必要だ」と訴えました。

 しかし、「アベノミクス」が当初掲げた(1)財政出動(2)成長戦略(3)金融緩和―の失敗はすでに明らかです。「アベノミクス」によって株価は上昇したものの、金融緩和による円安の加速で物価が高騰しました。大企業や富裕層は減税や規制緩和の恩恵なども受けて潤いましたが、多くの国民は消費税増税に加え、実質賃金の減少や公的年金の支給額の低迷で所得が目減りし、貧困と格差の拡大が進みました。失敗した経済政策の焼き直しでは、国民生活は苦しくなるばかりです。

 高市内閣のもとでは、国民生活の破壊が早くも進められようとしています。とりわけ問題なのが、高市首相が組閣後、いち早く厚労相に指示した労働時間規制緩和の検討です。

 高市首相は、所信では「国民のいのちと健康を守ることは重要な安全保障だ」などと述べています。しかし、労働時間規制の緩和で長時間労働が広がれば、働く人の健康が壊されます。

 高市首相は、自民党総裁就任時、「ワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」などと言いましたが、自分の考えを国民にも押しつけるやり方では、国民の命と健康を守ることなど到底できません。

社会保障抑制路線

弱者いじめの政治継承

 高市氏は、これまで自民党政権が続けてきた社会保障抑制路線を引き継ぎ、さらなる国民負担増で暮らしを冷え込ませる姿勢をあらわにしました。

 高市氏は「人口減少・少子高齢化」を口実に、「社会保障制度における給付と負担のあり方について国民的議論が必要だ」と主張。超党派で有識者も交えた国民会議を設置し、「税と社会保障の一体改革」を議論していく考えを示しました。立憲民主党や国民民主党などを巻き込んだ形で給付削減と負担増を「ともに議論」していく構えです。

 さらに、石破政権下で医療費4兆円削減を決めた自民、公明、維新の3党合意などの「政党間合意」を踏まえ、「OTC類似薬を含む薬剤自己負担の見直し」も明言。「電子カルテを含む医療機関の電子化」「データヘルス等を通じた効率的で質の高い医療の実現」などを「迅速に検討」し、国民の医療情報を企業のもうけのタネにするデータ活用につなげます。

 高市氏は「高齢化に対応した医療体制の再構築も必要だ」として、実質的な病床削減計画「新しい地域医療構想」を策定し、「病床の適正化」を進める考えを示しました。

 こうした医療切り捨てにより「現役世代の保険料負担を抑える」と強弁。「当面の対応が急がれるテーマについては、早急に議論を進める」などと国民や当事者の反対を押し切って強行する構えです。

 さらに、「攻めの予防医療」を掲げ、「健康寿命の延伸を図り、皆が元気に活躍し、社会保障の担い手となっていただけるように取り組む」と表明。社会保障が憲法に基づく権利だという立場とは真逆の「自己責任論」を押しつけています。

 一方、石破政権が「凍結」した高額療養費制度の患者負担増や、高市氏自らがバッシングに加担し、最高裁が違法と断じた生活保護基準の引き下げへの反省には一切言及していません。

 高市氏の社会保障政策は年金や生活保護を削って高齢者や弱者をいじめてきた「アベ政治」そのものです。

「政治とカネ」

裏金への反省 全くなし

 重大なのは、先の参院選で示された国民の要求に一切触れなかったことです。また、歴代政権が曲がりなりにも言及してきた政治改革や社会的課題でも、高市首相の表現は明らかに後退しています。

 とりわけ問題なのは、自民党の裏金事件への反省や対策を全く語らなかったことです。事件発覚後、岸田・石破両政権では、所信表明演説や施政方針演説の中で、少なくとも事件を起こしたことへのおわびや再発防止を含む一定の政治改革の方向を示してきました。

 ところが高市首相は、「政治への信頼を回復するための改革にも全力で取り組む」と述べただけで、「裏金」どころか「政治資金問題」という言葉すら口にしませんでした。

 高市首相はこの間、党役員人事で萩生田光一氏を幹事長代行に起用。さらに副大臣・政務官人事でも、旧安倍派の裏金関係議員7人を就任させるなど、事件を「決着済み」とする姿勢を鮮明にしています。しかし、「政治とカネ」の問題は、自民党が国民の信頼を大きく失った最大の要因です。真相解明や企業・団体献金の全面禁止といった抜本的な対策もないまま幕引きを図ることは、到底許されません。

 また、最優先課題と位置づけた物価高対策でも、踏み込みは見られません。自民党が参院選公約として掲げた現金給付は「国民の理解が得られなかったことから実施しない」と明言する一方、国民が強く求める消費税減税には一切触れませんでした。代わる有効な対策も示さず、無為無策ぶりが際立っています。

 社会問題となっている米不足や価格高騰、米農家への支援にも言及はありませんでした。高市首相は自民党総裁選の所見発表演説でも、具体的な農業政策に一切触れなかった唯一の候補であり、農政軽視の姿勢は一貫しています。

 さらに、憲政史上初の女性首相となりながら、所信表明ではジェンダー平等につながる文言が一切見られません。石破茂前首相が明言していた男女賃金格差の是正も姿を消しました。

 歴代政権同様、核兵器禁止条約にも触れませんでした。核廃絶をめぐっては、岸田文雄元首相が「『核兵器のない世界』に向け、現実的で実践的な取り組みを継続・強化する」と表面上は表明していましたが、石破政権では言及がなくなり、高市首相も一言も触れませんでした。

 他方で、日本維新の会と交わした連立合意文書にある社会保障削減や外国人政策、「副首都」構想などにはしっかり言及しました。国民要求には応えず、維新の要求は最優先―。政権維持と連立のための政策を優先する姿が浮き彫りになりました。

定数削減

悪政を推進する突破口

 自維政権がこの臨時国会で実現をめざす衆院定数削減は、高市首相の所信表明演説では言及しませんでしたが、自民、維新両党は議員立法で法案を提出する構えです。

 維新の吉村洋文代表は議員定数削減について「その入り口を突破しない限り、社会保障やその他さまざまな改革はできない」と述べ、悪政推進の突破口と位置づけており、今国会の一大焦点です。

 両党の連立政権合意書では、「スパイ防止法」について今年から検討を始め、速やかに成立させるとし、憲法に緊急事態条項を創設する改憲条文案は来年度中に国会提出を目指すと明記。医療費4兆円削減などの社会保障改悪も盛り込んでいます。所信表明で高市氏は、軍事費の対国内総生産(GDP)比2%への増額を今年度中に前倒しして達成すると表明。安保3文書の改定も来年中への前倒しを目指すと述べ、来年の通常国会では、悪政推進の法案が目白押しとなる危険があります。

 これらの悪法を強行するために必要なのが、衆院の定数削減です。吉村氏は、最も民意を反映し死票が少ない比例代表を中心に削減していく考えを示しています。

 少数政党を排除して反対意見を切り捨て、自民と維新の独裁体制で悪政を推進するのが、議員定数削減の狙いです。この民主主義を破壊する動きに反対する国会内外の共同が、いま緊急に求められています。

「外国人政策」

共生社会の視点みえず

 政権の基本的な方針を示す所信表明演説で、高市首相は初めて「外国人政策」を打ち出しました。

 高市氏は、人口減少に伴う人手不足の下「外国人材を必要とする分野があることは事実だ」としつつ、「一部の外国人による違法行為やルールからの逸脱に対し、国民の皆様が不安や不公平を感じる状況が生じている」と主張。「排外主義とは一線を画すが、こうした行為には政府として毅然と対応する」とし、政府の司令塔機能の強化や土地取得ルールの在り方の検討を進めるため、外国人政策担当相を新設したとアピールしました。

 人手不足分野での低賃金の労働を外国人に肩代わりさせながら、外国人に対する不安感をあおっています。そこには全ての人の人権や多様性を尊重しながら、「共生社会」をどうつくっていくのかという視点は全くみえません。

 そもそも法務省の「犯罪白書」によれば、刑法犯で検挙された外国人は2004年の1万4766人から23年の9726人へと34%も減っています。生活保護を含め外国人を日本人より優遇する制度もなく「不公平」な実態もありません。

 一方、外国人が文化を理解して日本社会に適応するための十分な政策は行ってきませんでした。外国人のルール違反をことさらに強調し、不公平が生じているかのように描いて対策強化を主張するのは、デマに基づき外国人への差別=排外主義をあおるものにほかなりません。

今後、想定される重要法案

25年臨時国会:議員定数削減
26年通常国会:統治機構改革(副首都)
        国旗損壊罪
        国家情報局創設
        スパイ防止法?
(自維連立政権合意書に基づく)


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