2025年10月18日(土)
2025とくほう・特報
自民党政治に収奪される高齢者
物価高に追いつかない年金微増→その結果、住民税課税世帯に→介護保険料が激増
年金1.3カ月分消えた!!
物価が高騰しているのに年金がまともに増えず、高齢者の暮らしがひっ迫しています。自民公明政権が強行した「マクロ経済スライド」(2004年)で、年金引き上げ率を、物価や賃金の伸び率より低く抑えているからです。そのうえ、わずかな年金の増額などで、非課税だった住民税が課税になり、連動して介護保険料などが跳ね上がるケースが出ています。実態を追いました。(内藤真己子)
87歳 猛暑日に働く
![]() 2023年10月30日 衆議院予算委員会配布資料 |
今年最後の猛暑日となった9月の午後、東京都北区のJR田端駅前にシルバー人材センターのベストを着た87歳のSさんの姿がありました。ゴミばさみを手に、たばこの吸い殻や空き缶を素早く拾って歩きます。首には保冷剤を仕込んだ冷感タオルを巻いていますが10分もするとシャツに汗染みができました。作業は1時間ほどで終了。日焼けした額に流れる汗をぬぐい、ペットボトルの水を飲み干します。「寒いのは着込めばなんとかなるけど、暑いのはどうにもならない」。ここで週5回働き、ほかに週2回、民間アパートの清掃をして月7万円をシルバーから受け取ります。
![]() (写真)駅前を清掃する87歳のSさん=東京都北区 |
高級婦人服メーカーの下請けの縫製会社を経営していました。事務所と自宅が入るマンションを所有していましたが、20年前に経営難で売却。いまはそのマンションの管理業務を引き受け、賃金と相殺して月8・1万円の家賃を払っています。医療や介護の保険料が引かれると年金は月15万円程度です。家賃を払うと手元に残るのは生活保護の生活扶助基準・月7万1900円を下回ります。それでは暮らせずシルバーで働き続けているのです。
いま65歳以上の就業者は年々増え、4分の1が就労しています。働く理由の5割を「経済上の理由」が占めます。
Sさんは今年、大きな負担増に見舞われました。要介護状態だった妻が一昨年死亡。単身世帯になると、これまで非課税だった住民税が課されるようになったのです。65歳以上の年金受給者は、世帯主の年金収入が211万円以下かつ配偶者の年金収入が155万円以下、単身世帯では年金収入155万円以下が住民税非課税ラインで、超えると課税されます。Sさんには新たに年3万1800円の住民税が課せられました。
負担増はそれで済みませんでした。住民税が課税されたことで介護保険料が、第3段階(住民税世帯非課税)の年5万2836円から、第6段階の年9万600円へ一気に跳ね上がったのです。年3万7764円・71%も増えました。
年金は、物価高騰のもとで「マクロ経済スライド」が3年連続発動されました。今年度は物価上昇を0・8ポイント下回る1・9%増で年3万7500円増えます。その一方、住民税、介護保険料、後期高齢者保険料の負担増が合計年7万7000円にもなります。家計には差し引き年4万円もマイナスです。
「こんなに税金や保険料が上がるなんて。食費は2キロ1200円だったコメが2000円に高騰しているのに…。せめて消費税を減税してほしいです」とSさん。
増税の影響が今に
川崎市で妻と2人暮らしのMさん(80)はこの夏届いた介護保険料決定通知を開け、仰天しました。保険料が昨年度の年5万2990円(住民税世帯非課税で第4段階)から第7段階の9万960円へ、3万7970円(72%増)も上がっていたのです。
「驚いて区役所に電話で問い合わせました。係員は『年金が上がって住民税が課税されたからです』と説明しながら、どこか申し訳なさそうでした」とMさん。物価が急騰するなか昨年度の年金は、マクロ経済スライドなどがあり物価上昇より0・5%低い2・7%のプラス改定でした。それによってMさんの年金は、年211万円をわずかに超えました。住民税は前年の所得で決まるため、今年度から課税になったのです。
怒りに堪えないのは、学童保育の元非正規職員で年金が90万円に満たない妻(80)の介護保険料まで、激増したことです。第3段階の3万210円から第6段階の7万9090円へ2・6倍化しました。「えッ、そうなの!」。事実を聞かされたMさんは二の句が継げませんでした。介護保険料は本人が非課税でも同一世帯に課税の人がいると一気に増えます。
年金引き上げに連動し、後期高齢者医療の保険料も上がりました。住民税の均等割5300円に、介護や後期高齢者医療の保険料の負担増を合わせると夫婦で年10万円に及びました。なんと、妻の月7万6450円の年金の1・3カ月分が吹っ飛んでしまいました。「ひどいね。物価上昇分にも満たない年金引き上げで、住民税が課税され介護保険料が2倍以上なんて通らない。非課税基準を是正するべきですよ」とMさんは語気を強めます。
MさんやSさんが住民税課税になったのは、2004年から05年に小泉自公政権が強行した高齢者増税の影響です。内容は(1)税金計算の基礎となる「所得」を算出する際に年金額から差し引く「公的年金等控除」を縮小(140万円から120万円)、(2)65歳以上の高齢者は、所得が125万円以下なら住民税が課税されない「高齢者の非課税措置」の廃止―です。公明党が「基礎年金の国庫負担引き上げの財源にする」と口火を切りました。改悪前は、単身者も夫婦世帯も年金収入265万円以下は住民税非課税でした。
服も外食もがまん
![]() (写真)「もう暮らせない。消費税5%減税を」と声をそろえる右から大場さん、福田さん、小松さんと、福島宏紀元日本共産党北区議=東京都北区 |
蛇行する隅田川に囲まれる東京都北区の豊島5丁目団地(約5000世帯)は築50年を経て高齢化が進みます。90歳で1人暮らしの大場綾子さんの年金は、保険料や税金が天引きされると月14万3000円。年金がわずかに上がったため住民税が1万1000円あがり、1万6500円になりました。
「年金は月3000円も上がらないのよ。どうして税金が増えるの? 物価はトマトだって50円、100円サアーっと上がっていくのに」。物価高騰が始まってから貯金を毎月2、3万円取り崩しています。「高齢者の住民税非課税措置」の廃止がなければ、同じ年金でも大場さんは住民税非課税でした。介護保険料はいまより2万2700円下がります。
自民党政治が続くなかで高齢者の年金は「マクロ経済スライド」導入から20年で実質8・6%減っています。一方、介護保険も後期高齢者医療も保険料は創設時から8回引き上げられました。医療保険の窓口負担や介護保険利用料は1割から2~3割への引き上げが進み、消費税は2度の増税。高齢者は何重にも収奪され貧困が拡大しています。
実際、年金生活者の実質可処分所得は、11年度以降だけでも、同年度の年金額が180万円の単身者(当時75歳・東京都新宿区)で試算すると、169・5万円が、23年度の146・4万円へなんと23万円も減っていました。一方で同時期に企業の法人税率は、30%から23・2%に引き下げられています。
「これじゃあ生活が苦しくなるはずよ」。大場さんの団地仲間、福田ひで子さん(80)と小松明美さん(84)はうなずきあいました。「服は買わない。旅行は行かない。外食しない」。3人は口をそろえます。福田さんは、息子の入院費のため週5日、早朝からビル清掃の仕事をしています。小松さんは「共産党は財源を示して消費税を5%減らせると言っています。安心です。実現してほしい」。
全日本年金者組合中央本部の廣岡元穂副委員長は訴えます。「社会保障改悪と増税で年金生活者の実質可処分所得は減少しているところへこの物価高騰。年金は実質削減で追いついていません。マクロ経済スライドを廃止し、消費税を5%引き下げることが欠かせません」











