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2025年10月16日(木)

2025とくほう・特報

スパイ防止法 何狙う

競い合う自国維参

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(写真)中谷弁護士を講師に「スパイ防止法」の危険性について学ぶ会場いっぱいの参加者=13日、名古屋市(写真・前田智也)

 「スパイ防止法」制定を競い合う「反動ブロック」の動きが活発化しています。40年前に国会に提出された同法は「国民の目、耳、口をふさぐ悪法」だとして反対運動が盛り上がり、廃案になった「亡霊」です。それを今なぜよみがえらせようとするのか、その危険な狙いは何か、識者とともに考えました。(伊藤紀夫)

立法する合理性なし

 自民党総裁に選出された高市早苗氏は「インテリジェンス関係省庁の司令塔としての『国家情報局』の設置、『スパイ防止法』の制定に着手します」と公約しました。国民民主党、日本維新の会、参政党も臨時国会での提出に向け、法案の準備を進めています。

 これらの党は「日本はスパイ天国」とはやしたて同法の制定を大合唱していますが、それは事実なのか。

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(写真)中谷雄二弁護士

 「秘密法と共謀罪に反対する愛知の会」共同代表の中谷雄二弁護士(自由法曹団常任幹事)は言います。「今、日本がスパイ活動で被害を被ったという具体的な事実はありません。政府も8月15日、質問主意書に対する答弁書で、各国の諜報(ちょうほう)活動が非常にしやすいスパイ天国であり、スパイ活動は事実上野放しで抑止力が全くない国家であるとは考えていないと回答しています。だから、立法事実そのものが極めてあいまいです」

 1985年に自民党が提出した「国家秘密に係るスパイ行為等の防止に関する法律案」は、国防・外交にかかわる「国家秘密」や「探知・収集」「外国に通報」などの行為類型が広範囲・無限定で、国会議員の国政調査、報道や言論活動、市民の日常会話まで監視・摘発・処罰の対象とする悪法で、廃案になりました。

 その後、安倍晋三内閣から政府は、米国とともに戦う集団的自衛権の行使容認、安保法制、大軍拡と敵基地攻撃体制の整備とともに、特定秘密保護法、共謀罪法、経済秘密保護法、能動的サイバー防御法と国民を監視する治安立法を次々に制定してきました。その上に「スパイ防止法」を制定する必要があるのか。

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(写真)齋藤裕弁護士

 「排外的な雰囲気に乗った合理性のない動きです」と日本弁護士連合会元副会長の齋藤裕弁護士は批判します。「高市さんは重要経済安保法(経済秘密保護法)の担当大臣で、秘密保護法と重要経済安保法でシームレス(切れ目なく)に秘密漏えいに対応できると言っていた。今これでは足りないと言うなら彼女の失策ということになるでしょう」

 齋藤さんは「日本には国家公務員法、地方公務員法、自衛隊法など、広い範囲で公務員の秘密漏えいを防ぐ法律があり、さらに秘密保護法などが制定されて多層的になっています。その上にスパイ防止法を積み重ねるのは屋上屋と言えます。秘密保護法は懲役10年が最大ですが、85年の法案や米国のスパイ防止法の最高刑は死刑なので、法定刑の大幅引き上げを考えているかもしれません。しかし、これまで秘密保護法による起訴は1件もなく、刑罰を発動する案件がないのに、法定刑を引き上げる必要性はありません」。

日本版CIA創設も

 立法の理由がないのに、なぜ法制定を急ぐのか。中谷さんは「スパイ防止法というのは、戦争状態にある敵国を大前提にして、敵の手先を摘発して処罰するものです。すでに秘密保護法で『特定秘密』としている4情報の中には防衛、外交のほか、『特定有害活動』というスパイ活動が含まれています。スパイ防止法の狙いは、たとえ秘密保護法違反に問えなくても、スパイが何かやっていることをつかんで処罰すること、それをあぶり出す国民監視体制として中央情報機関JCIAを設立することにあると思います」。

 すでに維新は参院選で「米国のCIAのような『インテリジェンス』機関を創設する」と公約。1日に発表した「スパイ防止法」などの策定に関する中間論点整理で、CIAにならった「独立した対外情報庁の創設」を盛り込みました。

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(写真)井原聰東北大学名誉教授

 経済秘密保護法や能動的サイバー防御法を批判してきた井原聰東北大学名誉教授(科学史)は「ここ10年、秘密保護法など戦時立法に近い法律が次々に制定されました。どれも憲法に遠慮しながら、ぎりぎりのところまできましたが、スパイ防止法はその遠慮を全部取り外す法律だと思います。能動的サイバー防御法で個人情報を監視するシステムとして経済産業統制で言えば14業種230社や先端技術分野が対象になっています。こうした分野の情報を吸い上げてコントロールするには今の体制では不十分だとして、スパイ防止法の網をかけて取り締まる強力な体制・情報機関をつくろうとしているのではないか」と話します。

 国民民主党は7日、スパイ防止法などに関するワーキングチームの第1次中間報告を発表し、6法案を提案。その一つ外国勢力活動透明化法は外国政府などの代理人が日本国内で行う政治的ロビー活動を登録し、一部を公開させるもので、米国の外国代理人登録法を想定しています。維新も外国代理人登録法の制定を掲げています。

 齋藤さんは「米国では最近、韓国出身の国際関係の専門家が韓国政府の代理人として活動していたのに登録しなかったということで裁判になっています。この人が韓国のハンドラー(情報機関の担当者)に質問して記事を書いたのに、登録していないことなどについて問題だというものです。これは普通の取材で、外国に取材して書いたら罪に問われるのかとすごく批判されています。だから、かなり拡大解釈される可能性が高い法律で、政敵を追い落とすためにも使われ、問題になっています。そういう表現の自由を侵害する法律を、立法事実もないのに制定しようというのは非常に問題です」と批判します。

思想「洗い出し」弾圧

 参政党の神谷宗幣代表は参院選の街頭演説で、公務員について「極端な思想の人たちは辞めてもらわないといけない。これを洗い出すのがスパイ防止法です」と発言しました。

 「米国では第1次世界大戦中の1917年にスパイ防止法ができました。敵国の手先だと見なされたら、反戦活動をした人たちも処罰され、その言論そのものが差し止められました。ソ連を敵国とした冷戦の時代にはマッカーシーの『アカ狩り』で大掛かりなレッドパージが起きました。レッドパージは戦後の日本でも吹き荒れ、公務員や民間企業労働者が職場から排斥されました。スパイ防止法を通せば、そういう危ない状況がつくられかねず、戦前の治安維持法や軍機保護法などによる国民弾圧と同じようなことが起きる危険があります」。中谷さんは力を込めます。

 「自分たちの自由を手放していいのか。今必要なのは網の目のような学習運動です。多くの人に知ってもらうため、小さな単位を含めた運動を急速に広げたい。僕は今足をけがしていますが、出かけて訴えます」


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