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2025年10月11日(土)

2025焦点・論点

「失われた30年」脱却の道筋は

「東京商工リサーチ」常務取締役・情報本部長 友田信男さん

消費税は“最も払えない税金” 減税で経済再生への好循環を

 倒産や休廃業などの推移をつぶさに見てきた企業調査のプロ、民間調査会社「東京商工リサーチ」の友田信男常務取締役・情報本部長は「日本経済再生のもっとも有効な手段は、消費税減税だ」と語ります。その理由を聞きました。(本田祐典)


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(写真)ともだ・のぶお 1980年、東京商工リサーチ入社。2008年12月、参院経済産業委員会でリーマン・ショック後の中小企業動向を参考人として意見陳述。東日本大震災後の11年4月から14年9月まで外部専門家として同委員会調査室の客員調査員。15年から同社常務取締役。

 ―日本経済が「失われた30年」と呼ばれる長期停滞に陥った原因をどう考えますか。

 失われた30年、つまり1990年代のバブル崩壊後から現在に至るまでの期間に共通するのは、一貫して働く人の賃金が伸びていないという事実です。

 賃金が増えなければ個人消費は低迷し、企業の生産活動や設備投資も停滞します。直近も実質賃金が前年同月比で目減りし続けていて、失われた30年は“継続中”です。

 この状況で国民の購買力をさらにそいだのが、たび重なる消費税増税です。物価高と重なって国民生活を直撃し、景気停滞を決定的にしました。

 とくに、飲食業などのサービス業や農林水産業に影響が色濃く出ています。消費者の財布のひもが固くなると真っ先に売り上げが減る業種だからです。

 たとえばラーメン店の倒産は昨年、過去最多の57件(休廃業・解散を除く)にのぼりました。ラーメンには、消費者が受け入れない「1000円の壁」があると言われ、物価高でも超えないように経営者が苦心してきました。しかし消費税増税がその努力を台無しにしてしまい、値上げを避けられなくなってきています。

 ―賃金が増えず、消費者が値上げを受け入れるのは容易ではありません。

 結果として、客足が遠のくわけです。消費税によって物が売れなくなるという、本末転倒な事態です。飲食店だけでなく、多くの中小・零細企業がこうした問題に直面しています。

 地域で頑張っているお店や国内の産地を消費で応援するには、生活にもっとゆとりが必要です。そのゆとりが消費税で奪われています。

 ―世論調査で消費税減税を求める声が多数です。

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 日本経済が失われた30年から抜けだすには、国内総生産(GDP)の半分以上を占める個人消費を温めることが必要です。つまり、物が売れない“消費不況”を解決することが最重要課題です。

 個人消費を活性化させる最も強力で即効性のある政策が、消費税減税あるいは廃止です。消費低迷による企業の業績悪化、低賃金、さらなる消費不況という悪循環を断ち切り、経済をダイナミックに動かすためには、消費税に大胆にメスを入れるべきです。

 消費税は93年以降、“日本でもっとも払えない税金”になり、毎年あらたに発生する国税の滞納のなかで最も多い額を占めています(グラフ①)。赤字企業でも減免されないので、特に経営への影響が大きい税金です。

 この消費税の新規滞納額は、2014年増税と19年増税のそれぞれ翌年に急増しました。2度の増税が消費マインドを冷え込ませる決定打となり、資金繰りに苦しむ中小企業が増えたということです。売り上げ時にもらった消費税を運転資金に回すほど経営が悪化し、納税時期には手元に残らない状況です。

 ―19年の消費税増税時に政府は、倒産の減少を根拠に好景気を主張しました。当時からこれに異議を唱えていましたね。

 政府がいう倒産減少は、私たちが調査したものです。しかし、好景気の証拠にはなりません。このときすでに倒産件数は景気のバロメーターとしての機能を失っていました。なぜなら、リーマン・ショック(08年)以降の金融支援で倒産が政策的に抑え込まれてきたからです。

 景気の実態を知るには、負債1千万円以上を残した倒産の件数だけでなく、休廃業や解散を含めた市場から退出した企業「退出法人」の推移を見る必要があります。19年の増税当時、この退出法人が急増していました。(グラフ②)

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 全体の法人数に占める退出法人の割合「退出率」も増え続け、15年からの10年間で約1・5倍に増えています。産業別にみても10産業すべてが悪化しています。(表)

 ―同じ時期に自動車など一部の輸出大企業は過去最高の売り上げを記録してきました。

 そういった大企業を支援して成長させても日本経済全体は上向きませんでした。「失われた30年」は、大企業が生産拠点を海外に移し、国内で非正規雇用を増やした時期と重なります。これによって、国内経済が低迷しても一部の大企業は成長する“いびつな状態”になっています。

 株高や円安を誘導したアベノミクス(13年以降の安倍政権による経済政策)も、恩恵を受けたのはごく一部の大企業や富裕層です。企業のもうけが働く人にまで広がる「トリクルダウン」は起きず、もうけは企業の内部留保(ため込み金)になりました。国民にとっていちばん肝心な賃上げは、予想通りの失敗に終わりました。

 ―アベノミクス継承を掲げてきた高市早苗衆院議員が自民党新総裁に就任しました。

 アベノミクスは国民の生活実感からかけ離れた経済政策だったと言わざるを得ません。大企業など上から経済を良くする路線を継承せず、国内消費を温めて下から底上げする経済政策に転換すべきです。高市氏の総裁就任後に円安がいっそう進行しており、仕入れ価格上昇などでさらなる物価高を引き起こすことが危惧されます。国民の購買力を支える施策がますます求められます。

 ―金融支援で押さえ込んできた倒産件数も増加に転じ、24年は11年ぶりに1万件を超えました。

 政府がリーマン・ショックや新型コロナ禍といった未曽有の危機のなかで進めたゼロゼロ(無担保・無保証)融資などの金融支援は、多くの中小企業の倒産を防いだという意味では有効でした。問題は、貸しただけになっていて、企業の業績が上向くような対策がないことです。いわば「止血なき輸血」です。

 ゼロゼロ融資も結局は借金なので、いずれ返済しなければなりません。消費不況で業績回復に温度差があり、多くの企業が過剰債務を背負う結果になっています。こうした企業が息切れし、倒産や廃業に追い込まれるリスクが非常に高まっています。

 ―「消費税は社会保障を支える安定財源」と政府が必要性を宣伝する一方で、当の医療機関や介護事業者は消費税による収支悪化を訴えています。

 昨年は医療機関の倒産が64件、介護事業者の倒産が172件となり、いずれも過去最多を記録しました。消費税が医療機器や介護資材などにも課税され、経営を直接圧迫しています。増税時に診療報酬や介護報酬を改定して補填(ほてん)したのも微々たる額で、コスト増に見合っていません。

 消費税収が国民の将来不安を解消する使われ方をしているとは到底言えません。むしろ、消費税の負担が社会保障の基盤を崩しているのが現実です。

 ―消費税減税で期待される効果は?

 減税決定から実施までに多少時間がかかるとしても、政府が減税を宣言した瞬間から絶大なアナウンス効果が生まれるでしょう。将来の負担が減る安心感と期待感で、消費マインドは一気に上向きます。

 ただし、「食料品だけ非課税」のように税率が違う品目を増やすと、その対応が企業の負担になります。また、弁当を非課税にする一方で飲食店を10%課税のままにすれば、ますます客足が遠のくでしょう。一律に減税すべきです。

 減税によって将来の消費需要が見込めれば、企業も設備投資を積極化していきます。経済が上向く中で、中小企業の賃上げも可能となるでしょう。そうなれば、さらなる消費の拡大を呼んで、経済の好循環が生まれます。


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