2025年10月3日(金)
2025焦点・論点
「こども食堂」名乗らない訳は?
「気まぐれ八百屋だんだん」店主 近藤博子さん
善意頼り貧困放置の国に物申す 優しい社会へ声をあげ動かそう
今、全国で1万カ所を超えて広がる「こども食堂」。その名付け親と言われる東京都大田区の近藤博子さんが今春、その名前を使わないと宣言しました。それはなぜか、「気まぐれ八百屋だんだん」の店主として13年間、「こども食堂」を続けてきた近藤さんに聞きました。(伊藤紀夫)
![]() (写真)こんどう・ひろこ 1959年島根県生まれ。一般社団法人「ともしびatだんだん」代表理事。「気まぐれ八百屋だんだん」店主。歯科衛生士。第57回吉川英治文化賞を受賞。 |
―近藤さんが2012年に「こども食堂」を始めたきっかけは何ですか。
私はもともと歯科衛生士です。07年に「歯・健康・食」をつなげた地域活動をしたいと思い、仕事をパートに切り替えて友人の自然食品の店を手伝い、チラシに「歯の話」を書いていました。
その中で、週末だけの野菜配達を頼まれ、引き受けました。さらに店舗での販売もお願いされ、商売のことを「知らぬが仏」で、08年から始めたのが「気まぐれ八百屋だんだん」です。毎日ではないので「気まぐれ」、「だんだん」は「ありがとう」を意味する島根県の方言です。
そこに買い物に来た近所の小学校の副校長から「お母さんが心の病で、給食以外、朝と晩はバナナ1本で過ごしている子どもがいる。私がおにぎりを作ってきて、保健室で食べさせて給食までつないでいる」という話を聞きました。
その子どもの姿を想像して、ものすごく切なくなり、先生に「ここに厨房(ちゅうぼう)もあるし、みんなでご飯食べればいいんじゃないですか」と提案したのが、きっかけです。
翌日から仲間に声をかけて話し合いを始めましたが、なかなか決まらず、1年ちょっとたちました。そんな中、その子が児童養護施設に入ったという話を聞き、「とにかく始めるしかない。カレーを作ってやろうよ」という感じでした。
こんなふうに、これをやりたいからというより、いつも地域のニーズ(要求)があったからやってみようかと始めた活動ばかりです。
![]() (写真)「気まぐれ八百屋だんだん」ののれんの前で食事をする子どもたちも(近藤博子さん提供) |
―草分け的存在の近藤さんが「こども食堂」を名乗るのをやめたのは、なぜですか。
なぜ「こども食堂」と名乗らなくてはいけないのだろうか、大事なのは何か、もう一度、立ち止まって考えてみる必要があるのではないか。これが私自身の素直な気持ちです。
そもそも私は、隣のおばちゃんが隣の子どものことを気遣う社会や地域がいいんじゃないかなという思いから始めたわけです。それが全国に広がりましたが、たくさんの子どもが「こども食堂」に来るのがいいわけでありません。それで困っている子どもや人を思いやれる社会に本当になってきたかどうかが、肝心の問題です。
ところが今、人に手を差し伸べる優しい社会とは逆の方向に進んでいます。そのことに物申したい気持ちもあります。
―物申したいこととは、どんなことでしょうか。
国はもういいかげんにしろと本当に思います。子どもの貧困や奨学金の問題にしろ、シングルマザーの問題にしろ、親の就労の問題にしろ、本気で考えず、もう何年、善意のボランティア団体にやらせるつもりでしょうか。
私たちだけじゃなく、そういう団体はいっぱいあり、苦労してやっています。ただ働きをしてくれる「駒」を動かして、「ありがとう」というだけの行政はおかしいですよね。
少子化、高齢化で働き手が少なくなる中で問題解決にスピードが求められる時代に、国はいつまでちんたらやっていくつもりなのかと思います。
いじめや不登校が増えています。親たちは「子どもに向き合う先生の人数をもうちょっと増やしてくれたら、うちの子も学校に行けたかもしれない」と言い、先生たちは「副担任をつけてくれるだけでも改善できる部分はある」と語っています。
できることがあるのに何もしなければ結局、被害を受けるのは子どもたちです。その実態を見て見ぬふりをするのではなく、子どものためにちゃんと税金を出すべきです。
学生だって貧困の連鎖を断ち切るために頑張って勉強しても、就職先は低賃金で無権利な非正規が多いじゃないですか。しかも今、企業はどんどん「青田買い」しています。親は一生懸命働いて高い学費を払い、勉強して人間として成長してほしいと思っているのに、就職難でそれさえ許されない社会になってしまっています。
そういう問題を政府はもっとていねいに議論して、どうするかを本気で考え、対策をとるべきです。
首相はコロコロ代わり、首相が誰になるのだろうと大騒ぎしていますが、肝心の問題については何の議論もしていません。食べ物がなくて困っている人など大変な状況にある人たちは大変なままです。
都庁前での食料支援に何百人も集まるような日本でいいのか、その中で生きている子どもたちの将来はどうなるのか、首相や知事など行政のトップが問題に向き合わない姿勢に危機感をすごく感じます。
「こどもまんなか社会」とか、「誰一人取り残さない社会」とか、口で言うのは簡単です。
それを本当にやろうとするならば、国や行政はもっと真剣に考えて取り組まなければいけないと思います。国も行政も何もしていないわけではないけれど、お金のばらまきではなく、根本のところを変えていくべきです。
―ボランティアまかせで問題を放置している国や行政の姿勢、税金の使い方が問われていますね。
「こども食堂」だけの問題ではないんです。今もっと大変な問題がいっぱい起きていることをしっかり見て、何かしら発信していかなければならないと思っています。
私一人が言ったって、大したことはできません。しかし、発言する人の数が増え、声が大きくなっていくことで、国なり行政なりが無視することができないようにしていくことが大事だと思います。
「こども食堂」を名乗らないだけで、活動をやめたわけではありません。
毎週木曜日午後5時半から7時までお弁当を出しています。親が残業だったり、シングルの母親で忙しかったりして8時になることもあります。その活動は今後も続けていこうと思っています。










