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2025年9月23日(火)

在日米兵有罪でも執行猶予判決なら帰国

米国の方針 事実上の無罪放免

 昨年9月に神奈川県横須賀市で、米兵が運転する車が追突しバイク運転者を死亡させた事故の刑事裁判を巡り、在日米軍が、執行猶予付きの有罪が確定した場合に被告を本国に帰国させる方針を採っていることが明らかになりました。同裁判の今年5月の判決で、禁錮1年6月、執行猶予4年が確定。執行猶予期間が終わっていない段階での帰国は事実上の「無罪放免」といえます。


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(写真)米軍側が裁判官に提出した書簡。「米国の方針として、執行猶予付き判決が確定した場合、被告を本国へ移送することを迅速に検討することになっている」などと記載。

 米海軍横須賀基地所属のヤノス・ジェイデン・エドウィン被告(当時22)は昨年9月、横須賀市内の国道で乗用車を運転中、右折禁止の交差点を右折して伊藤翼さん(当時22)の乗るバイクと衝突、伊藤さんを死亡させたとして過失運転致死罪に問われました。

 公判で被告弁護側は、在日米海軍の法務部長から裁判官に宛てた異例の「書簡」を証拠として提出。書簡は「米国の方針として、仮に執行猶予付き有罪判決が確定した場合、被告人を米国本土へ移送することを迅速に検討することになっている」と記載。移送の理由に「再度逮捕されれば長期の自由刑(受刑者の移動の自由を制限する禁錮刑など)となる可能性があることから最も例外的な事案を除き、この措置が適切である」などと米兵を守ることを最優先にする考えを説明しています。

 遺族は執行猶予なしの判決を求めていました。米軍側がこうした方針を伝えたことが圧力となり執行猶予付きの判決につながった可能性は否定できません。

死亡事故の加害米兵 すでに米本土異動/民事裁判に障害

 裁判を通じ、在日米軍が日米地位協定上の特権を利用し、拘束や処分を免れている実態が浮き彫りになっています。

公務外も米側に身柄

 ヤノス被告は同事故の直後、日本の警察ではなく、米憲兵隊に通報。そのまま憲兵隊に連れられ横須賀基地に戻っています。被告は「在日米軍内では、事故などを起こした場合、まず憲兵隊に連絡するよう言われている」と証言しています。日米地位協定17条は、今回の事件のような米兵らによる「公務外」の事案について日本側に第1次裁判権があるとしていますが、身柄を米側が確保した場合は、日本側が起訴するまで米側が拘禁を続けることができるとしています。兵士らに憲兵隊へ事故等を通報させることで、日本側の拘束を遅らせ、証拠隠滅などを図る余地を与えています。

免許なしで運転可能

 被告は在宅起訴となり、起訴後も米側に身柄を置き続けていたとみられます。死亡事故を起こしながら、基地内で「週に4日ほど運転をしていた」と公判で証言。通常であれば、被害者死亡という重大な事故の場合、加害者は運転免許証取り消しなどの行政処分を受けます。しかし、地位協定10条で、米国は軍人やその家族に対し自動車運転の「許可証」を発給し、日本の運転免許証がなくても日本での運転が認められています。また、日本政府は2009年の閣議決定で、在日米軍関係者が交通違反などを行った場合でも、日本側が米国発給の運転「許可証」の取り消しや停止はできないとの見解を示すなど、行政処分免除の特権を与えています。

地位協定改定は急務

 在日米軍側はヤノス被告について「今夏に米国に異動となった」とのみ回答し、所在を明かしていません。遺族は今後、損害賠償を請求する民事裁判を起こす考えですが、被告の所在を調べる必要もあるなど、困難が予想されます。

 また、民事裁判を起こし賠償金支払い命令が出された場合でも、地位協定18条は米軍関係者犯罪への賠償金の支払いについて「公務外」であれば米側に支払い義務はないと規定するなど、米側に圧倒的に有利な規定を定めています。米国言いなりに在日米軍に最大の特権を与え、被害者に泣き寝入りを強い続けている日米地位協定の改定がいよいよ急務です。

米兵守り 被害者は無視

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 米兵犯罪に詳しい中村晋輔弁護士の話 米兵が被告である刑事裁判で、執行猶予付き有罪判決が出ても、被告を帰国させてしまっては意味がありません。判決が無駄になります。

 執行猶予の趣旨は、本来は刑務所に入るべきところを社会のなかで更生の機会を与えるものです。帰国させれば、その機会は失われます。日本で再び犯罪を起こせば執行猶予が取り消される可能性は高いものの、国外での再犯は外国の法律で裁かれ、日本での執行猶予は考慮されないと考えられます。

 被害者が損害賠償を求めることも難しくなります。訴状の送り先など、相手の居場所がわからなくなり、賠償金を支払わせるのも困難です。

 執行猶予中に帰国させる米側の方針は、米兵を守ることばかり考えており、被害者側のことは一切考えていません。沖縄の米兵犯罪の被害者をはじめ、被害者は長年、同じような苦しい思いをしてきました。日本政府は主権国家として、米軍や米政府に対し、きちんと日本の司法に服するよう言うべきです。


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