2025年9月20日(土)
主張
対米投資の覚書
不平等な取り決めは撤回せよ
赤沢亮正経済再生相とラトニック米商務長官が署名した対米投資についての覚書(4日)は一連の日米関税合意の中でも不公平で重大です。
日本から5500億ドル(約80兆円)もの巨額のお金を米国の半導体や医薬品、エネルギー、人工知能(AI)を含むさまざまな分野に投資(融資含む)させられます。しかも、投資先を決めるのはトランプ米大統領です。
大統領は、商務長官が議長を務める「投資委員会」が推薦した案件から投資先を選定します。日本側はこの委員会に入れません。米側と案件を事前に協議する「協議委員会」には日本側の委員も入れますが、そこでは意見を言うだけで投資先の選定には関われません。
■半ば恐喝のような
覚書は、トランプ大統領が決定した案件に日本が資金提供しない場合、日本からの輸入品に関税を課すこともできると制裁的な措置まで盛り込んでいます。また出資先からの利益の分配も、出資等の終了後は米国が90%、日本が10%と米国側に一方的に有利なものとなっています。
覚書のあまりのひどさに、民間のエコノミストからも「米国主導、米国優位の枠組みとの性格が強い。日本にとってはかなり不平等な取り決め」(野村総合研究所の木内登英氏)、「『投資対象は米国が決定し、利益も米国に帰属し、資金を出し渋ったら関税を引き上げる』という半ば恐喝のような建付け」(みずほ銀行の唐鎌大輔氏)との指摘が出されています。
欧州連合(EU)が約束した米国への投資は民間主導ですが、日本は政府系金融機関の国際協力銀行や日本貿易保険の保証付きなど公的な投融資です。
トランプ大統領は自身の支持基盤であるラストベルト(さびれた地域)を念頭に「日本のお金で数十万人の雇用を生み出す」とたびたびSNSで表明しています。日本の公的な資金がトランプ大統領の選挙対策に使われることになりかねません。
■焦げ付きの危険性
日本側のチェックがほとんどできないまま、採算がとれない案件がどんどん通り、投融資の焦げ付きによる日本の国民負担が生じる危険性があります。
国際協力銀行法には、日本にとって利益や採算の見込みがない案件には投資できないとの趣旨が書かれています。日本共産党の大門実紀史参院議員は予算委員会(12日)で、「米国から『将来、日本のメリットになる』などと強引に押し付けられた場合、拒否できないのではないか」「焦げ付きが出たら誰が責任を取るのか」と追及しました。
19日の予算委員会での田村貴昭衆院議員の質問に対し、赤沢経済再生相は協議委員会に投資先候補を決定する権限がないことを認めました。日本側が採算を見込める案件が選ばれる保証はなく、資金提供を拒否することも極めて困難な覚書です。
政府系金融は国債と税金など公的資金で支えられており、巨額のリスクを日本国民がかぶる恐れがあります。不平等な取り決めは撤回するしかありません。








