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2025年9月18日(木)

安保法制強行あす10年

対中国 進む日米一体化

統幕文書「予告」通りに

 戦後の安全保障法制を根幹から覆し、米軍のあらゆる戦争への参戦に道を開いた安保法制=戦争法の強行から、19日で10年になります。日本が米中覇権争いの「最前線国家」にされようとする今、日米の一体化はどこまで来たのか、検証しました。(長谷部早大教授に聞く)


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(写真)統合幕僚監部内部文書

 「戦争法案反対」を連呼する無数の市民が国会を包囲していた2015年8月、日本共産党は、「安保法制成立後」を構想していた防衛省統合幕僚監部の内部文書を入手しました。

 安保法制の狙いは、「平時」から「戦時」にいたるまで、切れ目のない日米一体化を確保することです。内部文書は、安保法制と日米軍事協力の指針(ガイドライン)に基づく「主要検討事項」として、東シナ海での「ISR(情報収集・警戒監視・偵察)」と、南シナ海への「関与のあり方について検討」すると明記していました。狙いが中国にあることは明らかです。

「空母化」想定

 この「予告」は、現実のものとなりました。海上自衛隊は17年から毎年、ヘリ搭載型護衛艦「いずも」「かが」を中心とした艦隊が南シナ海・インド洋への長期航海を実施。米軍に加え、「同志国」との訓練を繰り返しています。「いずも」「かが」はF35Bステルス戦闘機を搭載し、違憲の「攻撃型空母」化が狙われています。

 東シナ海では、海自艦が昨年9月、今年2月と相次いで台湾海峡を通過したことが明らかになりました。米軍は「航行の自由」作戦と称して、台湾海峡を定期的に通過し、中国を挑発しています。近年は北大西洋条約機構(NATO)加盟国の艦船も動員。海自も事実上、「航行の自由」作戦に参加したといえます。事態がエスカレートすれば、「参戦行為」とみなされる危険な動きです。

同盟国「防護」

 安保法制に基づく運用面が最も進んでいるのが、改定された自衛隊法95条の2に基づく「武器等防護」です。共同訓練などの際、自衛隊が「平時」から米軍などを防護し、「必要」な場合、武力行使を可能にするというもの。脱法的な集団的自衛権の行使です。17年から米軍、21年からオーストラリア軍、今年8月には、英軍を初めて「防護」。防衛省によれば、17~24年で米軍に140件、豪軍に10件、「防護」を実施しています。

 日本の安全保障政策は、日本の国土に攻撃を受けた際、初めて武力行使する「専守防衛」を基本としています。しかし、米中覇権争いの中で、東シナ海・南シナ海の広域での運用が常態化しているのが実態です。

共同訓練 質量とも強化

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(写真)「アイアン・フィスト」の上陸訓練で、海岸に展開する米海兵隊員(手前)。奥は陸上自衛隊員=3月1日、沖縄県金武町

 安保法制の下で、質量ともに強化されているのが、米軍をはじめとする他国軍との共同訓練です。

 2021年に始まった陸上自衛隊と米海兵隊の「レゾリュート・ドラゴン」は、当初は北海道・東北で行っていましたが、23年から南西諸島で重点的に実施。特に沖縄を中心にミサイル部隊を展開しています。24年には陸上自衛隊の長射程ミサイル「12式地対艦誘導弾」を石垣、宮古島、沖縄本島で、25年には米軍の最新型ミサイルや防空システムを石垣島などに展開します。日米共同による指揮機関訓練を九州・沖縄の各地で行い、自衛隊を米軍の指揮下に置く「指揮機能の統合・強化」を具体化しています。規模も25年は1万9200人と、2年前より3倍に増えました。

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 05年から米国で行っていた陸自と米海兵隊の「アイアン・フィスト」も23年以降は九州・沖縄で実施。同訓練は、“自衛隊版海兵隊”と呼ばれる水陸機動団と米海兵隊の統合が目的です。海から陸に侵攻する「強襲揚陸作戦」の能力を日米共同で高め、南西諸島で中国に対抗することを狙っています。規模も毎年拡大。特に米側の参加者は3年間で3倍以上に増えました。

 米軍以外にも「パートナー」と位置づける他国軍との訓練強化が進められています。背景には「同盟国・同志国」を総結集して中国に対抗する米戦略があります。顕著なのは「準同盟国」と位置づけるオーストラリア軍との連携強化です。

 21年には海上自衛隊護衛艦がオーストラリア海軍のフリゲート艦に武器等防護を初実施。22年には日豪両政府は共同訓練を容易にするための「円滑化協定」(RAA)に署名しました。

 日米共同で行っていた訓練にオーストラリア軍が加わり日米豪の訓練も増えています。23年には共同指揮所訓練「ヤマサクラ85(YS85)」、24年には共同統合演習キーン・エッジに豪軍が初めて参加。今年9月16日から始まった実動訓練「オリエント・シールド」にも初めて豪軍が参加し、新潟などで共同実弾射撃訓練などを行います。

司令部統合で“完成形”

 安保法制の“ひな型”となった2015年4月の日米軍事協力の指針(ガイドライン)に、事実上の日米戦争司令部である「同盟調整メカニズム」(ACM)設置が明記されました。安保法制強行後の同年11月には、米軍・自衛隊の「共同運用調整所」(BOCC)設置が合意されました。

 ただ、この段階では、日米司令部間の意思疎通は「調整」にとどまっていました。次の段階は、日米司令部の「統合」です。

 自衛隊では18年ごろから「統合司令部」設置へ研究を開始。今年3月、陸海空部隊を束ねる統合作戦司令部が発足しました。さらに、現在は基地管理など行政的な権限しか有していない在日米軍司令部を、「戦闘司令部」に更新する計画も進行しています。

 日米の指揮統制をめぐり、米国防総省(現・戦争省)のコルビー次官は今年3月の議会証言で、有事には韓国軍が米軍の指揮下に入る米韓同盟をモデルとしてあげました。日米の従属的同盟関係の“完成形”と言えるものです。

立ちはだかる憲法9条

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(写真)国会を取り囲み、戦争法案廃案、安倍首相退陣を求めてコールする人たち=2015年8月30日、国会正門前

 戦後の安全保障法制を根幹から覆すことを狙った安保法制。そこにあるのは、憲法9条に対する激しい敵意でした。歴代政権は9条に基づく“制約”として、武力行使が許容されるのは自国に対する攻撃があった場合に限り、他国の武力行使に参戦する集団的自衛権の行使を禁じてきました。これ以外にも、「他国の武力行使と一体化しない」「攻撃的兵器は保有しない」など、憲法9条が、日米の軍事一体化にさまざまな“制約”をもたらしてきたのです。

 2000年10月、アーミテージ米国務副長官ら「知日派」が、集団的自衛権を行使しないという政府解釈は「同盟の障害」だとして公然と攻撃。これに歩調を合わせるように、集団的自衛権を行使しないのは「禁治産者」だとして政府の憲法解釈への攻撃を公然と繰り返してきたのが、安倍晋三氏でした。

 首相の座についた安倍氏は内閣法制局長官の首をすげかえて、14年7月、集団的自衛権行使の「限定的容認」を閣議決定。15年9月、米軍のあらゆる戦争への参戦に道を開く安保法制を強行しました。

 さらに22年12月、岸田政権が、安保法制の枠組みに基づき、戦後の安保政策を「実践面から大きく転換」するとした安保3文書を決定。歴代政権が「違憲」と判断してきた敵基地攻撃能力の保有や、憲法に基づく「平和国家」の理念から、「国内総生産(GDP)比1%」に抑えてきた軍事費の「GDP比2%」=2倍化、年11兆円規模への道に踏み出しました。

 並行して、日本は軍事が大手を振って歩く「軍事優先国家」に変貌。(1)空港・港湾の軍事利用と地方自治体の軍事動員(改定地方自治法)(2)学問の軍事動員(改定学術会議法、軍事研究の加速)(3)武器売買の加速と軍需産業の育成(4)市民監視・情報統制の強化(特定秘密保護法、共謀罪法、改定ドローン法、土地利用規制法、経済秘密保護法、能動的サイバー防御法の強行)(5)自衛官募集の拡大―といった動きが加速していきました。

 これに対して、市民は声を上げ続けてきました。2015年の夏、「立憲主義を守れ」と10万人を大きく超える人々が国会を取り囲み、「市民と野党の共闘」が生まれました。そしていま、南西地域の軍事要塞(ようさい)化、全国各地のミサイル基地化の動きに抗する住民の共同が強まっています。

 安保法制強行から10年たち、「戦争」がリアルになった今なお、自衛隊は1人の戦死者も出さず、1人の外国人も殺していません。集団的自衛権の「全面的行使」は依然として違憲です。そこにあるのは、憲法9条の力です。

安保法制の主な内容

◎存立危機事態法
 =集団的自衛権の「限定的行使」

◎重要影響事態法=「戦地」で米軍などを兵站(へいたん)支援。
 弾薬の提供、戦闘行動に発進中の航空機への給油・整備も

◎自衛隊法95条の2
 =米軍などを「防護」。必要な場合、武力行使も

◎改定国際平和協力法
 =他国軍が攻撃された際の「駆けつけ警護」「宿営地共同防護」を追加

◎国際平和支援法(海外派兵恒久法)
 =特措法を制定しなくても他国軍の支援などのため海外派兵が可能に

その他:米軍等行動関連法、特定公共施設利用法、海上輸送規制法、捕虜取り扱い法、船舶検査法、国家安全保障会議設置法

安保法制10年の主な動き

2014・7  集団的自衛権行使容認などを閣議決定

  15・9  安保法制成立

  16・3  安保法制施行

  20・9  安倍晋三首相が「敵基地攻撃能力」導入に向けた談話発表

  22・12 安保3文書を閣議決定

  23・12 防衛装備移転三原則を改定。殺傷兵器の輸出解禁

  24・4  日米首脳会談で「指揮・統制の枠組み向上」を合意

  26・3  国産長射程ミサイルの導入開始


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