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2025年9月14日(日)

きょうの潮流

 「水泳は大嫌いでした」。その人懐っこい笑みが忘れられません。パラリンピックの競泳で15個もの金メダルを手にし、「水の女王」と呼ばれた成田真由美さん。55歳の早すぎる訃報に言葉もありません▼20年ほど前、直接お話をうかがう機会がありました。中学1年で横断性脊髄炎を発症し、下半身麻痺となった当初、「車いすが受け入れられなかった」。失望感でみずから点滴の針を抜き、床が血の海になったことも▼ずっと病院の天井をみつめて過ごす日々。あるとき「車いすは眼鏡と同じ。私は私、何も変わらない」と思えたことが転機になったと▼競泳との出合いは23歳のとき。ほとんど泳げなかったものの、「『笹かま』と『萩の月』が食べられる」と仙台の大会に出場したことがきっかけでした。水泳にのめりこみ、3年後の1996年にはアトランタ・パラリンピックに出場。以来6大会で20個のメダルを手にします。いつしか水の中は“自由になれる居場所”と思えるまでに▼交通事故や手術など幾多の困難を前向きのエネルギーに変えていった人。「障害は私へのプレゼントです」との言葉が、いまも心に残ります▼大会で訪れた豪州のシドニーの街では、車いすで不自由なく移動できることに感激し、移住も考えました。それでも日本を選びました。「生まれ育った日本で、障害者の持つネガティブなイメージを変え、暮らしやすい場所にしたいから」。その思いを伝え広げながら一途に泳ぎ、駆け抜けた人生でもありました。


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