2025年9月12日(金)
きょうの潮流
茨木のり子さんの詩「倚(よ)りかからず」を彷彿(ほうふつ)とさせる人でした。〈じぶんの耳目/じぶんの二本足のみで立っていて/なに不都合のことやある〉。俳優・吉行和子さんが逝きました。享年90▼最初にインタビューしたのは2016年。3年前には本紙日曜版「この人に聞きたい」(6回連載)に登場してもらいました。権威をかさに着て威張る人が嫌い。人に迷惑をかけるのも苦手。一方で取材が終わると「楽しかったわ」と言ってくれるような優しい人でした▼1957年、舞台「アンネの日記」でデビュー。アンネがゲシュタポに連行される時、「嫌な世の中だけど人間の心の中は絶対にいいものなんです」と言うせりふが当時は甘いと思った、と。「でも何年もたって納得したんです。15歳のアンネは、そうでも思わなければ生きていけなかったんだと」▼戦争中は妹と疎開。外で遊んでいた時、兵隊に「お父さんはどうしているの」と聞かれ「死にました」と答えました。「どちらで」「家で」。「そう言うと軽蔑したような顔で行ってしまったんです。戦争で死ななきゃ男じゃない、みたいな。みんな、おかしくなっていたわよね」▼太平洋戦争の2年前に渡辺白泉が詠んだ句「戦争が廊下の奥に立つてゐた」を見るとドキッとする、とも。「また戦争が身近になった怖さを感じています。戦争で命を奪われるのだけは絶対止めたい」▼戦争を知る人が、また一人亡くなりました。残された言葉を次代につなぐことが、後に続く者の役目です。








