2025年9月4日(木)
主張
八潮市事故7カ月
今こそ下水道政策の大転換を
1月28日に発生した埼玉県八潮市の道路陥没事故から7カ月がたちました。死者1人、住民約120万人の下水道利用自粛という被害をもたらした事故の現場は、今も下水から発せられる悪臭や復旧工事の騒音、交通規制などが周辺住民や事業者、道路利用者を苦しめています。このような事故を二度と起こさないためにも、国はこれまでの下水道政策を本気で反省し、抜本的に転換すべきです。
事故を受けて問われたことの一つは、下水道などインフラの維持管理、修繕等を担う地方自治体の技術職員の不足です。技術職員のうち、下水道部署正規職員数は、1997年の約2万6400人をピークに減り続け、2022年には約1万8300人にまで減少しました。技術職員が1人もいない自治体は、440(25%)にも上ります。「定員管理」の名のもとに国が旗を振ってきた自治体リストラによるものですが、政府にその反省はありません。
もう一つは、下水道事業の広域化です。政府は、技術職員の減少や「効率化」を口実に、複数の市町村にまたがり都道府県が設置管理する流域下水道の広域化を推進してきました。広域化は、下水道管径を大きくし、点検、維持管理を困難にし、破損すれば被害は甚大になります。独立採算制や民間まかせの外部委託についても、このまま続けていいのかが問われます。
■新たな事故も発生
今回の事故を受けて、現在、管径2メートル以上かつ1994年度以前に設置された下水道管路の調査が行われています。この調査の中で、8月2日、埼玉県行田市で、市から業務委託された民間事業者の作業員4人がマンホール内に転落して死亡する事故が発生しました。事故原因は調査中ですが、硫化水素の事前の調査を怠っていたこと、落下防止のための器具や地上から空気を取り入れるタイプのマスクの未装着など、安全対策の不徹底が指摘されています。
事故を起こした事業者は、安全対策について「現場の判断」とし、行田市も職員を立ち会わせる等の対応を取っていませんでした。国も民間委託した場合の自治体職員の立ち会いなどは求めておらず、安全対策は自治体や民間に任せきりです。下水道管内での硫化水素発生による死亡事故は、過去にも起きており、教訓が生かされていません。
■大胆な見直しこそ
持続可能な下水道事業を展望したとき、自治体の技術職員の抜本的増員は不可欠です。技術職の役割や魅力を学生や若い世代に広げるだけでなく、公務員の大幅賃上げ、技術職員の処遇改善に思い切って取り組むことが必要です。
いくつかの自治体では、技術職を目指す学生への奨学金制度を創設したり、職員の中から技術職希望者を募り、専門学校の受講費用などを負担したりするなどの取り組みも始まっています。
国はインフラ老朽化対策を公共事業の最優先に位置付け、地方自治体の技術職員確保のための財政的支援にも乗り出すべきです。下水道を含む基礎的なインフラの維持管理・更新等は、国負担にするなど大胆な見直しが必要です。








