2025年9月3日(水)
主張
コメ不足・首相発言
安心して増産できる条件こそ
石破茂首相は先月のコメに関する関係閣僚会議で「コメ増産にかじを切る」と表明しました。「令和のコメ騒動」で長年の減反政策の矛盾があらわになり転換を余儀なくされたものです。増産に向かうには今回の事態をもたらした自民党農政を根本から見直し、転換することが必要です。
閣僚会議で政府は、昨年来の米価高騰が、生産量が需要量に対して2年間で60万トン以上不足していた結果であることを認めました。「コメは足りている」と強弁し、その場しのぎの対策に終始してきた政府の責任は重大です。
■減反が大きな要因
問題はなぜそれが生じたかです。政府は、猛暑による供給減やインバウンド増など需給状況を見誤ったことをあげますが、需要が毎年減ることを前提に生産量をギリギリに抑え、農家に過大な減反を押しつけてきたのが要因です。
より深刻なのは、政府がこの30年来、コメの価格を市場に任せ、米価下落を促進し、所得補償も廃止したことで、多くの農家が離農に追い込まれコメづくりの力が著しく弱まっていることです。農家の半数以上が70歳を超え、耕作放棄地も広がるなかで、増産は容易ではありません。
「増産への転換」を言うのであれば、なによりも農家が将来にわたって安心して増産に励める環境が必要です。
石破首相が掲げるのは大規模化や農地の集約化、スマート化、輸出拡大など従来路線の延長です。競争力のない中小経営や中山間地域は視野にありません。農家が一番求めている、米価が暴落した場合の価格補てんや所得補償については何も示していません。これでは、農家が安心して増産に踏み出せないでしょう。
石破首相は27年度からの水田政策の見直しにも言及しています。すでに政府は今春に決定した農政の基本計画で、水田転作の手段とされてきた水田活用交付金を見直し、作物ごとの生産性向上等への支援に転換する、コメ輸出を増やすなどの方向を打ちだしています。減反政策・生産調整からの実質的な撤退であり、コメの増産は自由、暴落しても生産者の責任、余ったら輸出すればいいという無責任な考え方にほかなりません。
■農政の抜本転換を
半世紀以上続いた減反政策は農村に多大な負担と犠牲を強いてきましたが、政府にも重荷でした。財政負担の軽減、市場原理徹底の立場から減反政策の見直し・廃止に言及してきたのもその表れです。
石破首相もかつて農水大臣の時に減反政策の廃止を打ち出していました。今回の「増産」方針には、コメ不足に乗じて年来の狙いを実現しようとする思惑があることも見ないわけにはいきません。一部の大規模経営が増産に踏み出せても、国民全体の需要を安定して供給する生産量の確保は期待できないでしょう。
求められるのは、コメの需給と価格の安定に政府が責任を持ち、ゆとりある需給計画のもと生産量や備蓄を増やす、農林水産予算を大幅に増額して価格保障や所得補償を抜本的に充実し、中小農家や新規参入者を含めてコメづくりの多様な担い手を維持・確保できる農政への転換です。








