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2025年8月24日(日)

2025焦点・論点

大阪カジノ止める訴訟の到達点

原告側弁護団長 長野真一郎さん

市が関与の土地鑑定談合を解明 市民の運動と一体 開設阻む力に

 「赤旗」の疑惑スクープが発端となって、市民らが大阪市(横山英幸市長)を訴えた「カジノ格安賃料差止訴訟」の審理が佳境を迎えています。市有地を格安でカジノ業者に貸して市に損失を与えた当事者として、松井一郎前市長(日本維新の会元代表)らも賠償請求の相手に名を連ねます。疑惑解明や訴訟の到達点について、原告側弁護団長を務める長野真一郎弁護士に聞きました。(本田祐典)


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 ―なぜ市民が大阪市を訴えたのですか。

 この訴訟の根底には、ギャンブル依存症で人を不幸にするカジノ開設を何としても止めたいという、市民の強い思いがあります。

 大阪カジノは、違法な賭博行為を特別法で合法化してしまうものです。行政はそのカジノに厳しい姿勢であるべきなのに、逆に大阪市は市民の財産である公有地を違法に格安で貸して優遇しています。

 本来ならばこの異常な優遇を行政の内部手続きや議会のチェックによって阻止すべきです。しかし、カジノ推進の大阪維新の会が市長だけでなく市議会の過半数を握っているため抑止機能が働きません。そこで市民が直接、優遇を止めようと立ち上がりました。

 ―“格安賃料”とは、どれほど安いのですか。

 市はカジノ用地49万平方メートルの賃料を月額約2億1千万円としています。

 ところが、原告らの依頼で不動産鑑定評価の専門家が適正な価格を算定したところ、2倍以上の価値がありました。土地の賃料に置き換えると、月額約2億6千万円も安く契約していたのです。この差額による損失が2058年まで毎月生じます。

 ―訴訟の進行状況は?

 現在、この格安な賃料をめぐって、原告団長の藤永延代さん(おおさか市民ネットワーク代表)ら市民による二つの住民訴訟が並行して進んでいます。

 一つ目の訴訟(23年4月提訴)は、違法な格安賃料で市有地を貸すことを差し止める裁判です。カジノ業者への土地引き渡しはほぼ完了していますが、「土地を返せ」と求める裁判として継続しています。

 二つ目の訴訟(24年12月提訴)は、格安での貸与を強引に進めた松井一郎前市長など関係者の責任を問う裁判です。33年にわたる損失の総額として約1044億円の賠償を求めています。

 もちろん、お金を払えば許すということではありません。現在進行中の違法行為を明らかにし、その責任を明確にして反省・中止させることが目的です。

 ―これほど巨額な住民訴訟は前代未聞です。裁判の争点は?

 最大の争点は、賃料を格安にした土地鑑定の裏に市や鑑定業者の違法な画策があったのではないかということです。

 出発点は、市が依頼した鑑定業者4社のうち3社の評価額が示した異常な「一致」でした。(表)

 これは「しんぶん赤旗」日曜版の報道(22年10月2日号)で明らかになり、「朝日」も「大阪・夢洲IR予定地で『奇跡』の一致 土地も賃料も評価額が同じ」(23年2月1日付)と報じました。

 大阪市は「結果的に一致した」と主張しますが、実際は“市が関与した鑑定談合”だと裁判のなかで明らかになりました。市の担当職員がメールで鑑定中の業者に「土地価格12万円/㎡」と伝え、業者4社中3社がその金額通りに評価していました。

 ―鑑定業者は依頼者の言いなりで評価してよいのですか。

 心ある専門家、不動産鑑定業界関係者らが「この不正を許せば業界の信頼を損なう」と憤っています。

 この専門家らの協力によって、市の提示額にそろえるために鑑定業者がわざと賃料を引き下げたことも明らかにできました。

 カジノ営業に使う駅前一等地の賃料を算定するはずが、より収益力の低い郊外型ショッピングモールを建てる土地として格安に算定していたのです。ある鑑定業者は、土地全体のわずか7%の土地に2階建てモールを建てることを想定して、評価額を引き下げていました。

 ―カジノとはまったく違う土地利用ですね。

 この格安評価を専門家に深掘りしてもらったところ、さまざまな鑑定基準違反が見つかりました。

 具体的には、建設が確実だった夢洲(ゆめしま)駅を無視して海をへだてて3・5キロ離れたコスモスクエア駅(同市此花区咲洲〈さきしま〉)を最寄り駅としたことや、カジノ用地の賃料を算定するという依頼目的に反して「IR(カジノリゾート)事業を考慮外」と条件設定していたことなどです。

 ―市に責任はないのですか?

 市がカジノ開設のために公費で用意してきた土地ですから、郊外型ショッピングモール並みの安い賃料がまともな評価額ではないと市自身もわかっていたはずです。

 前市長の松井氏は、22年12月の会見で「鑑定書の中に(カジノの)ホテルが入っている」「何がおかしい」と大見えを切りました。収益力が高いホテルなどカジノ施設の建設を前提にした評価額だから問題ないとしたのです。しかし、ホテル用地として鑑定したのは事実誤認だと市職員から説明を受け、翌日に「僕もそこは勘違い」と自ら訂正しました。

 間違いを認めた以上、賃料を見直す明確な義務があったはずです。しかし、松井氏は責任を果たさず、賃料を安いままで改めませんでした。

 ―今後のたたかいのポイントは?

 新たに賠償請求の相手となった松井氏らが、どう弁明するのか注目です。

 7月末、松井氏や不動産鑑定士、カジノ業者らに対する「訴訟告知」が開始されました。この訴訟で原告らから責任を問われる関係者だと裁判所から通知するように市が手続きしたということです。たとえ松井氏が無視しようとしても、市が敗訴すれば連帯して賠償責任を負います。

 この訴訟をたたかう主人公は、市民のみなさんです。カジノの害悪を広く知らせる市民の運動と一体で取り組んでこそ、この訴訟は意味あるものとなり、カジノ開設を止める力になり得ます。

 私たち弁護団11人は「市民のたたかいを支えたい」という思いで、人権擁護や社会正義実現を目指す自由法曹団大阪支部のメンバーとして参加しています。今後も、みなさんと一緒に全力を尽くします。

談合の証拠メール

 大阪市と鑑定業者4社が交わしたメールなど198通が23年7月に部分公開され、市側が鑑定業者に土地価格などを提示していたことが明らかになりました。これらのメールは22年に「赤旗」が情報公開請求した際に市担当者がひそかに廃棄し、そのコピーも「不存在」と偽っていたものです。

 市は公開に際して「赤旗」に謝罪し、大阪港湾局営業推進室長は「請求を受けて(市担当者が)消しに行った」と説明しました。

 裁判で市は「隠蔽(いんぺい)ではない」と弁明。原告側は裁判所に出す書面で「隠蔽メール」と呼んでいます。


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