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2025年8月13日(水)

志位和夫著『いま「資本論」がおもしろい』をおすすめします

長久理嗣

 日本共産党の志位和夫議長による「学生オンラインゼミ・第4弾」(5月10日)の講演録、『Q&A いま「資本論」がおもしろい マルクスとともに現代と未来を科学する』が刊行されました。長久理嗣・党学習・教育局次長から寄せられた書評を紹介します。


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(写真)新日本出版社・1100円(税別)

「変革と希望」の精神が伝わってくる

 本書を、いくつかの角度でおすすめします。

 第一に、本書を、この社会の不合理がどうしておこるのか、どうしたら解決できるのか、何とかしたいと考えておられるすべての方々におすすめします。政党支持の違いを超えて広い方々に、とくに若いみなさん、労働者のみなさんに読んでいただきたい本です。

 司会の西川龍平さん(民青委員長)の経過紹介にあるように、民青同盟から要請された本講演が2年越しで実現しました。「ミニ学習会」を経て、質問が練られ、志位さんが答えていく形で進められました。

 質問1は、「大学の新入生歓迎運動で対話をしていると、『資本論』を読んでみたいという声が、けっこう返ってきます。海外ではどんなふうなのでしょうか?」です。志位さんは、カール・マルクスが19世紀に書いた『資本論』がヨーロッパでもアメリカでも新しい注目を集め、アメリカでは約50年ぶりに第一部の新しい英語版が刊行されたこと、『資本論』を読む運動が広がっていることを紹介。その背景に、世界で貧富の格差が途方もなく拡大し気候危機が深刻になって「資本主義でやっていけるのか」の問いかけがあると指摘します。

 質問2の「『資本論』はどのような本なのか」では、(1)資本主義を生成、発展、没落でとらえた書(2)未来社会――社会主義・共産主義社会が豊かに語られた書(3)労働者と人民に社会を変えるたたかいを呼びかけた書――三つの特徴が明らかにされました。単に資本主義経済を解説した本ではありません。

 著者が準備にあたって一番心がけたのは、マルクスが『資本論』に込めた精神――この書が「変革と希望の書」であること、その「おもしろさ」をしっかりと伝えることでした(「はじめに」)。

 志位さんは、『資本論』第一部第24章の最後の節「資本主義的蓄積の歴史的傾向」が、「社会の変革はどうやっておこるのか」の結論として重要で、『資本論』で社会主義的変革について述べた唯一のところでもあると強調します。資本主義の発展のなかで、生産と労働が社会的なものになることをはじめ一連の物質的変革が進むこと、そして「生産と労働は社会全体で行うのに、その成果は資本が独り占めしている――ここに資本主義の矛盾の根源がある」ことを解明してゆきます。

 経済循環のサイクルで恐慌がおき深刻な危機をもたらすことは、「資本主義の重大な矛盾」ですが、それは資本主義を「必然的没落」に導くものではありません。では、資本主義の「必然的没落」の根拠をどこに求めるのでしょうか。マルクスの答えは、貧困や格差など資本主義の矛盾が深まることと一体に、労働者階級が社会変革の主体として成長し、たたかいを発展させる、これが資本主義を没落させて、その先の社会に進む力になるということでした。

 21世紀にこの結論はどう生きているのでしょうか。社会を変えようという多数の合意が熟して初めて社会は変わります。労働者・国民の多数を結集するために力を尽くすことであり、しかもこのプロセスは広い大通りを歩くようには進まず、ジグザグの道も避けられません。粘り強く労働者・国民に社会のしくみの真実を伝え、一歩一歩、社会を変えるための多数を結集していく取り組み、それが古い社会を「必然的没落」に導く一番の力になる――志位さんは説いています。

 講演後に記者団の質問に答えて、「社会には法則が働いている、社会を変える道はちゃんとある。ただ自然には変わらない。複雑な社会のしくみをしっかりとらえ、国民、若者がたたかってこそ変えることができる」と語っています。「ワンフレーズ、短いフレーズでわかりやすい訴えをすることも大事だが、世の中はワンフレーズでは変わらない。マルクスは『商品と貨幣』についてだけでもあれだけの論理的な分析をした。世の中は単純なワンフレーズではわからない複雑さと、豊かさを持っている。その全体を学んでこそ、本当に社会を変える展望をつかめる」と指摘します(「しんぶん赤旗」5月13日付)。

新しい「方法」で「『資本論』のおもしろさ」を語る

 第二に、人類の知的遺産である『資本論』に多様な関心をもたれて、『資本論』を対象にしたさまざまな書籍を手にとられた方々に、本書を「『資本論』そのもののおもしろさ」がわかる著作としてお読みいただきたいと思います。

 「資本論と現代」といったテーマでの講演の「方法」論として、おおまかにいって二通りがあります。一つは、『資本論』の流れにそくして「ごくごくのあらまし」を話し、21世紀にこの著作がどう生きているかを明らかにする――本講演のような「方法」です。もう一つ、現代が直面しているさまざまな問題から出発して、関連する『資本論』の記述を引いて論じる「方法」もあり、『資本論』を対象にした刊行物の多くはこの「方法」で書かれています。

 『資本論』の予備知識がない方にもおおよそを理解してもらう、しかも「3時間半」の時間枠をクリアして、話をどう組み立てるか――著者は熟慮し、前者の「方法」を採りました。そこには、講演の目的を「聞いていただいたみなさんに、『資本論』はおもしろそうだ、ひとつ読んでみようという気持ちになってもらうこと」に置く意図が込められています(「はじめに」)。そして、この「方法」の採用によって、他にあまり類のない労作となっていると考えます。

 『資本論』が「変革と希望の書」であることは、『資本論』全三部の土台である第一部「資本の生産過程」の全体を読むなかで、明らかになります。講演では、第一部の論理の発展に厳密にそくして、そして思い切って絞った内容――「1、『資本論』とはどのような本なのか?」、「2、どうやって搾取が行われているのか?」(第一篇「商品と貨幣」、第二篇「貨幣の資本への転化」、第三篇「絶対的剰余価値の生産」)、「3、労働時間を短くするたたかいの意味は?」(第8章「労働日」)、「4、生産力の発展が労働者にもたらすものは何か?」(第四篇「相対的剰余価値の生産」とくに第13章「機械と大工業」)、「5、貧困と格差拡大のメカニズムは?」(第七篇「資本の蓄積過程」の第23章「資本主義的蓄積の一般的法則」)、「6、社会の変革はどうやっておこるのか?」(第24章「いわゆる本源的蓄積」)――という組み立てで、パネルも駆使して、「ごくごくのあらまし」が説かれてゆきます。生産の一回一回の断面から、生産の繰り返しの流れ(再生産)へ、さらに企業内部での搾取関係から、分析を新しいステージに進めて、資本の「利潤第一主義」が社会全体をどう変えるか、労働者階級の運命に視野を広げて、説明されます。

 さらに「7、社会主義・共産主義で人間の自由はどうなるか?」が語られ、「8、『資本論』をどう学び、人生にどう生かしていくか?」で結ばれます。

 本書が“難攻不落な『資本論』だけれども、これならわかる”ように工夫されているのは、民青のみなさんとの共同作業で練り上げられた「質問」と、それに答えた“現代的接点”の解明です。「現在の日本で本当に搾取は行われているのか?」、「労働者とはどんな人か?」、「今の日本でも『過労死』『ただ働き』がひどい」、「『資本論』の環境問題への言及は?」、「『産業予備軍』はいまの日本にもつながるのでは?」など、“現代的接点”が分析の各段階ごとに設けられ、「マルクスとともに現代と未来を科学する」内容になっています。

「共産主義と自由」、「マルクスと時間」論

 第三に、「自由とは何か」、あるいは「社会主義・共産主義」について、さまざまな思いで関心をもたれている方々に、本書を手にとっていただきたいと思います。

 日本共産党は、2024年1月の第29回党大会で、「社会主義」をめぐる状況の歴史的変化に立って“21世紀の日本共産党の「自由宣言」”とも呼ぶべき決議を採択しました。強く大きな党をつくる決定的な力にしようと、この1年半、「共産主義と自由」の学習、対話の大運動に取り組んできました。

 著者は、この運動で決定的な理論的イニシアチブを発揮してきました。第一の大きな場は、昨年4月27日の「学生オンラインゼミ・第3弾」(『Q&A 共産主義と自由――「資本論」を導きに』)です。第二の大きな場は、同年6月25日の党全国都道府県学習・教育部長会議での講義「『自由な時間』と未来社会論――マルクスの探究の足跡をたどる」(『前衛』昨年9月号)です。

 その際に「導き」とされたのが、『資本論』でした。志位さんは、「自由に処分できる時間」と未来社会という角度から『資本論』を繰り返し読むなかで、「要請にこたえて、話をまとめてみようと考えるようになった」と書いています(「はじめに」)。

 この集中的研究が、講演に結実しています。『Q&A 共産主義と自由』では論じられなかった、資本主義的搾取のしくみ、その拡大がもたらすものについて正面から解明されています。

 『資本論』での未来社会論は、第一部最初の「商品と貨幣」に始まり、第三部の最後の篇での総括的な論述まで、あらゆる部面、段階でなされています。志位さんは、「各個人の完全で自由な発展を基本原理とするより高度な社会形態」(『新版 資本論』④1030ページ)を「一番本質的な規定」だと指摘し、さらに質問26「未来社会がどんな社会になるとのべているのですか?」に答えて、「富とは何か」の視点で、(1)個人のもつ「物質的な富」がはるかに豊かになる社会、(2)「自由な時間」が大きく拡大して大きな「富」になる、(3)「自然の豊かさも再生される」、(4)何よりも「社会を構成する人間そのものが豊かになる」社会と特徴づけています。これに司会の中山歩美さん(民青副委員長)が、「とても豊かな未来社会のビジョンが開かれてきた思いです」と応じています。

 「生産力とは何か」の考察、大工業の発展が未来社会をつくる要素を育む問題(「労働者の集団」による生産、子どもの権利と教育、ジグザグの道をたどりつつも「古い家族制度」が解体しジェンダー平等社会に前進する展望)、環境問題など、現代につながる新鮮な論究があります。

 「共産主義と自由」論の1年半をふりかえった概説と同時に、「戦争からの自由」という新しい問題にも言及されました。「戦争のない世界」を求める今日のたたかいに力を尽くすこと、未来社会では「戦争からの自由」が「たしかな現実」になるだろうこと、いつの時代でも平和をつくる力は「世界の諸国民の連帯にある」と力説されています。

 特筆したいのは、先行研究も踏まえた、マルクス経済学と「時間」についての試論、問題提起です。マルクスは「物質的富」という「資源」とともに、「時間」の概念を、人間にとっての最も重要な「資源」の一つとして重視したこと、商品の価値を「一定量の凝固した労働時間」と突き詰めて規定して労働価値説を完成させたこと、「時間」の軸を貫いたからこそ「自由な時間」を未来社会論の中心に据えることができたのではないか、と指摘。「立体的な読み解き」で『資本論』を読むことが必要だと、ニュートン力学とアインシュタイン相対性理論との比喩も用いて、熱く語られます。

“『資本論』を読む運動を起こしたい”

 第四に、“『資本論』を読むムーブメント(運動)を日本でも起こしたい”の思いを込めた書として、読んでいただけたらと思います。

 02年、党創立80年の年に党本部で「代々木『資本論』ゼミナール」が開催され、応募した300人を超える人たちが一緒に1年間かけて『資本論』全三部を読みました。当時ある財界人から寄せられた感想、世界と日本の「歴史そのものの変化」のなかで「今マルクスに戻ってみようという試みとして納得できる」が思い出されます。ゼミナールの成果は、講師・不破哲三さん(党議長・当時)の著書『「資本論」全三部を読む』にまとめられました。

 その後、エンゲルスによる編集事業の成果を生かしながら、マルクスの理論的到達点をより正確に反映した『新版 資本論』が、19~21年に刊行され、この到達点を反映した『「資本論」全三部を読む』の「新版」が刊行されました。党史『日本共産党の百年』は、「『新版 資本論』の刊行」を一項目起こし、一連の研究を「科学的社会主義の事業における党の重要な理論的貢献をなすものです」と意義づけています。29回党大会決議はこの意義づけで、学習への挑戦を全党に呼びかけました。

 本ゼミは、『資本論』の予備知識をもたない人に限られた時間でその「おもしろさ」を伝える「方法」を編み出し、解明を行った点で、また「共産主義と自由」論の理論的土台を提供した点で、新しい地平を開いたと確信します。

 日本共産党は、『資本論』とともに歩んできた政党という点で、国内外を通じて稀有(けう)なる存在です。党の理論的な基礎は科学的社会主義であり、その一番の根幹をなしているのは『資本論』です。政治的なたたかいでどんなにジグザグな道をたどろうとも、この党には発展する客観的な根拠がある、その奥深い基礎を確信するものです。

 著者は、最後の質問「『資本論』を人生にどう生かすかについて」に答えて、「新たなものを学ぼう。自分自身の頭で考えよう。そして、この社会の不合理がどうしておこるのか、どうしたら不合理を解決できるのかをつかんだら、連帯してたたかおう。そして、この世界を変えよう。これが、マルクスが『資本論』に込めたメッセージです。このメッセージを、若いみなさんが、自らの人生の指針として生かして、素晴らしい人生を歩んでほしい。そのためにも民青同盟に加盟することを心から呼びかけます。さらに、日本共産党への入党を心から訴えます」と語りかけました。

 本書では、アメリカでトランプ政治に正面から対決する運動が、『資本論』を読む運動と歩調を合わせて進んでいることが紹介されています。大きな歴史的分かれ道にある日本でも、アメリカの運動に“負けないで”、政治の進歩的転換をはかる運動と歩調を合わせて、『資本論』という「巨大な山への挑戦」、読む運動を起こしたい、私からもその気持ちを込めて、青い表紙の『共産主義と自由』とセットで、赤い表紙の『いま「資本論」がおもしろい』をおすすめします。

 (ながひさ みちつぐ)


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