2025年8月8日(金)
主張
「核武装安上がり」論
被爆国・政治家として資格なし
広島、長崎への原爆投下から80年、日本では、核兵器廃絶を求める根強い世論と運動がある一方、米国の「核抑止力」に依存する動きの強まりとともに、「核武装」論が公然と語られる深刻な状況が生まれています。
毎日新聞が7月の参院選で実施したアンケート調査で、当選者の125人中8人が「(日本は)核兵器を保有すべきだ」と回答しています(1日付)。8人のうち参政党が6人を占めます。同紙は「2022年以前の近年の国政選挙の当選者で『保有すべきだ』との回答はゼロか1人だったが、参政が議席を伸ばしたことで急増した」と指摘しています(残りは自民党1人、日本保守党1人)。
■被爆者に言えるか
今回の参院選では、東京選挙区で初当選した参政党のさや氏が選挙中のインターネット番組で「核武装が最も安上がり」と公言しました。
広島、長崎で地獄のような惨禍を経験し、「核兵器は絶対に人類と共存できないし、させてはならない」と訴えてきた被爆者らの思いを踏みにじる許しがたい発言です。「被爆者の前で同じことを言えるのか」と厳しい批判がわき起こったのは当然です。唯一の戦争被爆国の政治家として、まったく資質を欠いていると言わざるを得ません。
「核武装」が安価だと言うのも、同氏の無知ぶりを示しています。
核兵器の研究・開発、製造、維持だけでも兆円単位の費用がかかると指摘されています。核を搭載する弾道ミサイルや爆撃機、潜水艦、核貯蔵庫なども必要で、新たな軍備の増強、いっそうの大軍拡をもたらします。
広島市の松井一実市長も「(核武装は)決して安くない。的外れだ」と批判しています(1日の記者会見)。
「核武装」は日本を守る「抑止力」として働くどころか、中国や北朝鮮など周辺国との核軍拡競争を引き起こし、東アジアの軍事緊張を激化させ、一触即発の事態を招きかねません。
■平和に極めて有害
そもそも日本は、核不拡散条約(NPT)に加盟しています。同条約の締約国は日本を含め191カ国・地域に上り、米英ロ仏中の「核兵器国」以外の国は核兵器の製造・取得が禁じられています。
日本が「核武装」に進めばNPTの義務違反となり、国際的に孤立することは明らかです。核・ミサイル開発を進める北朝鮮と同じように、経済制裁を加えられることにもなりかねません。
しかも、日本の「核武装」は、歴代政府が国是としてきた「非核三原則」(核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず)を放棄することになります。唯一の戦争被爆国として核兵器廃絶を世界に訴える足場も失ってしまいます。
憲法9条に基づく「平和国家」としての国際的な信用も失墜するでしょう。
日本の「核武装」は、人道的・道義的にも、財政的にも、国際法的にも非現実的で、あまりにも浅はかな暴論です。日本と東アジアの平和と安全にとっても有害極まりないものであり、発言は撤回すべきです。








