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2025年7月18日(金)

2025焦点・論点

医療崩壊どうする

全国保険医団体連合会理事 山崎利彦さん

診療報酬抑制・病床削減で危機 大軍拡より命守る医療に国費を

 「病院医療の崩壊カウントダウン あなたの町の病院あと何年?」「病院の約7割は赤字です」(日本病院会)。日本の医療は危機に陥っています。「病気になっても近くの病院がつぶれてかかれない」「手術をするにも入院する病院が見つからない」…。こんな不安が現実味を帯びる事態がどうして起こったのか、この危機を打開するにはどうしたらいいのか、全国保険医団体連合会(保団連)理事で医師の山崎利彦さんに聞きました。(伊藤紀夫)


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(写真)やまざき・としひこ 1964年埼玉県生まれ。医学博士。全国保険医団体連合会理事。埼玉県保険医協会理事。山崎外科泌尿器科診療所。

 ―医療崩壊の現状はどうなっているのでしょうか。

 物価高騰で医療の材料費や医療スタッフの人件費が上がっているのに、公定価格である診療報酬が低く抑えられ、多くの医療機関で経営が悪化しています。コロナ感染の最中には親戚などからもう辞めてくれと言われる看護師さんもいましたが、医療を守るために必死でがんばってきました。それなのに、コロナ後、診療報酬が下げられて医療機関が赤字になり、ボーナスも支払えず、多くのスタッフが辞めざるをえない事態が進んでいます。

 コロナが始まった時、無利子無担保での融資がかなり行われ、億単位の融資を受けた病院もあります。私も合計6千万円の借金をしています。しかし、そのほとんどをスタッフの人件費に使い、昨年からその返済が始まっています。

 昨年の病院・診療所の倒産は64件、休廃業・解散は722件で過去最多(帝国データバンク)で、今後さらに広がる状況です。

 ―どうして危機的事態になっているのでしょうか。

 わかりやすく言うと、長年、社会保障費、医療費を抑制し削減してきた自民党政治がもたらしたものです。自民、公明、維新の3党は、4兆円の医療費削減、入院病床の11万床削減を合意しました。1床あたり約400万円の補助金を出すからベッドを削減しろというのです。多くの病院は経営難と人材不足で、病床を減らして補助金をもらわざるをえない状況に追い込まれています。

 今、米の減反・減産政策が米不足による米価高騰をもたらし大問題になっていますが、病床削減は減反政策の医療版で、危機に拍車をかけるものです。

 しかも医療では複雑な診療報酬の体系があって、ベースアップ評価料という項目を算定して従業員の給料を上げようとすると、それだけでは財源が確保できず、医療機関の持ち出しになるんです。多くの医療機関はこの1、2年間にどんどん赤字になっていて、努力すればするほど負担が大きくなる状況です。

 どんどんベッドを減らすと、再びコロナのような感染症が起こった時にはもう使えるベッドが全然ない。町の診療所で医療を受けようと思っても診療所はつぶれてかかれない。大きい病院は大混雑に陥る。このままでは米騒動と同じことが医療でもここ数年以内に起こるだろうと思います。

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 ―政府が閣議決定した今年の「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)には、OTC(市販薬)類似薬を保険給付から外す自公維3党合意を踏まえ、年末までに検討し、来年度から可能なものは実行することなどが盛り込まれています。どう見ますか

 今回の「骨太の方針」は医療や介護の崩壊が顕在化する中でけむに巻いた表現になっている印象です。特に自民党が参院選挙を意識して出しているように見えます。社会保障費の伸びについて「高齢化による増加分」だけではなく、「経済・物価動向等を踏まえた対応」とか、診療報酬について「コストカット型からの転換を明確に図る」とか、何かよくなるような印象を与える書きぶりです。

 しかし、「歳出改革努力を継続」するとして社会保障予算を抑制する方針は変えていません。診療報酬についても、これまで従業員の人件費を上げるための点数が医療機関に赤字を求めることとセットだったことを考えると、来年の診療報酬改定がどのような形になるのか疑問です。

 昨年も中央社会保険医療協議会(中医協)が議論する前に、財務省が大枠を示し財務省と厚労省の大臣間で枠組みを決めています。枠を完全に固められた中で中医協はパズルの組み合わせの議論をすることになります。手足を縛られた中で今回どんな診療報酬になるかは全くわかりません。社会保障費の削減方針や、医療費を4兆円削減する3党合意などの枠組みを変えない限り、問題を解決することはできないと思います。

 自公維3党は、医療費を削れば国民の負担が減るかのように言っていますが、実際には患者負担はむしろ増えます。OTC類似薬については、今まで保険診療で使っていた薬の一部を薬局でも買えるようにしたのであって、それを病院で使えなくしろというのは全くおかしな話です。

 維新の猪瀬直樹参院議員は「高齢者でちょっと暇つぶしに病院に行って何となく湿布薬をもらってくる」「こういう無駄がある」と質問し、石破茂首相が「国が滅びちゃいますから」と答弁する。湿布薬の極端な例で事実をゆがめ国が滅びるかのように描く議論はすり替えの天才と言えます。

 今まで保険診療として使っていた必要な薬剤を市販でも買えるから保険適用から外すというのは全く筋が通らない話です。例えば、喘息(ぜんそく)発作で呼吸困難になり緊急入院した人に点滴はするが、抗アレルギー剤は薬局に行って買えということになるのでしょうか。つまり、医療を根本からゆがめて、単に目先のお金だけに振り回されるのが、彼らの主張なのです。

 ―医療崩壊を食い止め、安心してかかれる医療にしなければなりませんね。

 医療を含めた社会保障は、ある意味で安全保障なんです。自民党は軍拡による国防ばかりに力を入れていますが、社会保障や医療は国民の生命、健康を守る要です。人を殺す戦争のために国のお金をたくさん使っているのに、人を助けるためのお金は減らせばいいというのは、一体どういうつもりでしょうか。

 政府は予算がないといいますが、その原因は大軍拡とともに、大企業優遇の法人税減税と金持ち優遇の累進性緩和による税収不足にあります。大企業は539兆円もの内部留保をため込んでいます。大企業・金持ち優遇の税制を見直し、内部留保の一部を活用すれば、医療費をもっと増やすことは十分可能です。

 国民の命と健康を守る義務を果たそうという政府になれば、医療危機から脱却できると思います。


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