2025年7月16日(水)
きょうの潮流
きょう第173回芥川賞が決定します。恒例の芥川賞候補作一気読み。今回は4作品がノミネートされました▼日比野コレコ「たえまない光の足し算」は時計台と呼ばれる巨大な彫像を舞台に、観光客相手に商売する少女の物語。児童養護施設を出た薗(その)は「異食の道化師」と名乗り客が投げる物を飲み込んで小銭を稼ぎ、アイドルになりたかったハグは無料で人々を抱擁し続けます。寄る辺ない魂が自転しながら交わり離れ、精いっぱい光を放つさまを尊く感じる一編▼向坂(さきさか)くじら「踊れ、愛より痛いほうへ」の主人公も少女。アンノは自分のために母が授かった子どもを産まなかったことを知り、家族という閉鎖空間の欺瞞(ぎまん)に耐えられず庭にテントを張って暮らし始めます。愛するもの以外を愛さない「愛」が、戦火に焼かれる子どもを生み出す逆説を見抜きます▼グレゴリー・ケズナジャット「トラジェクトリー」(軌跡)は名古屋の英会話学校講師ブランドンが主人公。テネシー州から来日して3年、ここでも居場所を見いだせません。母国を見限りアジアを転々とするアメリカ人の同僚など、希望と求心力を失ったアメリカの落日を暗示します▼駒田隼也(じゅんや)「鳥の夢の場合」は2カ月前に死んだルームメートと交流する女性を通し、身体とは何かを問います。微細な身体感覚の描写を重ねつつ、体が失われても在り続ける記憶や感触に救われる群像新人文学賞受賞作▼物語は日常を超えて私たちを支えてくれます。大切な一編を見つけてみませんか。








