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2025年7月12日(土)

2025焦点・論点

排外主義の台頭どう見る

弁護士 神原元さん

生活苦への不満を利用 デマで伸長 日本人も標的に 力合わせる社会を

 東京都議選で参政党が初議席を得るなど、日本でも極右・排外主義勢力が台頭しています。この動きをどう見るか、外国人を敵視する彼らが影響を広げるのはなぜか、その危険な流れとどうたたかうか、ヘイトスピーチなど排外主義に詳しい弁護士の神原元さんに聞きました。(伊藤紀夫)


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(写真)かんばら・はじめ 1967年神奈川県生まれ。弁護士。自由法曹団常任幹事。著書に『ヘイト・スピーチに抗する人びと』『NOヘイト! 出版の製造者責任を考える』(共著)『9条の挑戦』(共著)。

 ―参政党は参院選で「日本人ファースト」を掲げ、「行き過ぎた外国人受け入れに反対」「望ましくない迷惑外国人などを排除」と主張しています。日本で排外主義が広がる現状をどう見ていますか。

 参政党の問題のほか、自民党も公約で「違法外国人ゼロ」を打ち出し、国民民主党も「外国人に対する過度な優遇を見直す」と公約しています。法務省出入国在留管理庁も「不法滞在者ゼロプラン」を出すなど、外国人を差別する排外主義的な対応をしてきました。

 今、日本にいる外国人を敵視し、彼らのせいで日本人の生活が苦しいのだという宣伝が広がっています。

 僕が直接関わっている案件では、クルド人問題があります。埼玉県川口市に1990年代からクルド人2、3千人がずっと平穏に何の問題もなく暮らしていたのに、最近になって急に彼らのせいで治安が悪くなったというデマが広がっています。この問題で大騒ぎしているのが、同県戸田市議選でトップ当選した河合悠祐氏です。「外国人の犯罪が増えて治安が悪くなる」「外国人は簡単に生活保護がもらえる」などというデマ宣伝が横行しています。

 原因は何かというと、SNSでファクトチェックを受けない誤情報がすごく拡散するようになっていることです。例えば、ある病院の前でクルド人がちょっと集まっていたことを暴動の兆しだというデマ情報が爆発的に広がり、彼らのせいで治安が悪くなったと宣伝する。今、若い人たちは新聞をほとんど読みませんから、正しい情報ではなく間違った情報がどんどん広がり、そういう主張をする候補者に投票する環境があると思います。

 では、なぜ、そういう情報に飛びつくか。今、日本の経済がここ何十年も良くならず、賃金が下がる一方で税金は上がる。それなのに非正規労働で労働組合にも入れず、問題を打開する手段がないという閉塞(へいそく)感が背景にあると思います。自分が苦しいのはなぜかと考えた時に、「あいつらのせいだ」とターゲットを外国人に絞った誤情報があり、それにぱっと飛びつきやすい現状があると思います。

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(写真)「差別 許しません」のプラスターを持って日本共産党の訴えを聞く人=4日、千葉県習志野市

 ―日本には以前から排外主義がありましたが、今の特徴はどうでしょうか。

 在日韓国人に対するヘイトスピーチの問題も本質的には同じです。僕が関わり出したのは2013年で、安倍政権成立直後のことです。韓国を敵視し、日本に住んでいる在日の人たちを差別するもので、今とそっくりです。「在日特権」すなわち「在日韓国人は優遇されている」というデマ情報がSNSで、当時はまだ今ほどではないですが、どんどん広がりました。そういう土壌がありました。

 当時は「朝鮮人は出ていけ」「殺せ、朝鮮人」などと汚い言葉でストレートに叫ぶので、ある意味、差別主義の悪いやつらだと分かりやすかった。しかし、今の排外主義者はそういう言葉もあまり使わず、「あなたが苦しいのは外国人が優遇されているからで、日本人の納めた税金は日本人のために使うべきじゃないですか」とソフトにすっと胸に入ってくるような言葉遣いをしています。だから、化けの皮がはがれにくい。その本質が見えにくく、それが票につながりやすくなっている面があると思っています。だから、そこを暴かないといけないですよね。

 ―その点で参政党の新日本憲法(構想案)はひどいもので、どう見ますか。

 例えば、5条は「国民の要件は、父または母が日本人であり」「日本を大切にする心を有する」としています。要するに、反日的な考え、左翼的な思想の持ち主は日本人ではないと国が定めて排斥する中身です。

 19条4項は「外国人の参政権は、これを認めない。帰化した者は、三世代を経ない限り、公務に就くことができない」と書いています。つまり国籍による区別を超えて完全にその血統による差別です。これはユダヤ人の血が何分の一でも入っていたらダメというナチスの基準と同じです。国籍による差別も良くないが、それよりさらに踏み込んで、同じ日本国籍を持っている人も血統で差別するナチス思想、優生思想です。そういう政党が躍進しているのは恐ろしいことです。

 ―日本で排外主義が台頭する根源は何でしょうか。

 極右・排外主義の台頭は米国、ドイツ、フランスなど世界的傾向です。参政党が掲げる「日本人ファースト」は、トランプ米大統領の「アメリカファースト」、自国第一主義に乗っかっているのでしょう。

 ただ、とりわけ日本の在日朝鮮人に対する差別は、朝鮮を植民地支配した時代からずっと続いてきたものです。その植民地支配を日本政府はいまだに反省も謝罪もしていない。それが日本で他民族を差別する言動を許す究極的な原因だと思います。

 外国人の排除がやがて日本人を迫害して排除していくことにつながることは、歴史が証明しています。

 ―1923年の関東大震災の時、「朝鮮人が暴動を起こした」「社会主義者が内乱をくわだてている」と排外主義をあおり、朝鮮人や中国人が多数殺害され、日本人も犠牲になりました。民主主義を覆す排外主義とのたたかいについては、どう考えますか。

 一つは、排外主義の危険な本質を暴き、彼らの攻撃は今、外国人に向かっているけれど、いつか日本人にも向かうということを知らせることが大事です。

 もう一つは、彼らの主張が広がる背景には生活苦があるわけだから、もっと国民の生活に密着した問題を取り上げ、こうすればあなたの生活は良くなるという打開策を示していくことが必要です。

 その点で共産党は頑張っていますが、「外国人を攻撃したってあなたの生活は良くなりませんよ」ということを分かってもらわなければなりません。外国人がいて今の生活が成り立っている日本社会の現実があるわけです。だから、「外国人と仲良くやっていくことで、あなたの生活もむしろいい方向に向かっていく。日本人も外国人も力を合わせる社会こそメリットがある」と知らせていくことが大切だと思っています。


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