2025年7月7日(月)
きょうの潮流
自由に生きられる、強さを持ちたい―。そんな願いを表題に込めたのだろうか。お姫様ではなく、自分の力で生きていける鬼婆(おにばば)になりたいと▼優れた推理小説に贈られる英ダガー賞を受賞した王谷(おうたに)晶さんの「ババヤガの夜」。ババヤガとは、スラブ神話に出てくる森に住む魔女のごとき存在です。日本では鬼婆や山姥(やまんば)とも訳されてきました。そこには虐げられてきた女性の怨念も▼小説は、腕っぷしが強く暴力衝動を抑えられない主人公の女性が、護衛を任された暴力団会長の一人娘と信頼関係を深めていきます。圧倒的な男社会の中で築くシスターフッド=女性同士の連帯。それは「独創性に輝き、奇妙ながらも素晴らしいラブストーリー」と評されました▼王谷さんは現代版長屋噺(ばなし)の「他人屋のゆうれい」を本紙に連載。世の「ふつう」からはみ出した人たちを包み込む人間模様を描きました。ほかにも、決めつけられた価値観にあらがうような作品は多い▼「あいまいであることは、私の作家としてのテーマそのもの」だといいます。そして「自分のあいまいさを受け入れ、他人のあいまいさを認めることが、世の中をよりよくすると信じています」▼日本人作家がダガー賞を受けたのは今回が初めて。小説は翻訳され、海外でも刊行されています。「リアルの暴力があふれている世界では、フィクションの暴力は生きていけません。今回いただいた栄誉を、世界の平和のために少しでも役立てたい」。現実の世界に訴えた王谷さんの思いです。








