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2025年6月20日(金)

2025とくほう・特報 シリーズ 介護保険25年

中山間地の訪問介護

報酬引き下げ 困難拍車

党議員団 事業所総訪問で対話

 介護保険の訪問介護は、ホームヘルパーの移動時間が介護報酬の算定対象とされないため、移動距離が長くなりがちな中山間地の事業所の経営は厳しくなっています。自公政権が昨年、訪問介護基本報酬を引き下げたことで困難に拍車がかかりました。愛知県東部の中山間地にある新城市(人口約4.1万人)では、日本共産党市議団が「要求対話・要求アンケート」で訪問介護事業所に赴き現状を聞き取り。市民や事業者と「懇談会」を開き、地域から声を上げようとしています。(内藤真己子)


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(写真)男性利用者の更衣の介助をするホームヘルパーの尾藤さん(左)と浪崎さん=5月、愛知県新城市作手地区

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(写真)山間部にある訪問介護事業所の古井地さん(右端)を訪ね、現状を聞く浅尾市議(中央)と白頭党市政対策委員長=5月、愛知県新城市鳳来地区

 新城市は2005年に旧鳳来町、旧作手(つくで)村と合併し、約500平方キロメートルと県内自治体で2番目の面積になりました。市域の約8割が山林です。人口減少と高齢化が進み65歳以上の高齢者が占める比率は38・5%で全国平均(29・3%)を大きく上回っています。

移動報酬なし

 月曜の午前8時40分、新城市社会福祉協議会の事務所をホームヘルパーの浪崎麻紀さんが軽自動車で出発しました。浅尾洋平党同市議と白頭きよし党市政対策委員長も後に続きます。

 田園風景を越え山中の坂道へ。急カーブを何度も折り返し、標高500メートルの高原にある作手地域(人口約2000人)に着きました。出発から34分。車が止まった高い石垣の前で非常勤ヘルパーの尾藤弘子さんが待っていました。この地域の自宅から直行しています。

 石組みの急な階段を上ると2階建ての民家があり、介護ベッドで60代の男性が横になっていました。昨冬、仕事中に脳内出血で倒れ、障害が残りました。妻が働きながら訪問介護とショートステイを利用して在宅介護をしています。

 ヘルパーの2人は男性の頭の下に簡易シャンプー台を置き、手分けして、洗剤を泡立て、お湯でていねいに流します。タオルで拭き、ドライヤーで仕上げると男性の顔に赤みがさし、笑みがこぼれました。2人がかりで全身を清拭(せいしき)。最後は妻が用意したメッセージ入りTシャツに着替えさせます。尾藤さんが「大切にしてもらって幸せ者だね」と語りかけ、45分間の支援が終了しました。

 新城市には訪問入浴サービスの事業所がありません。隣市の業者が入っていましたが採算が合わず1年前に撤退しました。「この方が入浴できるのはショートステイに行くときだけです。だから週2回の清拭は欠かせません」。尾藤さんは訪問介護のかけがえのない役割を強調します。

 同社協の訪問介護は、全市域をカバーしています。JAや社会福祉法人の事業所の撤退が相次ぎ、現在、全市域を訪問しているのは事実上、社協だけです。作手地区はほぼ社協しかありません。利用者は7人いますが地区のヘルパーは尾藤さん一人。このため常勤ヘルパーが市街地の事務所から峠道を越えて通っています。

 同社協の柿原弘幸地域福祉課長はこう語ります。「非常勤ヘルパーは平均年齢が66歳と高齢化しており、危険な峠越えのある作手には行ってくれません。派遣できるのは常勤職員に限られ、事務所を起点に移動が1日100キロメートルを超えることもあります。ところが移動時間に介護報酬は算定されず事業所の持ち出しです」

 新城市など8市町村による「東三河広域連合」は、独自に中山間地の10キロメートルを超える訪問介護や通所介護に1キロあたり73円の支援金を補助しています。しかし「月4・5万円程度で不十分です」と柿原さん。介護報酬には過疎地の事業所への「特別地域加算」(加算率15%)がありますが、事業所が域外にある場合は算定できず同社協は対象になりません。「過疎地の事業所への国の支援が不十分です。広域に点在する利用者宅を訪問する人件費への補助がないと運営は維持できません」。柿原さんは訴えます。

 基本報酬が引き下げられた昨年度の収支は、2%の赤字でした。今年度も赤字は覚悟で、他事業の収益からの繰り入れを予定しています。「職員の処遇改善加算で賃上げはできました。でも事業所が傾いては元も子もない。引き下げは元に戻してほしい」

在宅かなわず

 市内の市街地に事務所を構える「ヘルパーステーション幸」。山間部にも利用者はおり、45分の支援に片道1時間かけて訪問していると言います。基本報酬引き下げでやはり昨年度は赤字に転落しました。「最低賃金が上がったので時給を上げました。ガソリン代や電気代も高騰しているのにまさか基本報酬を削るとは。役員報酬を3割カットしても赤字です」。田中仁事業統括本部長はこう語りました。

 山間部の鳳来地域(人口約9600人)にある合同会社「みどりの丘」。職員19人(常勤5人、非常勤14人)で鳳来地区を中心に115人を訪問しています。「訪問介護の需要は大いにあり、足りないくらいです。訪問介護など在宅サービスがもっと利用できれば自宅で暮らし続けられます。本人もご家族もそう望んでいるのに、かなわず施設に入ってしまっています」。代表社員の古井地善仁(こいじ・よしひと)さんは話します。

 実際、保険者である東三河広域連合も、「新城市など北部圏域では広範に高齢者宅が点在し、効率的なサービス提供が困難なため事業所が不足しています。不足を補う形で施設・居住系サービスが供給される体制になっている」(伊藤訓子介護保険課長)と。在宅サービスがあれば自宅で暮らせる人が、不足のため施設入所を余儀なくされていることを認めています。

基準緩和ムリ

 「しんぶん赤旗」は昨年来、訪問介護事業所がゼロや1の自治体が全国の5分の1超に広がっていると告発してきました。中山間地での在宅介護サービスの立て直しが求められています。ところが政府は13日に閣議決定した「経済財政運営と改革の基本方針2025」(骨太の方針)などで、人員配置基準の緩和や、訪問介護と通所介護の「人材の行き来」の柔軟化などを打ち出しました。

 これにたいし古井地さんは「人員基準緩和では職員がオーバーワークになり、離職に拍車がかかりかねません。訪問介護の要望が強い朝夕は、通所介護も忙しい時間帯で訪問には行けない。兼任は現実的ではない」と疑問を投げかけます。「過疎地の基本報酬を引き上げてほしい。市独自の補助があれば」と訴えます。

 7日、鳳来地区にある市民センターの集会所は熱気に包まれました。党新城市委員会が「新城市の訪問介護を考える懇談会」を開催、幅広い市民や介護事業者ら60人が集まりました。「ケアマネジャーも不足し今後も増える介護需要に戦々恐々です。ケアマネの処遇も改善してほしい。燃料代など事業所への直接的支援ものぞみたい」。ケアマネ事業所の経営者が切々と語り市民が聞き入りました。

 党議員団が行った市内介護事業者へアンケートでは、回答を寄せた17事業所のうち16が「物価高騰の影響がある」と。介護報酬の引き上げ(11事業所)や、光熱費補助など直接的な支援(5事業所)を求めていました。人員確保は13事業所が「綱渡り」か「不足」。そのため新規受け入れや、現状サービスの制限をしていました。

 浅尾市議は、「訪問介護などが足りず、介護が必要になったら地域で暮らせなくなっている現状が浮き彫りになりました。6月議会では、国に報酬引き下げ撤回を求める意見書をあげることや、市独自の補助を求めていきたい」と話しています。


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