2025年5月25日(日)
きょうの潮流
新緑のけやき並木。人波あふれる歩道。流行の発信地として知られる東京・表参道には若者や観光客らが楽しげにゆきかいます。しかし、この一帯がかつて火の海になったことはあまり知られていません▼80年前に都心を襲った山の手空襲です。なかでも5月25日は3月の東京大空襲で落とされた焼夷(しょうい)弾のおよそ倍の3200トンが投下され、赤坂や青山など広い範囲が焼失。3000人以上が犠牲となりました▼火事場の中を必死に逃げ回る人びと、道に散乱するミイラのような死体、黒焦げとなったけやき。体験者は「表参道で見た光景は、なんとも恐ろしい姿、まさに地獄絵そのものだった」と。今も交差点に置かれた灯籠の台石には焼死した人の脂が染みついています▼華やかな街の悲惨な歴史。それを語り継ごうと周辺の施設では展示会や朗読会が開かれています。14歳の時に空襲にあった山形美智子さんは「戦争は人生を破壊するもので、二度と起こしてはいけない」と訴えました▼太平洋戦争時の空襲被害は日本の至る所で。たくさんの命が奪われ、家は焼かれ、なにもかも失う痛ましさ。しかし政府は、甚大な被害をうけた民間人をいまだ放置したまま、救済法の成立も拒んでいます。戦争を起こした責任さえ棚上げして▼表参道の交差点近くには港区が建立した追悼の碑もあります。今年もまた、きょう25日に献花が実施されます。碑には、空襲や戦争を忘れず、にぎわう人や街の平穏をねがう言葉が刻まれています。「和をのぞむ」








