2025年5月24日(土)
「国債発行で消費税減税」
四つの大きな問題
参議院選挙を前にして、多くの政党が消費税の減税を主張するようになってきましたが、その内容はさまざまです。とりわけ大きな違いは、減税の財源をどうやって確保するのかという点です。その中で国債を財源にするという主張は大きな問題点をはらんでいるので注意が必要です。
日本共産党は、大企業や富裕層への減税を見なおして応分の負担を求めることなどで、財源を確保することを提案しています。
一方、こうした財源確保の方針を示さず、もっぱら国債の増発によって減税財源とすることを主張している政党もあります。しかし、消費税の減税のために安易に国債を増発すれば、さまざまな問題が発生するおそれがあります。それは、主に、(1)国債は不安定な財源である(2)インフレを招く(3)利払い費が暮らしの予算を圧迫する(4)大企業や富裕層への減税を温存・強化することになる―という4点です。順に見ていきましょう。
(1)国債に頼り続けられる保証はない
一つ目の問題点は、国債は極めて不安定な財源だということです。
日本共産党が提案している消費税率の5%への引き下げだけでも15兆円、消費税を完全に廃止するには30兆円以上の財源が必要です。1年とか2年とか、期間限定の減税なら別ですが、国債に頼って減税をずっと続けようとすれば、毎年のように国債を増やしていかなければなりません。
2025年度の政府予算の国債発行額は28・6兆円ですが、これは一般会計の発行分だけで、国債整理基金特別会計で発行される「借換債」(136兆円)や、他の特別会計で発行される「財投債」「GX債」「子ども・子育て支援債」「復興債」などを合わせると、総額は177兆円、国内総生産(GDP)の3割にもなります。政府が財政運営を続けるためには、毎年これだけの国債を誰かに買ってもらわなければなりません。
一方、国債は株式と同じように、金融商品として市場で売買されています。市場では銀行や証券会社だけでなく、海外の投資家なども自由に売買でき、日本の国債の12%は海外投資家が保有しています。とくに償還期限が1年未満の短期国債の保有額では、海外投資家が54%を占めています(いずれも昨年末)。
これらの投資家は、日本政府を応援するために国債を買っているわけではありません。国債の売買でもうけるために買っているのです。もうからないと思えば、だれも国債を買わなくなるかもしれません。それどころか、借りた国債を高く売って、値下がりした時点で買い戻してもうける「空売り」という手法でもうけようとする投機マネーも存在します。こうした投機マネーがひしめく市場からの財源確保は、極めて不安定です。消費税減税のために国債を増発すれば、その不安定さはますます増大します。何かの原因で国債が売れなくなったり、借り換えが困難になったりした場合には、減税を続けられなくなってしまうことになりかねません。
(2)「通貨の過剰」でインフレに
二つ目の問題点は、国債を過剰に発行すれば「通貨の過剰」につながって、「通貨の価格の下落=インフレ」を引き起こすおそれがあることです。
最近でも、欧米でコロナの時期に大量の国債を発行した結果、その後に年10%近くにもなるインフレが起きました。日本の場合、22年に物価高騰がはじまったきっかけは、日米の金利差によって起きた異常な円安で、輸入品価格が高騰したことです。しかし、為替レートの変動が減っても、物価高騰が止まらず、最近では欧米より日本の方が、物価上昇率が高くなっています。物価高騰には、為替レートだけでなく、国内要因も関係しています。その原因として考えられるのは、長期にわたったアベノミクスの超低金利と、コロナ期以降の国債増発によって、「通貨の過剰」が生じていることです。このことは、日銀の通貨量に関する統計データにも示されています。
とはいっても、コロナ期の国債増発は一時的なものです。消費税減税のために継続的に国債増発を続ければ、さらに大きな「通貨の過剰」につながり、今以上の物価高騰を引き起こすおそれがあります。もし、欧米で起きたような10%もの物価上昇が起きたら、せっかくの消費税減税の効果は吹き飛び、暮らしはもっと大変になってしまいます。
(3)利払い費が暮らしの予算を圧迫
三つ目の問題点は、国債金利が上昇して、利払い費が暮らしの予算を圧迫することです。
国債市場で国債の買い手がみつからなくなれば、買ってもらうために金利を上げなくてはなりません。これまでは、国債の買い手である銀行などから日本銀行が国債を買い上げることで、金利を低く抑えてきましたが、日銀は国債を大量に抱えすぎて、これ以上保有額を増やすのは困難になっています。日銀が購入を控えるようになったため、すでに国債の市場金利の上昇が始まっています。最近の市場金利は10年物国債でリーマン・ショック以降最高、超長期の30~40年物は過去最高となっています。
民間銀行などの貸出金利も国債金利に連動するため、国債金利が急上昇すれば住宅ローンや企業の借入金の金利も上がってしまいます。これまでのような超低金利を続けるのは無理だとしても、経済への影響を考えれば利上げは慎重に進めるべきです。ところが、国債を大量発行すると、急激な金利上昇が起きてしまい、暮らしも営業も深刻な事態に陥ってしまいます。
さらに、金利が上がれば毎年度の政府の国債利払い費も急増し、それが暮らしの予算を圧迫することになります。コロナ期に日本を上回る多額の国債を発行し、その後に起きたインフレの対策として金利を引き上げたアメリカでは、コロナ前には国防予算の半分以下だった利払い費が、今では国防予算を上回ってしまい、財政危機が深刻化しています。トランプ大統領が官公庁の乱暴なリストラを強行し、FRB(米連邦準備制度理事会=アメリカの中央銀行)の議長を名指しで非難してまで利下げを要求しているのも、利払い費の急増への危機感があるからだと思われます。安易に国債を増発すれば、日本でもこうした事態を招きかねません。
(4)大企業や富裕層に増税を求めず「金持ち減税」に
四つ目の問題点は、「国債発行で消費税減税」ということになれば、大企業や富裕層に減税財源を求めないということになります。
政府は、「消費税は社会保障のため」と宣伝してきましたが、実際には、消費税の多くは、大企業や富裕層への減税の穴埋めに使われてきました。「大企業・富裕層減税で空いた社会保障財源の穴埋め」と言う意味では社会保障に使われているかもしれませんが、実質的には、「消費税で大企業や富裕層への減税が支えられている」のです。
大企業や富裕層に消費税減税の財源を求めず、国債の増発で消費税減税を行うということは、とりもなおさず、今度は「国債で大企業・富裕層減税を支える」ということになってしまいます。金利上昇やインフレによって国民が深刻な被害を受けるリスクをはらむ国債を、大企業や富裕層への減税を維持するために大量発行するというのは、あまりに無責任ではないでしょうか。
さらに、消費税の減税は、お金持ちにも減税をもたらします。富裕層は日常の消費額が多いので、減税額も一般の国民より多くなります。さらに、投資目的でタワーマンションを買った場合なども、建築費にかかる消費税が減税になります。ですから、富裕層に対する所得税の増税を伴わずに、国債を財源にして消費税減税を行ったら、消費税減税が「金持ち減税」になってしまいかねません。
財源は余っているところから
「日本経済は、資金不足なのだから、国債発行で金回りを良くする必要がある」などといって、国債発行を主張する議論もあります。しかし、日本経済は全体として「資金不足」なのではなく、大企業や富裕層にお金が偏在していることに問題があるのです。
大企業は4年連続で史上最高益を更新し、500兆円を超える内部留保を抱えています。株主への配当は30兆円以上、自社株買いが20兆円近く、合わせれば消費税収を大きく超える50兆円を株主に還元しています。
日本の富裕層上位40人の資産は24年に29・5兆円でアベノミクス前の12年に比べて4倍近くにも増えています。23年には所得が100億円を超えた人は43人で、アベノミクス前の3倍以上です。この43人の平均所得は359億円もありますが、所得税はその16・2%しか納めていません。
消費税減税の財源は、こうしたお金が余っているところ、税負担の余力があるところに求めることが必要です。そうすれば国債に頼って金利が上昇してしまうことも、「通貨の過剰」でインフレが起きてしまうことも防げます。しっかりした財源提案を伴った日本共産党の提案こそ、暮らしも経済も財政も良くする、責任ある減税提案です。
(日本共産党政策委員会・垣内亮)








