2025年5月23日(金)
2025とくほう・特報 シリーズ 介護保険25年
訪問介護報酬引き下げ1年
「撤回を」世論拡大
292自治体で意見書 「在宅介護崩壊」党派超え危機感
政府が訪問介護基本報酬を引き下げてから1年余、引き下げ撤回・再改定を求める声が党派を超え全国に広がっています。意見書をあげた自治体は、昨年9月の3倍以上に増え、292自治体(中央社会保障推進協議会調べ)に上っています。(内藤真己子)
![]() (写真)講演する上野千鶴子さん=18日、新潟市 |
18日、新潟市内で東京大学名誉教授の上野千鶴子さんを講師に迎えた「介護保険を考える講演会」が開かれ、会場は450席のいっぱいの参加者の熱気に包まれました。県社保協と同民主医療機関連合会が主催。首長をはじめとした自治体関係者、民間介護事業者、職能団体、介護家族など、県内の幅広い介護関係者が集いました。
講演会は、同社保協と民医連が取り組んだ報酬引き下げ撤回・再改定を求める運動の1年の節目に企画されたもの。ヘルパーステーション・ほっと新津の小池真理子所長が取り組みを報告しました。昨年3月、全国に先駆けて県内全訪問介護事業所にアンケートを送ると3分の1から回答が寄せられました。
「事業継続が難しい」が4分の1に上る予想を超えた深刻な結果を受け同社保協は、県ホームヘルパー協議会にも働きかけ、4月末、厚生労働省に引き下げ撤回を要請しました。9月の2度目のアンケートでは事業継続困難が36%に増加、報酬をすぐに元に戻す要望が6割を占めました。小池さんは「利用者にとっても生活に影響する大きな問題。引き下げ撤回を国に訴えていきたい」と語りました。
注目を集めたのは、社保協などが主催する講演会に保守系の高橋邦芳同県村上市長が登壇したことです。同市は報酬引き下げによる事業所の減収を独自補助しています。
市長が支援策報告
![]() (写真)独自支援策への事業者の声を紹介する村上市の高橋邦芳市長=18日、新潟市 |
村上市は過疎で高齢者人口も減少するなかでも要介護認定者は微増し、とりわけ要支援1~要介護1の軽度認定者が増えています。「訪問型の介護、ヘルパーさんの活躍に期待せざるを得ない状況」(同市長)が生まれていました。
一方で同市は面積が東京23区の2倍弱と広域。訪問介護事業所にとっては介護報酬に算定されない移動距離が長い不利な条件にあります。そのもとでの報酬引き下げ。「訪問介護だけ下がる。なんで?」と疑問を持ったという高橋市長は、「村上市は広大な面積で(訪問介護は)車を使ってアプローチする。冬季は除雪してからサービスを提供する。報酬をこれ以上下げて大丈夫なのかという認識があり、事業者に聞いてみた」と語りました。事業所への調査でホームヘルパーの移動範囲が大きい事業所では年間53万~73万円の減収が見込まれました。「このままでは在宅介護の崩壊は避けられない」との声も寄せられました。
同市は訪問介護事業所の支援に乗り出し、基本報酬の引き下げによる減収分を支援する事業を昨年度から3年間の予定で実施しています。さらにガソリン代高騰への対応で事業所の車両1台当たり3000円等の支援もしています。
事業者からは「大変有益」「ガソリン価格も高騰し移動距離も長いためとても助かる」などの歓迎の声や「国には基本報酬の引き上げをお願いしたい」「介護職という生き方に誇りを持って働けるよう、国には実情を踏まえてかじをとっていただきたい」などの声が寄せられていると紹介しました。
高橋市長は「介護保険の制度設計はもちろんだが、事業者さんがいなければ(介護サービスは)届きません。しっかり支える仕組みと両立ててやらねばならないと取り組みを進めた」と力説。全国市長会として「訪問介護報酬は、(次期改定を)待たず見直してくれと要望している」とのべ拍手に包まれました。
上野さんは介護保険創設以来の25年を振り返りました。「介護現場の経験値が蓄積し人材が育った。サービスメニューも増え、『在宅ひとり死』が可能になった」との評価点とともに、利用者負担増と給付削減が連続して繰り返された「介護保険の黒歴史」を告発しました。
また、地方自治体が保険者の介護保険では、本来村上市のような独自の施策が可能だとし期待を寄せました。「赤旗」の調査報道を紹介し、報酬引き下げ後、訪問介護「空白」自治体がさらに広がったと指摘し、引き下げ撤回と再改定を求めました。政府は、利用料原則2割負担、要介護1・2の生活援助などの保険外しと自治体丸投げ、ケアプラン有料化などさらなる改悪を狙っているとのべ「介護保険問題を参院選挙の争点にしていこう」と力強く訴えました。
講演会には認知症の人と家族の会新潟県支部、新潟県ホームヘルパー協議会の代表も登壇しました。家族の会の金子裕美子会長は「村上市長のお話に共感しました」と語り「ヘルパーを利用すれば認知症の人もかなりの期間、自宅で暮らすことが可能です。ヘルパーがいなければ地方の高齢者は子どもが暮らす都会に呼び寄せられ、軽度のうちに施設に入ることになる。一番の力は訪問介護なのに、このままでは地域からヘルパーさんがいなくなる」と危機感を募らせました。
新潟県ホームヘルパー協議会の岩崎典子会長は「県協議会の会員は、1年前の204人から170人に減少しました。報酬引き下げと人手不足が相まって閉鎖する事業所が増えています」と。「今日の講演会では自治体の意見書が広がっていることを知り励まされました。職能団体として、もっと広く訴えていきたいと思います」と話しました。
調査で実態鮮明に
新潟県のような訪問介護事業所アンケートが各地で事業所の経営危機を浮き彫りにし、報酬引き下げ撤回・再改定を求める自治体意見書の可決に弾みをつけています。
山梨県民医連は、昨年4月、県内全訪問介護事業所にアンケートを実施し半数強から回答が寄せられました。8割が報酬改定で「経営危機」を訴え、そのうちの3割が「事業継続困難」と回答しました。県民医連はプロジェクトチームを結成して意見書提出を求める地方議会への請願運動を進め、甲府市は昨年12月議会で採択、山梨市は今年3月の議会で全会一致採択されました。山梨市では請願者に介護福祉士会、認知症の人と家族の会が加わり、43の事業所・法人から賛同署名を集め、保守会派も紹介議員になりました。運動した同県民医連介護福祉部の清水優子さんは、「山梨市では運動が進むにつれ与党会派から全会一致で通した方がいいとの声があがるなど予想以上の反応があり、結果につながりました。働きかければ党派を超えて広がると思う。多くの自治体に働きかけていきたい」と語ります。
千葉県では昨年12月議会で13自治体、3月議会では10自治体で意見書が可決されています。同社保協は県内500事業所に抽出してアンケートを実施(回答129事業所)。55%が制度改定前より経営が悪化し、50%が今後の人材確保が「見込めない」と回答しました。
地域社保協がなく共産党議員も空白の自治体に社保協が請願を持ち込み可決に至った例もあります。県社保協の竹内敏昭事務局長は「訪問介護事業所が少なく訪問介護を利用できない問題は、地方議員も直面しており党派を超えた課題になっています。意見書可決自治体が広がる余地があります。取り組みを広げましょう」と訴えています。










