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2025年5月21日(水)

社会リポート

政府委員歴任 権力者の性暴力「なくしたい」

不法行為・損賠確定も謝罪なし

 政府委員を歴任した社会福祉法人グロー(滋賀県)の北岡賢剛元理事長が、権力や地位に乗じて女性2人に性暴力やハラスメントを行っていました。女性2人が「尊厳を無視された」として同氏を訴えた裁判は、民事上の不法行為と損害賠償が確定。他方、北岡氏からは反省の弁も被害者への謝罪もありません。(日隈広志)


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(写真)記者会見で話す木村さん(左)と鈴木さん(社会福祉法人役員による性暴力・ハラスメント裁判の原告を支える会ホームページから)

 北岡氏は、厚生労働省の社会保障審議会障害者部会委員、内閣府の障害者政策委員の経歴があります。障害者芸術分野の重鎮とされています。

 原告で、当時グロー職員だった鈴木朝子さん(仮名)は出張先のホテルなどで性加害を受けました。同じく原告で、北岡氏が理事を務めていた社会福祉法人愛成会(東京都)の幹部職員の木村倫(りん)さん(仮名)は2007年から19年まで、北岡氏から「抱きたい!」などのセクハラメールや飲酒の強要、泥酔させられてホテルに連れ込まれ、準強制性交未遂の性暴力を受けました。

130件の加害行為

 2人は20年11月、北岡氏による130件もの加害行為を挙げて、同氏とグローの法的責任と損害賠償を求め東京地裁に提訴。24年10月の同地裁判決は、性暴力やハラスメントの事実をほぼ原告の主張通り認めました。判決は、北岡氏の行為は職場の延長線上で行われたもので、年齢差や上司の立場を利用した加害だと指摘。その上で北岡氏に対して木村さんに220万円、グローに対して安全配慮義務違反として鈴木さんに440万円の損害賠償を命じました。

 北岡氏はこれを不服として控訴しましたが、4月11日に取り下げ、一審判決が確定しました。

 木村さんは、北岡氏が二審判決を待たずに裁判を終わらせたことを批判。尋問で「(性加害は)冗談だった」と述べるなど一貫して反省の姿勢はなかったといいます。同氏からいまだに謝罪はないとして、「私は13年間も被害に向き合わざるを得なかったのにむなしさが残る」と語りました。同時に「性暴力に対する厳しい判決が確定してほっとしている」とも述べました。

変わりつつある

 判決は、複数の行為が継続的な一連の行為だとして、民法上の消滅時効(3年)の起算点をずらして、過去の加害についても法的責任を認めました。7、8年たって被害を認識できる状況もあるとして、「被害者の境遇に立ってくれた」と木村さん。「性暴力を許さない社会に変わりつつある。北岡氏のような権力関係を背景にした性暴力は社会にあふれている。同じ境遇の人たちと声を上げ、社会を変えていきたい」と語りました。

 代理人の笹本潤弁護士は、事件の背景に男性中心の経営構造があり、再発防止にはジェンダー格差の是正が不可欠だと指摘。「北岡氏は今も業界に権威がある。新たな被害者を出さないよう徹底調査に基づく対策が必要だ」として、グローに対して第三者委員会による調査と結果の公表を求めています。

 北岡氏を政府委員に選んだ国の責任が問われます。20日までに、本紙の取材に厚労省は「個別の案件には回答しない」と回答。内閣府は「性暴力は決してあってはならない」とした上で、委員の選定は「慎重に行いたい」と回答しました。


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