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2025年5月21日(水)

2025焦点・論点

トランプ自動車関税 トヨタにみる

労働運動総合研究所理事 佐々木昭三さん

下請け企業・雇用・地域経済に打撃 「貢ぎ物」でなく撤回求める交渉を

 米国のトランプ大統領が発動した輸入自動車や自動車部品への高関税は、「世界一」を誇るトヨタ自動車が本社を置く愛知県でも自動車・部品業界、下請け関連企業、労働者、地域経済に衝撃を与えています。その影響をどう見るか、国際経済ルールを破る一方的な「トランプ関税」にいかに対応すべきか、労働運動総合研究所理事の佐々木昭三さんに聞きました。(伊藤紀夫)


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(写真)ささき・しょうぞう 1950年生まれ。トヨタ労働問題研究者。労働運動総合研究所理事。『「世界一トヨタ」の社会的責任と労働者のたたかい』など。

 ―自動車、エンジンなどの自動車部品への追加関税は25%で、自動車は4月3日、自動車部品は5月3日に発動されました。その影響は深刻ですね。

 トランプ氏の狙いは、自動車の米国内生産の拡大、米国の農畜産物を日本に売りつける輸出拡大で、膨大な貿易赤字を縮小して黒字にしていこうということです。

 日本の自動車への関税は前からある2・5%と合わせると、合計27・5%になります。そのうえ自動車部品にも追加関税をかけられたわけです。

 自動車関連産業は日本の基幹産業で、米国への輸出品目の割合では1位が自動車(完成車)、2位が自動車部品です。それにかけられた高関税分を販売価格に上乗せすれば、製品は売れなくなってしまう恐れがあります。日本の自動車産業はすそ野が広く、重層的な下請け企業や販売を含めた多数の関連企業に大きな打撃を与えることになると思います。

 ―トヨタ自動車は8日、2026年3月期(25年度)の純利益が前年度比34・9%減になる見通しを発表しました。円高に加え、「トランプ関税」の影響を見込んでいます。トヨタは、どう対応しようとしているのでしょうか。

 トヨタは米国で約53万台を現地生産し、米国に約133万台を輸出しています。トヨタは現時点では、日本と米国の政府交渉を見守り様子を見ながら、国内生産300万台体制を維持すると言っています。高関税でコストが拡大する部分はとりあえずトヨタが吸収し、事態の推移の中で今後、検討していこうというスタンスです。

 しかし、8日の米国と英国の交渉を見ても、米国は英国に対し貿易黒字で、英国からの自動車輸入は日本の10分の1以下ですが、それでも10万台を上限に関税を10%、それを超えると25%かけることで合意しました。そういう点では、日本との関税交渉も予断を許さない状況です。

 トヨタは今、トランプ関税などで利益が34・9%減ると予測し、利益をできるだけ減らさない対策を検討しています。

 関税対策としては、米国の現地生産の比率を高め、部品も現地で調達できる比率を上げていくことを考えています。関税コストがかからない体制をつくり、現状の生産台数を維持して収益を確保していこうという狙いです。これまでもコスト削減をしてきましたが、さらなるコスト削減で生産性を上げていくため、ロボットやAI(人工知能)も使った自動化・人減らしを検討しています。

 豊田自動織機、デンソー、アイシンなどを中核とするトヨタグループは、その方向にそった形で現地生産に切り替えていく動きをとっています。

 しかし、現地生産といっても、期間工の時給は日本が約2500円、米国が約5000円で、人件費は倍かかるし、米国の資材費も日本より2~3割、場合によっては5割も高い。コスト高で、そう簡単にはいかないのも現状です。

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(写真)㊤トヨタ自動車の金型をつくる下請け企業の工場=愛知県
㊦トヨタ総行動で「内部留保を賃上げ、下請け単価引き上げに回せ」と声を上げる人たち=2月11日、名古屋市

 ―高関税で輸出が抑えられ、国内生産が縮小すると、その影響は計り知れませんね。

 下請け関係を含めてトヨタと直接取引がある企業は約400社です。トヨタが把握している4次下請けまでを含めると約6万社です。さらに5次、6次下請けがあります。トヨタが高関税で生産減になれば、それらの企業は経営難に陥り雇用にも悪影響が及ぶため、不安や危機感をもって成り行きを見守っている状況です。

 08年のリーマン・ショックでトヨタが300万台体制から250万台体制に国内生産を縮小した時には、非正規雇用切りが社会問題になりました。収益確保のためのコスト削減として期間工や派遣など非正規雇用労働者の大量解雇を強行した問題を決して繰り返してはなりません。

 この間、労働組合やトヨタ総行動などの運動で、トヨタと直接取引がある400社には賃上げ分についてトヨタが価格転嫁で上乗せする動きをつくってきました。ところが、「トランプ関税」によって“仕事自体がなくなる、縮小する”という不安の中で、その動きがぴたっと止まってしまった。物価高騰の中で生活を守るための賃上げにも悪影響を与えています。

 地元の愛知県は自動車が基幹産業ですから、地域経済への影響は深刻です。県やトヨタの「企業城下町」になっている豊田市など西三河の自治体、商工会議所は相談窓口を設けて自動車関連下請け企業などの声を聞きながら、経営や雇用の問題を含めて対応し始めています。

 ―一方的で無法なトランプ関税に屈したら、日本経済は大打撃を受けることになりますね。どう対応すべきでしょうか。

 トランプ政権の高関税は横暴極まりない国際貿易ルール違反で、自分に都合がいいように世界を振り回しています。だから、世界的規模で大きな反撃が広がっています。

 米国内でも、自動車関係では部品はメキシコ、カナダなどの周辺国から輸入して組み立てており、高関税は米国の自動車産業にも打撃を与えます。このため、自動車産業の経営者、労働者・労働組合なども反撃し、国民的な運動が活発になってきています。

 今、国際経済ルールを破り、日本の屋台骨である産業と地域経済を破壊するトランプ関税に対し、毅然(きぜん)として撤回を求め、世界と連携していくことが大事です。

 ところが石破茂政権内には、米国産農産物の輸入拡大や米国産自動車の輸入拡大のための安全規制の緩和など「貢ぎ物」を差し出す交渉で難局を乗り切ろうとする動きがあります。

 それだけに、国民の利益を損なう安易な妥協をさせず、経済主権や食料主権、生活と営業、雇用を守るため、保守の人たちを含めた幅広い運動が必要だと思います。


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