2025年5月21日(水)
きょうの潮流
「新しい概念の形成には新しい用語が必要だ」。そう考えたポーランドの法律家は一冊の本を書き上げます。「占領下のヨーロッパにおける枢軸国の支配」。その中でつくられたのが「ジェノサイド」でした▼人種や部族を意味するギリシャ語の「ジェノス」と、ラテン語で殺人を意味する「サイド」の合成語。ナチスドイツのユダヤ人集団殺害をどう呼び、どんな法で裁くか。その先駆者となったのがラファエル・レムキンでした▼彼が考案した言葉は、戦後のニュルンベルク裁判で使用され、国連はジェノサイド犯罪の防止と処罰に関する条約を採択しました。これは発足後、最初の人権条約となり、現在では150を超える国が批准しています▼見渡す限りのがれきの山、重なる遺体、飢えに泣く子どもたち。「ガザはまるで生き地獄だ。食べ物や飲み物もない。このまま死んでしまいたい」。現地から伝わる絶望の叫びです▼医師のひとりは本紙に「イスラエル軍は動く者すべてを攻撃している。医療従事者は家族を殺され、心身ともに極限状態。まさに皆殺しの戦争だ」。連日の空爆に住民の強制避難、さらに大規模な地上戦の再開。国連は「民族浄化に等しい」と▼ジェノサイド反対のデモは世界各地で。その声は条約に批准しているイスラエルからも。親族49人をホロコーストで失ったレムキンはユダヤ人だけでなく、すべての人間集団の破壊を危惧していました。彼が発し、人類の力となった「ジェノサイドを禁じる」。いま改めて。








