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2025年5月14日(水)

学術会議法案衆院通過

消える戦争の反省

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(写真)手をつなぎ「人間の鎖」で学術会議解体法案に反対する人たち=7日、衆院第2議員会館前

 学術会議解体法案が13日、衆院本会議で採決され、自民、公明、日本維新の会の賛成で通過し、参院に送られました。学問の平和利用という根本理念や学問の自由を脅かす重大な法案をわずか3日の実質審議で採決強行したことに、厳しい批判の声が上がっています。

狙いは軍事動員

 政府案の最大の問題は、学術を軍事動員するために、これに抵抗する学術会議を解体するというその狙いにこそあります。防衛装備庁が2015年から始めた大学・研究機関に対し資金提供する軍事研究の委託制度である「安全保障技術研究推進制度」に対し、学術会議が17年の声明で慎重姿勢を呼び掛けました。防衛装備庁や自民党、軍需産業の関係者らから学術会議を敵視する発言が相次いでいました。

 法案審議の中で、この狙いをあからさまに示す発言が出されました。

 日本維新の会の三木圭恵議員は4月18日の衆院本会議で、17年の学術会議の声明が、1950年の「戦争を目的とする研究は絶対にこれを行わない」声明、67年の「軍事目的のための研究を行わない」声明を引用していることも示し「(学術会議は)防衛に関する研究を拒否し続けている」「かたくなな軍学共同反対のスローガンは改めろ」と壇上から叫んだのです。5月9日の内閣委員会でも同氏は、17年の声明で「多くの大学が軍事的安全保障研究にしり込みするようになった」と述べ、13日の本会議では「今後は防衛技術の研究に貢献していただきたい」などと言い放ちました。いずれの場面でも自民党席から喝采の拍手が湧き起こりました。

 自公が公然と語れない学術会議解体の狙いをあけすけに代弁する、補完勢力としての本性をむき出しにしたのです。

意見違えば排除

 国会審議を通じて、法案の危険性が明らかになりました。

 日本共産党の塩川鉄也議員は、同法案が現行の学術会議法の前文を削除していることについて、「文化、平和の文言が消え、社会課題の解決に寄与することを目的とし、学術を経済社会の健全な発展の基礎と置き換えている」と指摘。学問の自由を保障する憲法に立脚した学術会議の理念を否定するものだと批判しました。坂井担当相は「継続性は失われることはない」と繰り返し、「表現を変えた」と称して「平和、文化」を削除した理由を答えられませんでした(4月25日、衆内閣委)。

 現行法の「独立して職務を行う」の規定を削除した同法案は、幾重にも学術会議の独立性と自律性を侵害する仕組みを設けています。新たに「監事」や「評価委員会」が置かれ、活動を監督。両者とも会員以外から「内閣総理大臣が指名」します。会員選考では、会員以外の者でつくる選定助言委員会が選定方針や候補者選定に意見を述べるなどと規定。5月7日の参考人質疑で、梶田隆章前学術会議会長は独立性を奪われることに懸念を繰り返し表明しました。

 坂井担当相は「特定のイデオロギーや党派的な主張を繰り返す会員は、学術会議の中で、今度の法案の中で、解任ができる」と発言。法案には「解任」の規定(32条2項)が新設され、「(会員が)著しく不適当な行為をしたとき」は解任を求めることができるとしています。「著しく不適当」が何かは不明確です。「特定のイデオロギーや党派的な主張を繰り返す」ことを「不適当」だとして、解任できるとなれば、学者の学識にかかわらず、「党派的」と決めつけて排除することになります。


“お抱え研究者”化の恐れ

学術会議法学委員会委員長 同志社大学教授 川嶋四郎さん

 日本学術会議の法学委員会委員長として、内閣府に同法案のさまざまな問題点を指摘してきた川嶋四郎同志社大学教授に、政府の主張のいいかげんさと、同法案が成立することの危険性を聞きました。(若林明)

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(本人提供)

 政府の法案は、現行の学術会議法の前文を無くしています。前文の中に「平和的復興」および「文化国家」という言葉があり、戦後期の将来に向けたあるべき姿が書かれています。

 現行の学術会議法は、各学問分野から選ばれた構成員でつくられる学術体制刷新委員会の答申に基づいて制定されました。まさに科学者の総意を体現する法律であり、前文は法律のそういった基本的性格を顕著に示しています。

 学術会議法の制定時には、科学者が国家に動員され、戦争に動員され、結局、国家を破滅に導いてしまったという自責の念が当然ありました。国民の福祉と利益のため、国民の皆が豊かになるように活用されるべき科学が、戦争に悪用された。それは許されないという強い反省のもとにつくられたことも前文は示しています。

 科学者を代表する学術会議の同意を得ることなく前文を廃止し、勝手に新たな基本目的に変更することは、学術会議を根本的に変質させる危うさがあります。

 内閣府は、法案は(組織について定める)組織法にすぎず、「前文」はいらないと言っていますが、学術会議法は、日本の科学全体の将来のあり方を考えていこうという「基本法」の性質も持っているのです。

 内閣府は、前文の内容が、各条文に書かれているといいます。法案が削除した現行法の「科学が文化国家の基礎」「わが国の平和的復興」は、法案の「学術に関する知見が人類共通の知的資源」「経済社会の健全な発展」に含まれていると説明します。しかし、戦前は「満蒙(まんもう)は日本の生命線」と言って、日本のみ「経済」的な「発展」のために侵略戦争を正当化したのです。

 政府は「独立性の問題はありません」と言いつつ、法案には、人事、活動、予算を監視・監督する仕組みを幾重にもつくられています。結局は、政府が関与・介入し、政府が統制できる組織をつくろうとしているということは明らかです。

 自由な知の探究が認められていることを前提に、多様な考え方を認めることが学問の進歩を促し、それが国民の利益につながるのです。学術会議を、目先の「政治的利害」ばかり重視するお抱え“研究者集団”にしてはいけません。


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