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2025年5月11日(日)

2025とくほう・特報

シリーズ 介護保険25年

ケアマネ業務過密化 当事者語る

介護保険 すき間埋める無報酬労働

国が処遇改善から外し低賃金続く

 高齢者やその家族の相談に乗り、適切な介護サービスを受けられるように調整するケアマネジャー。業務過密化や人手不足、低い報酬など何重もの苦難に直面しています。4月中旬、新潟市内の居宅介護支援事業所(ケアプランかえつ、ケアプランひだまり、穂波の里)で働くケアマネジャー3人と、新潟勤労者医療協会介護部の小川恵さんが課題を語り合いました。(本田祐典)


写真

(写真)ケアマネジャーの課題を語り合う(左から)小川さん、前田さん、笹川さん=4月中旬、新潟市内

 なぜ、業務が過密化しているのか。ケアプランかえつの前田可奈さんは「利用者の困りごとを把握するのはヘルパーやケアマネ。介護保険の制約でヘルパーが対応できない場合も多く、自分たちでやることになる」と語ります。

 緊急対応の多くは介護保険制度で評価されず「シャドーワーク」と呼ばれる無報酬労働になります。3人が語る実態は…。

“シャドーワーク”

 「介護保険や公的支援でまかなえない事をやらざるを得ない。入退院の準備や同行、役所手続き、ヘルパーに依頼できない買い物も」(ケアプランひだまりのAさん)

 「介護サービスが入る環境を整えるため、退院前に鍵を預かってゴミであふれた家を掃除」「公共料金の遅延通知など郵便物チェックや支払い代行もやる」(前田さん)

 「緊急の問題にはまずケアマネが対応。例えば、サービス提供時に認知症の方が不在ならみんなで捜すなど。その後に利用可能な制度やつなぎ先のサービスを調べていく。つなぎ先が信用できるか、少ない年金で対価を払えるかと無限のループになる」(穂波の里の笹川桂子さん)

 シャドーワークについて厚労省は「本来業務ではない」(昨年9月の検討会資料)と整理しています。

 しかし、利用者や家族が頼るのは身近なケアマネジャーです。笹川さんは「何かあったとき、まず相談が寄せられる役割は大切。家庭に入り込んでいるケアマネだからこそ対応できることも多い」といいます。

 シャドーワークの多くは、介護保険の制約や公的福祉サービスの後退によって生まれています。

 小川さんは、ケアマネジャーの負担を軽減するには、実際に業務をつなげる先や相談場所が不可欠だと指摘します。「行政の仕事までケアマネに投げてしまう部分がある。行政が現場で一緒に解決策やつなぎ先を考えるような仕組みが求められている」

国による利用抑制

グラフ

 過密化の原因はシャドーワークだけではありません。国による介護サービスの利用抑制がケアマネジャーを締め付けています。

 穂波の里では今年1月、ある利用者(要介護1)のケアプランが行政に「点検」されました。生活援助(掃除や洗濯などの家事を行う訪問介護)の回数が多すぎるというのです。

 厚労省は2018年から生活援助に回数制限を設け、要介護1で月27回までとなっています。超える場合は、理由を行政に説明し認めてもらう必要があります。

 穂波の里の管理者を務める笹川さんは同僚と説明を念入りに準備し、元のプランを守りました。「認めてもらうまで大変だった。基準を超えたプランはつくれないと思うケアマネがいてもおかしくない」

 Aさんも自身の経験から「点検の名で、重箱の隅をつつくような質問が繰り返される。行政の確認のためのケアプランになりかねない」と語ります。

 国が介護報酬を低く抑えてきたことによるヘルパー不足も、ケアマネジャーを悩ませています。

 「日曜に訪問できるヘルパーがいない。もう1カ月くらい探し中」(笹川さん)

 「夜間の訪問系サービスが地域にほとんどない。そこから在宅で暮らせなくなっていく」(前田さん)

 さらに、国の失策が続いています。昨年度からケアマネジャーが担当できる件数を増やし、過密化を加速させています。

 ―担当件数の上限を39件から44件に変更。条件を満たせばさらに緩和。

 ―要支援の人を、これまでの2分の1換算から3分の1換算(3人で1件)に変更。

 「いまでも過密なのに、44件担当は無理。運営基準の項目をまっとうできず、報酬の減算も受けるでしょう」と前田さん。

 ケアプランかえつのケアマネジャー5人はそれぞれ要介護32~35人と、要支援8人程度を担当。緩和前の上限も下回りますが、前田さんのスケジュール帳は休日以外すべて埋まります。

 ケアマネジャー不足は、低賃金を押しつけてきた結果です。小川さんは「介護職員よりさらに給与が低くなっている。募集しても本当に来ない」と訴えます。

 国は介護職員の賃金を増やす処遇改善策からケアマネジャーを除外してきました。石破政権も介護職員への一時金支給(24年度補正予算)から、ケアマネジャーを外しました。

 ケアマネジャーの受験者は、国が受験資格を厳格化した18年を境に半分以下に減少(グラフ)。介護福祉士などの資格を持つ人でも受験まで最短5年かかるようにしました。このときも、専門性に見合う報酬へと引き上げませんでした。

 一方で国はケアマネジャーの処遇改善を口実にして、ケアプラン有料化(利用者の自己負担導入)を狙っています。「利用者の負担を増やすやり方はおかしい」とAさん。小川さんも「相談にお金がかかるというのは問題」と指摘します。

 笹川さんは懇談の終盤、「この4月、試験で合格したばかりの新人が入職した」と報告。そして、大変さを訴えるだけでなく、解決策を考える機会にしたいと語りました。参加者は「入った人が続けられる環境をつくろう」(前田さん)などと語り合いました。

 全日本民主医療機関連合会ケアマネジメント委員会(石田美恵委員長)は4月28日、厚労省に対し、シャドーワークをケアマネジャーが相談できる、業務をつなげる場所の確保▽処遇(賃金など)の改善▽ケアプラン有料化反対―などを要請しました。

 介護支援専門員(ケアマネジャー) 要介護者や要支援者が心身の状況に合わせて適切な介護サービスを受けられるように計画書(ケアプラン)を作成し、市町村や介護事業所などとの連絡調整を行う専門職。ケアプランを作成する居宅介護支援事業所のほか、特別養護老人ホームなどの施設や地域包括支援センターにも配置されています。


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