しんぶん赤旗

お問い合わせ

日本共産党

赤旗電子版の購読はこちら 赤旗電子版の購読はこちら
このエントリーをはてなブックマークに追加

2025年5月9日(金)

2025焦点・論点 シリーズ介護保険25年

介護崩壊危機 打開の道は

全日本民主医療機関連合会事務局次長 林泰則さん

人手不足・負担増・使えない 国庫負担大幅引き上げこそ

 介護保険制度が創設されて25年、崩壊危機が進行しています。打開の方向は―。全日本民主医療機関連合会の担当者として制度創設以来、介護保険と向き合ってきた林泰則同事務局次長に聞きました。(内藤真己子)


写真

(写真)はやし・やすのり 1989年、全日本民主医療機関連合会事務局入職。2000年から介護分野を担当し、14年以降、同事務局次長。

 ―創設から25年の現状をどうみていますか。

 制度発足当初と比べると利用者は3倍以上に増え、公的介護サービスを受けられる環境を一定整えてきた点は評価できます。しかし介護困難は増大しています。需要にサービスが追いついていません。それはこの25年、自民党政府が給付を削り負担を増やす制度改悪を繰り返してきたからです。その果てに保険料を納めているのに必要なときに必要なサービスが受けられない「保険あって介護なし」という、公的制度として重大な機能不全=空洞化を起こしています。

 とりわけ深刻なのは介護職員の不足です。「職員を募集しても応募がない」状態が続いており、高額な紹介料を支払う有料職業紹介業者に頼らざるを得ない現状もあります。介護福祉養成校はこの3年で35校も減り、若い方の参入が急速に減少しています。

 こうした中で介護職員数は制度発足以来初の減少に転じました。2023年10月時点で212・6万人と前年度比2・8万人のマイナスです。人材流出が相当進んでいるとの指摘もあります。政府は26年度の介護職員必要数240万人に対して25万人不足すると推計していますが、解消する見通しは立っていません。

 政府はこの間、介護報酬の加算で職員の処遇改善を行ってきましたが、民間の賃上げ水準にはるか遠く及ばず、介護職員と全産業平均との賃金格差は昨年月8・3万円(前年6・9万円)に拡大しました。このままでは介護を担う専門職が枯渇し介護サービスが維持できません。

 実際、中山間地を中心に介護基盤の崩壊が始まっています。「しんぶん赤旗」の調査によると、訪問介護事業所ゼロの自治体は昨年12月末で107に広がっていました。一つしかない自治体と合わせると「空白」が5分の1に及んでいます。

 これらの事態は、政府が介護給付費の抑制をねらい、介護報酬を低く据え置いてきたことが原因です。とくに訪問介護事業所は24年度の基本報酬引き下げで深刻な経営難に陥っています。倒産や休廃業が過去最多を更新、人手不足を加速させ、地域の介護基盤の瓦解(がかい)につながっています。

 ―利用者にとってもますますサービスが使いづらくなっていますね。

 政府が「制度の持続可能性の確保」の名のもと負担増と給付削減を繰り返し「使わせない」介護保険にしてきたからです。利用料は当初1割負担でしたが、15年に「一定以上所得」2割、18年に「現役並み所得」3割負担が持ち込まれました。

 施設の食費・居住費は05年に全額自己負担となりました。住民税非課税世帯には軽減措置(補足給付)が導入されましたが15年、18年に縮小され、負担できず退所を余儀なくされた人がいました。

 給付削減では発足間もない06年には「新予防給付」を創設、「要支援1、2」の新区分をつくり軽度サービスを縮小していく流れがつくられました。09年には要介護認定システムの全面的な見直しで判定を軽度化。介護保険は要介護度ごとにサービス支給限度額があるので軽度化は大きな給付抑制になります。

 15年には「総合事業」を創設。要支援1、2の訪問介護と通所介護を保険給付から外し、安上がりな自治体事業に移しました(17年度末までに全市町村が移行)。同時に特別養護老人ホームの入所を原則要介護3以上に制限し、52万人の待機者のうち要介護1・2の入所がきわめて困難になりました。

 18年には訪問介護の生活援助を厚労省が定めた回数以上利用する場合、ケアプランを市町村に届け出ることを義務化。事実上の回数制限をかけました。

 制度の「質」を変える見直しとして、「自立」の理念が「介護が必要ない状態」へと改変され、制度からの離脱(「卒業」)を誘導する方向が強められました。「保険者機能の強化」として自治体に財政インセンティブを導入し、給付削減を競わせています。

 利用抑制が進む一方、高齢化に伴い、給付費全体が増大し続けています。連動して介護保険料も右肩上がりに上昇しており、スタート時(月2911円)から倍化(同6225円)しています。月9000円を超えた自治体もあり高齢者が保険料を払えなくなる事態も生じています。

 このように介護保険は、事業所の人手不足と経営難、利用困難の広がり、そして保険料の上昇という構造的な問題に直面しています。このままでは制度の形だけは残るものの、サービス提供・利用がきわめて限定的になるか、もしくは制度そのものが「持続不可能」な事態に陥りかねません。

 ―制度を立て直すことが急務ですね。必要なことは。

 二つの大きな柱が必要です。まずは人材不足の解消に向けた抜本的な処遇改善が緊急課題です。介護職員の賃金を全産業平均レベルまで早急に引き上げることが必要です。ただし介護報酬の加算で対応しようとすると、利用料にはね返るか、小幅な改善にしかならないため、全額公費(国費)を投入して実施すべきです。スピード感を持って取り組む必要があります。

 もう一つは介護保険の財政構造の抜本的な見直しです。介護保険料と給付費が直接連動するいまの仕組みは、給付抑制圧力として機能しています。高齢化で介護需要が増える中で、必要なサービスを提供し、事業所の経営を安定させ、かつ高齢者の保険料を支払える水準に抑えるためには、国庫負担を大幅に引き上げるしかありません。財源論が議論になりますが、富裕層や大企業への優遇をあらためる税制改革、国民の所得を増やす経済改革、さらに「5年で43兆円」を積み増し、さらに増額するとしている大軍拡予算を削れば可能です。「ミサイルではなく、ケアを」の声を広げなくてはなりません。

 また民医連や全労連などが加盟する中央社会保障推進協議会は、憲法25条を土台にすえ、介護が必要なときに必要なサービスが保障される「必要充足の原則」を貫いた「本来の社会保険」へと転換させる「抜本改革」案を提起しています。それには現行の利用者と事業所の直接契約に基づくサービス費補償方式(現金給付)から、国や自治体が介護保障に最終責任を持つ現物給付方式に切り替えることが不可欠です。利用抑制の仕組みとなっている要介護認定やそれに伴う支給限度額、応益負担の利用料の廃止、さらに保険料の定率負担と減免制度の法制化などを掲げています。

 ―介護保険は東京都議選や参院選の争点になりますね。

 介護は、まさに今の自民党政治が行き詰まって矛盾が噴き出している分野の一つです。特に、訪問介護の基本報酬引き下げは、政府にとってアキレス腱(けん)となる可能性があります。マイナ保険証の問題と同様、合理的な理由がないまま強行され、現場に甚大な影響を与えているからです。

 ところが自公政権は(1)利用料2割負担の対象拡大(2)ケアプラン有料化(3)要介護1、2の生活援助サービスなどを保険給付から外す―などさらなる負担増、給付削減の大改悪を計画しています。参院選挙後、来年の通常国会提出へ向け議論を本格化させるつもりです。

 介護保険が崩壊しようとしているのに向き合わないどころか、アメリカ言いなり大企業奉仕の政治のため、改悪を進めようとしている。こんな政治でいいのかが、問われています。

図

pageup