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2025年5月8日(木)

2025とくほう・特報

圧力屈せず食料主権守れ

日米関税交渉 農産物「貢ぎ物」に怒り

 世界中の国々に一方的な高関税をかけて取引に誘い込む米国のトランプ大統領が「日本との交渉が最優先」と言う日米関税交渉。その2回目が2日(日本時間)にワシントンで開かれ、ロリンズ米農務長官が近く訪日する予定です。日本は25%の関税を課された自動車など工業製品の関税引き下げを求める見返りに、またしても農産物を「貢ぎ物」にしようとしており、不安や怒り、批判の声が広がっています。(伊藤紀夫)


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(写真)鈴木宣弘・東京大学特任教授

 トランプ大統領は「日本は米国産の米に700%の関税を課している」とふっかけ、米国産米の輸入拡大を狙っています。トランプ氏は日本の米の関税率について根拠も示していませんが、実際には約200%です。

 米国の圧力を受けて日本政府はミニマム・アクセス(MA)米の輸入枠拡大を検討しているとの報道もあります。MA米は日本が関税なしで77万トン輸入している米で、米国は約半数の35万トンを占めています。

 鈴木宣弘東京大学特任教授(農業経済学)は「第1次トランプ政権の時、TPP(環太平洋連携協定)で米の輸入枠を7万トン増やすと合意しましたが、米国がTPPを離脱したため、宙に浮いていた。それが今回、米国のターゲットになると思います。日本は確固たる態度で突っぱねればいいのに、ただ米国の言うことを聞いて『貢ぎ物』を差し出すだけの思考停止状態です。これでは交渉になってない」と日本政府の姿勢を厳しく批判します。

狙われる輸入自由化

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(写真)「国は米増産に責任を」「米を守れ」とデモ行進する人たち=1日、東京都渋谷区

 日米関税交渉を行った赤沢亮正経済再生相は「日本の自動車メーカーは1時間ずつ損が出ている状況で、そういう意味で『ゆっくり急ぐ』だ」と語りました。

 「すでに発動されている自動車への高関税について、“日本だけは見直してほしい、何を出せばいいですか、順番を教えてください”と言うようなことをしているわけです。その中で、いけにえリストに残っている一番の目玉、絶対譲ってはいけない日本の最後のとりでが、唯一自給率を高く維持してきた主食の米じゃないですか。最後まで切ってはいけないカードを切りますよと言ったら、すべてを剥ぎ取られてしまう最悪の結果になります」と鈴木さん。

 米国の無法な要求は米の輸入拡大だけではありません。牛肉、豚肉、ジャガイモ、乳製品、トウモロコシ、小麦など、さらなる輸入自由化も狙われています。

 自民党の森山裕幹事長は4月25日、米国との関税交渉のカードとして、「トウモロコシはわが国で生産が追い付かないので、米国からの輸入が増えるのは別に問題はない」「大豆も少し増やすか、クリーンエネルギーの用途として使うことで協力できる」とのべ、受け入れを表明しました。

 第1次トランプ政権との日米貿易交渉でも、米国産トウモロコシを日本が買うことを求められ、輸入を押し付けられました。

 「その時も米中が関税をかけ合う貿易戦争の最中で、トランプ大統領から中国が買うはずだったトウモロコシを300万トン、約600億円分をおまえが買えと日本が尻ぬぐいさせられたのです。今回も同じパターンで、大豆も関税合戦で中国が買わなくなる分を日本が肩代わりさせられるわけです。なんでそんなことをしないといけないのか。日本政府はしっかりしなさいと言いたいですね」。鈴木さんは語気を強めます。

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(写真)長谷川敏郎・農民連会長

 「日本が米国に差し出すというトウモロコシにしても大豆にしても、米と変わらず、日本にとっては大変な問題なんです」。農民運動全国連合会(農民連)の長谷川敏郎会長は、怒り心頭の口調です。

 「米国では大豆は豚や牛の飼料扱いですが、日本では大豆は人の重要なタンパク質源です。しかし、自給率は7%しかない。だから、自給を増やさないといけない状態なのに、また輸入を増やせば、納豆も豆腐も米国産の大豆で作ることになり、日本の食の基本が崩されます。トウモロコシも自給を高めようという動きが広がっている時に、それに水をさすものです」

 長谷川さんは「大豆を差し出すことは、北海道や九州などの産地だけでなく、日本のこれからの農業のやり方にも打撃を与える」と警鐘を鳴らします。

 「小麦の自給率(17%)が輸入で落ち込んでいるため、今は米の1年作です。しかし、もともとは米と小麦の2毛作で、耕地の利用率を高めてきたのが日本の農業でした。今、米や麦や大豆の2年3作で、麦や大豆も国内で増産を進め、地力の維持、有機物の投入で自給率を高めていく取り組みがあります。農産物の輸入拡大はこうした日本農業転換への努力に逆行するむちゃくちゃなやり方です」

 日本共産党は25日、米などの農産物に対する米国の無法な輸入拡大要求を断固拒否し、食料主権、農業を守るよう政府に申し入れました。▽農産物のさらなる輸入自由化を交渉材料にしない▽トランプ関税で打撃を受ける農林水産業を支援する緊急対策▽国産米の需給や価格安定に責任を持つ政策に転換する▽農産物の国内生産を増やして38%の食料自給率を50%に引き上げる―などの政策は各地で共感を広げています。

国民運動広げ阻もう

 農民連は23日、トランプ政権の不当な関税圧力を拒否し、米不足と価格高騰の解消をめざす農業政策の転換を求め、江藤拓農水相への要請を行いました。この要請で「不当な関税圧力はWTO(世界貿易機関)協定や日米貿易協定からも許されない」「米不足解消のために米の増産を」と訴えた長谷川さんは語ります。

 「米不足で米価が高騰しているのは、減反政策を進め米の安定供給の責任を放棄して市場まかせにしてきた自公政権の責任です。そのうえ、米国の要求に屈して米不足まで口実にして大切な農産物を差し出すなら、日本農業を崩壊させる道を歩むことになります」

 農民連はこの問題で「農民」号外を発行して全国で配布する計画で、長谷川さんは国民世論に訴える運動を進めると言います。

 「今回のトランプ関税は、農家だけではなく、消費者にも大変な打撃を与えます。それだけに国民的な課題として世論が広がっていることが、日米貿易協定の時とは大きな違いです。これを阻止するには、昨年の衆院選に続き、今年夏の参院選でも自民、公明両党を過半数割れに追い込み、農業つぶしの石破自公政権に“さようなら”の審判を下さなければなりません。そのために消費者と連帯して運動を広げていきたい」


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