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2025年5月2日(金)

2025とくほう・特報

シリーズ 介護保険25年

介護報酬引き下げ1年

命・尊厳脅かす事態も

 自公政権が介護保険の訪問介護基本報酬を2~3%引き下げてから1年。その影響は利用者におよんでいます。年金から保険料が天引きされているのに、職員不足で必要な介護サービスが使えないという、制度の根幹を揺るがす深刻な事態が都市部でも進行しています。(内藤真己子)


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(写真)厚労省要請で訴える門脇さん(右端)と長嶋さん(右から2人目)=28日、参院議員会館

 「訪問介護は新しいなり手がおらず、職員が減っています。土日に入れるホームヘルパーがいません。平日は1日2回、排せつ介護のため訪問しオムツ交換できますが、土日は1日1回でつないでいます。次の日訪問したらふん尿が漏れ、ベッドが水浸しのこともあります」

 4月28日、参院議員会館の会議室で行われた全日本民主医療機関連合会(増田剛会長)の厚生労働省との懇談・要請。千葉勤労者福祉会の門脇めぐみ介護部長がこう訴え、衝撃が走りました。訪問介護の報酬引き下げでホームヘルパーの人手不足が加速し、高齢者の尊厳が脅かされているというのです。

 門脇さんの法人では、報酬引き下げが打ち出されてから約1年間で7人が離職していきました。時給を引き上げ職員の処遇を改善しましたが歯止めはかかりませんでした。高齢のヘルパーはどんどん引退となり、40~50代のヘルパーは訪問介護のように雨風の中を移動する負担が無い高齢者施設や、重度障害者の長時間訪問サービスへ移っていったと言います。

 「介護がいやなわけじゃない。でも報酬引き下げで訪問介護に将来はないと見切られたのだと思います」

 訪問介護から人材が流出しています。厚労省が3月末に公表した調査では、都市部では7割、過疎の中山間地で6割の事業所で離職者が出ています。都市部では15%が他産業へ流出、事業所の74%が人手不足を訴えています。地方でも都市部でも7~8割が新規採用の「応募者が少ない」と回答していました。

 門脇さんは、とりわけ土日は、ヘルパー自身も子育てや家事があって働けず、ヘルパー不足が深刻だと訴えます。「介護報酬は休日でも加算はない。休日出勤手当を出せば事業所の持ち出しです」。一人の利用者を複数の事業所で支えていますが、どこも人手不足で派遣できません。

 傘下の事業所は、報酬引き下げに離職者が重なり、昨年度は年間300万円の減収になりました。「サービス付き高齢者住宅など同じ建物のなかを回る訪問介護と、地域を回る訪問介護は事実上、別のサービスです。訪問介護事業所の4割が赤字だったのに、高い利益を上げている併設型と一緒にして報酬を引き下げたのは許しがたい」。門脇さんは怒ります。

揺らぐ根幹 報酬引き上げこそ

ヘルパー離職拍車、ニーズ応えられない

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(写真)駒居さん

 厚労省調査では、報酬引き下げで前年比10%以上減収した事業所が都市部で36%を占めています。京都市北区。古い住宅街の一角にある在宅ケアセンター新大宮もその一つです。

 ホームヘルパー39人(常勤20人で残りが非常勤と登録ヘルパー)が、24時間体制で190人の利用者を訪問しています。2024年度の介護保険収入は前年度比13・5%もの大きなマイナスになりました。「試算では1%だった減収が大きく膨らんだのは、ヘルパー不足と高齢化です」。駒居享生施設長は打ち明けます。

 1年余でヘルパー3人が相次いで退職しました。広告を打っても応募はなく、欠員を補充できませんでした。ヘルパーの高齢化が進み平均年齢は54・7歳。「高齢化すると『身体介護は避けたい』とか『訪問件数を減らして』などの要望が出て前と同じ条件では稼働できません」と駒居さん。

 その結果、利用者のニーズに応えられなくなっています。24年度は近隣のケアマネジャーから新規利用者への派遣依頼が168件ありました。ところが受け入れたのは83件のみ。半数以上を断っています。「数字を出してみてショックでした。依頼のなかには、これまで利用されていた事業所が閉鎖したり、ヘルパーの退職で利用していたサービスが埋まらないなど、緊急性が高いものがありました。あとがどうなったのか分からないですが、胸が痛みます」と駒居さん。

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(写真)利用者と会話するホームヘルパー(右)=ケアセンター大宮提供

 政府調査でも減収した事業所の約8割で訪問回数が減少していました。背景に人手不足があるのは確実です。ところが厚労省は、「地方ではサービス利用がピークアウトし減少。都市部ではサービス利用者が増加しているなか事業所間の競争により訪問回数が減少し、小規模な事業所を中心に収入減になっている」(福岡資麿厚労相)としています。

 これに対し駒居さんは「現実をみていません。報酬引き下げで処遇改善加算があっても賃金改善が他産業に追いつかず、人手不足に拍車がかかった。ニーズがあっても利用者を断らざるをえない。そのため訪問回数が減っているのです」と強調します。

 前出の門脇さんも「都市部で訪問介護事業所が増えているのは、主にサ高住など集住型の施設を回る事業所です。すり替えもいいところです」と批判します。

 日本介護クラフトユニオン(NCCU、UAゼンセン加盟)が訪問介護事業所の管理者やケアマネ事業所に実施した「緊急現場アンケート」でも、減収の最大の理由は「人手不足により、依頼があっても受けることができなかったため」で73%。人手不足でサービス提供を断ったことが「ある」事業所は89%に上りました。その結果「人手不足により必要とされるケアプランが組めなかった」というケアマネジャーが68%にも及ぶ危機的状況です。

 「赤字だった小規模な事業所が報酬引き下げでますます赤字。事業を維持できず閉鎖も検討している」、「報酬引き下げ対策で、単価の高い身体介護の比率を引き上げても増収にならない。それほど引き下げの影響が大きい」。前出の民医連の厚労省懇談・要請で、訴えが続きました。

 発言した一人、川崎医療生活協同組合の介護福祉事業部長の長嶋理恵さんは語ります。「法人に二つの訪問介護事業所がありますが、川崎市北部の事業所は赤字続きです。挽回しようと紹介業者に100万円払って常勤者を増やしました。めいっぱい訪問回数を増やしましたが、赤字は脱却できず経営危機が続いています」

 東京都や千葉県、埼玉県に14の訪問介護事業所がある、すこやか福祉会。埼葛エリアマネジャーの猪瀬茜さんは閉鎖していく近隣の事業所の利用者を受け入れることが増えていると言います。「利用者は、事業所が嫌で変わるんじゃないんです。事業所も利用者と長く関わっていきたいのにできない。この現状を国はどう考えていますか」。介護保険が掲げる「利用者の選択」がほごにされている現実を突きつけました。

 政府は介護報酬の職員処遇改善加算を取得している事業所の平均賃金は前年比で1万4000円近く上昇したとします。ところが昨年の全産業平均と介護職員の給与の格差は月8・3万円。格差は前年の月6・9万円から大幅に拡大していました。実際、介護職員は前年度比で減少しました。

 引き下げ撤回や再改定、国の支援を求める声が、地方自治体や政府の審議会で党派を超えて広がっています。

 宮崎県では3月議会で「訪問介護の基本報酬をはじめ、早急に介護報酬全体の引き上げの改定や財政支援を行うこと」を求める請願が全会一致で可決されました。紹介議員になったのは与党議員です。

 宮崎県民医連が2度にわたり県内の全訪問介護事業所にアンケートを実施、引き下げ撤回を求める団体署名が県内4割の事業所から集まりました。「宮崎県の訪問介護の基本報酬の見直し等を求める会」が立ち上がり、請願を提出しました。

グラフ

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