2025年4月30日(水)
きょうの潮流
「床の写真を撮ってもいいですか?」。声をかけると、怪しい業者かと不審がられることもしばしば。「趣味で撮影してるんです」と言うと、ますます困惑顔に▼各地の床を記録する“床マニア”今井晶子さん。壁でもなく天井でもない足元に、なぜ注目するのでしょうか?「床は日常的に踏まれて劣化して、人の動きがわかります。持ち主に話を聞いてみると、いろいろな物語があるんです」▼床めぐりの狙い目の一つは、古い店舗が並ぶ商店街です。ネットにアップされたごちそう写真の隅っこにちょこっと写っているものも、重要な手掛かりです。出版やTV出演などをへて、「こんな床があります」と全国から情報が寄せられるようになりました▼ひかれるのはタイル張りやクッションフロアです。1970年代がピークで、その後はフローリングやコンクリートの打ちっぱなしが流行します。タイルが壊れても、もう作られていなかったり、職人が減っていたり。“かわいい床”を残すにも苦労が絶えません▼この春、純喫茶の閉店が相次いだように感じた、と今井さんは寂しがります。新型コロナの窮状は、なんとか乗り切った。昨今の物価高でも値上げせず、近所の常連さんのためにがんばってきた。でも後を継ぐ人もおらず、もう限界なのだろうと。一つでも多く記録しておきたい、と足を運び続けます▼作っては壊すを短期間で繰り返すのではなく、手入れをして大切に長く使う。そんなゆるやかな時の流れを楽しみたいものです。








