2025年3月18日(火)
2025焦点・論点
トランプ政権で問われる日本
国際エコノミスト 奥村皓一さん
無法な覇権で脅し自国利益追求 戦争に導く米国追随から転換を
ガザのパレスチナ人の強制移住と米国の「長期の所有」発言、ウクライナ戦争での侵略国・ロシアへの肩入れなど、国連憲章や国際法に反して暴走するトランプ米政権。日本に対しても大軍拡を求め、高関税による脅しで「取引」しようとしています。これにものもいえず追随する日本でいいのか、国際エコノミストの奥村皓一さんに聞きました。(伊藤紀夫)
![]() (写真)おくむら・こういち 1937年岐阜県生まれ。政治経済研究所主任研究員。経営学博士。東洋経済新報社の編集委員、大東文化大学教授、関東学院大学教授を歴任。著書に『日中「新冷戦」と経済覇権』『転換するアメリカ新自由主義―バイデン改革の行方』など多数 |
―国連憲章や国際法さえかなぐり捨てて自国の利益だけを追求するトランプ政権をどう見ていますか。
第2次トランプ政権の特色は、略奪型の米国覇権主義という凶暴な姿がむき出しになっていることです。
なぜ、そうなるのか。これまでの米政権はエスタブリッシュメント(支配階級)、すなわち多国籍企業とウォール街を基盤にした民主、共和両党の超党派政策で、強大な軍事力を背景にしながらも国連憲章や国際法を建前に米国中心の世界秩序構築を進めてきました。
しかし、「米国第一」を掲げて復活したトランプ大統領は、その「エリート政治」によって「忘れられた人々」の「復権を約束する政権」を演出し、国際的ルールなどお構いなしに自己利益最優先の路線をひた走っています。閣僚もトランプ氏の配下で反エスタブリッシュメントを任じ、自分の懐を肥やすために結託しています。ホワイトハウスは絶対君主が臣下を従える宮廷さながらの状況です。
そのため、支配階級を軸とした超党派体制との間に亀裂が生じています。ガザの「所有」、グリーンランドやパナマ運河の「取得」、ウクライナのレアアース(希少資源)「取得」などの言動は、19世紀型帝国主義を想起させます。こうした無法な覇権を振りかざすのは逆に政権基盤の弱さの表れで、国際的孤立を深め、凋落(ちょうらく)の道を歩むだけです。
―トランプ政権は鉄鋼製品とアルミニウムに25%の関税を課す措置を発動しました。日本を含むすべての国が対象です。高関税の脅しで「貿易戦争」をしかけて「取引」するのはなぜでしょうか。
第1次トランプ政権での中国と高関税をかけあう「貿易戦争」は、経済的に台頭する中国に脅威をもち、米国の覇権を維持するための制裁でした。これはトランプ政権が先頭に立ちましたが、「中国脅威」論で拡張を図る軍産複合体、米議会、政府機関など超党派によるものでした。
その時も、中国市場を育ててきた米国の金融経済界は相互依存関係にあるため、反対していました。たとえば、航空宇宙産業部品の第4次、第5次下請けの60%、レアアースの90%は中国依存で、デカップリング(供給網の分断)は多国籍企業から最大の高収益市場を奪うものです。中国の米財務省証券保有額は日本に次いで第2位です。
今回の高関税は中国だけでなく、欧州やカナダ、韓国など同盟国まで広げており、日本も対象になっています。これら諸国の対抗措置で米国のインフレや景気後退が再燃しかねず、ウォール街が反発し、株価は下落しています。
今や米国で「ならず者政権」と呼ばれるトランプ政権は、せいぜい2年でレームダック(死に体)になるともいわれているだけに、なりふり構わず、高関税で“米国の利益第一の大統領”を演じています。
―米国防次官候補のコルビー氏が日本にGDP(国内総生産)3%の軍拡を要求した背景には何があるのでしょうか。
ペンタゴン(国防総省)の受注はロッキード、ボーイング、レイセオン、ノースロップ・グラマン、ジェネラル・ダイナミックスの5社が86%を占めています。
しかし、今、陸海空だけでなくサイバーや宇宙、AI搭載無人機という分野で新技術を持った主としてシリコンバレー生まれの新興兵器会社が200社、関連会社を含めると2000社もあり、テスラやXを率いるイーロン・マスク氏の宇宙関係事業もその一つです。彼らはメジャー(大企業)が独占する軍産複合体への割り込みを狙い、トランプ政権と結託しています。
極超音速ミサイルやAI無人機の時代に入り、F35戦闘機などはもう古くなり、ボーイングやレイセオンなどは経営が低迷しています。第1次トランプ政権が安倍晋三首相にF35戦闘機などを爆買いさせたように、日本にGDP2%(5年間で43兆円)を超える大軍拡を求める背景には大量の兵器を売りつける狙いもあります。
サイバー分野など先端技術兵器は「日米共同開発」の名目で日本に売り込もうとしています。しかし、それを使いこなす人材が自衛隊に集まらないという矛盾「日本ミリタリズム・パラドクス」(ニューヨーク・タイムズ)も顕在化しています。
―石破茂首相は日米首脳会談で「2027年度の後も抜本的に防衛力を強化していく」と「安保3文書」にもないさらなる軍拡を約束してきました。日米軍事同盟絶対では歯止めない大軍拡に突き進んで、国民生活が押しつぶされますね。
強権的なトランプ政権に対しても米国一辺倒の姿勢で対応するのは日本が戦争の最前線に立たされる危険がより深刻化します。米国は中国の攻撃を未然に察知して先制攻撃する国際法違反の戦略に日本を巻き込もうとしています。米中の「新冷戦」に日本はこれ以上深入りせず、憲法の歯止めがあるので、日米同盟だからといって米国の勝手にさせないことが重要です。
石破首相は、故安倍晋三元首相の「陰の外交顧問」といわれたマイケル・グリーン氏(戦略国際問題研究所元副理事長)が「日米地位協定の改定を提案すること自体が火薬庫にマッチの火を付けるようなもの」と発言すると、持論の地位協定改定を封印しました。岸田文雄前政権以来の大軍拡と米軍事産業・ハイテク企業からの巨額買い付けの対米約束が迫られています。
今、東南アジア諸国連合(ASEAN)が米国とも中国とも対等に付き合っているように、日本もそういう包摂的な外交に転換すべきです。トランプ政権に対抗するイギリス、ドイツ、フランスに習って石破政権も中国との関係修復に乗り出しているようですが、米国の中国包囲網の中核に据えられるような愚は絶対に避けなければなりません。









