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2025年3月3日(月)

きょうの潮流

 幼いころ、浴衣やはんてんを縫ってくれた曽祖母は「小豆3粒包める布は捨ててはいけない」と言いながら、端切れで人形用の服や布団も作ってくれました。布が貴重で、衣服は繕い、継ぎを当て大事に着た時代▼東京ステーションギャラリーで開催中の宮脇綾子(1905~95)の芸術展を見て、そんな昔を思い出しました。布絵とも呼ばれる独自のアップリケ作品の数々。身近な野菜や魚介、草花を、とりどりの布を切って形作り、貼ったり縫ったりして仕上げます▼創作を始めたのは40歳の時。画家の妻、3人の子の母として家庭を守ってきた堅実な主婦は、敗戦直後「このままなにもせずに死んでしまってはつまらない」と一念発起。家にあるたくさんの端切れを利用しようと思い立ちます▼「この世の中に廃物はなんにもない」と使い古しの石油ストーブの芯やコーヒーフィルターも素材に。代表作の一つ、トマトやキャベツ、カボチャなどの断面図は、レースやひもも駆使しワタや種まで如実に表現。勢いよく伸びる植物の芽や根もしばしば作品にしました▼「ものをよくよく見ることは、アップリケをする前の大事な心構え」と語り、日記にはトルストイの言葉として「芸術家は探究者でなければならない/作者が探究すれば/見る人も、聞く人も、読む人も/作者と一緒になって探究する」と書いています▼使い捨て文化が地球環境を脅かす今、ものの命を慈しみ、その美しい力強さを作品にし続けた女性の人生を忘れないでいたい。


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