2025年2月5日(水)
2025とくほう・特報
「女性が姓を変えるもの」?!
根強い差別解消へ 選択的別姓実現を
アイデンティティー取り戻したい
今開かれている通常国会の焦点の一つが選択的夫婦別姓制度を導入するための法改正です。現行の夫婦同姓制度のもとで、「結婚したら女性が姓を変えるもの」という根強い差別が残っています。同姓も別姓もどちらでも選択できる法制度の実現を求める声は切実です。(武田恵子)
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結婚の際、4組に3組は夫婦の姓(氏)をどちらにするかそもそも話し合わなかった―。こんな調査報告を、1月16日開かれた選択的夫婦別姓を求める訴訟の第3回口頭弁論で、原告側が紹介しました。
民法750条は、結婚の際、「夫又は妻」の姓を名乗ると定めています。形式的には平等のように見えますが、実際は、約95%の夫婦が、夫の姓にしています。
「これは自由で平等な夫婦の話し合いの結果なのか。そうではない」という事実を、原告側が指摘しました。大阪大学の三浦麻子教授の調査報告(2024年12月12日作成)によると、夫婦の姓をどちらにするかそもそも「話し合わなかった」人が回答者の78%にのぼりました。中でも女性が姓を変更したケースに限ると83%が「話し合わなかった」と回答しています(表)。
弁論で調査報告を紹介した三浦徹也弁護士は、「夫婦同姓制度は、いまだ残る性差別的な意識や慣習を固定化し、助長する関係にある」と力を込めます。
夫の両親と断絶
東京都荒川区に住む山野花世さん(仮名、30歳)は、「姓を変えたくない」という気持ちを夫に伝えるのが結婚直前になってしまいました。夫の両親の理解が得られないだろうと思い、18年、夫の姓で婚姻届を出しました。無理やり姓を変えることになったため、体調をくずしました。医師の診断は、「適応障害」でした。「ペーパー離婚」をして、元の名前に戻った花世さんは、体調も回復しました。
一方、法的な婚姻をしていない状態は、「夫の両親の理解を得られず、絶縁状態になっている」と花世さん。
「結婚するときに、選択的夫婦別姓制度が存在し、同姓も別姓も選べることが世間の当たり前になっていれば、夫の両親との断絶も起きなかった」と語ります。
いま夫と、事実婚のままで「子どもをもつこと」を話し合っているという花世さん。「子どもが生まれたら、子どもの姓は私の姓にすると決めています。夫に認知はしてもらいますが、戸籍上、夫と子のつながりはないことになる」と言います。
花世さんは、こうした体験を、東京都荒川区の自民党区議団の、選択的夫婦別姓制度をめぐる勉強会(今年1月15日)で区民の一人として訴えました。同区議会には、第二東京弁護士会が、選択的夫婦別姓推進の意見書可決を求めて陳情をしています。
「ペーパー離婚」
![]() (写真)小林由紀子さん(左)と高坂義文さん(北海道帯広市の自宅前) |
事実婚で子どもをもうけた場合、子どもは婚外子となります。それを避けるために、出生を控えた時期に、婚姻届を出し、出生届を出したあとに「ペーパー離婚」する事実婚夫婦もいます。
そうしたことについて、夫と1年にわたって話し合ってきたというのは、横浜市に住む高坂由美さん(仮名、34歳)です。2人は婚姻届を出さずに同居生活に入って3年。勤め先では、結婚祝い金をもらいました。住民票の記載では、夫は世帯主、由美さんの続柄は「妻(未届)」で登録されています。
実は、北海道帯広市に住む由美さんの両親も事実婚です。
母の小林由紀子さん(70)、父の高坂義文さん(68)に育てられるなか、由美さんは、自らの結婚に際して、両親と同じ事実婚を選択しました。
由美さんと、由美さんの兄の、2人の出産時には、小林さんが夫の「高坂」姓を名乗る形で婚姻届を出しています。兄のときは、離婚届を出したのが育児休業終了時でした。「高坂」姓を名乗ったのは約1年間です。由美さんのときは、婚姻届と出生届を同時に出し、1週間後に離婚届を出しています。自らの「小林」姓を早く取り戻せるからです。
「妻だけでない」
高坂義文さんは言います。「あるとき、近所の人が、私に『なぜ別姓にしているの?』と聞いたことがありました。そばにいた私の母が、『私も(姓を)変えたくなかったよ』と言ってくれました。姓を変えたくないのは、妻だけではないと気付きました」
由美さんは、子どものころから、「母と別姓」ということに「違和感はなく、むしろ、両親が対等で誇らしいと思っていました」。由美さんの兄も、母と姓が違うことに何の違和感もなく、困ったこともありませんでした。
一方で、由美さんは、兄の出生の時から40年近くたっても「母と同じ選択をせざるを得ないことが残念」と言います。
一時的とはいえ、姓を変えなければならず、「自分の中の何かが損なわれる感覚がある」と言います。結婚と離婚による2度の改姓手続きの負担も由美さんにかかります。
「共働きのため生活費は折半して暮らしているが、出産、子育てを折半することは難しい」と悩みます。事実婚によってイーブン(半々)だった2人の関係も、出産を考えた時のさまざまな負担を、夫に自分事として捉えてもらうために、1年間の話し合いが必要でした。
選択的夫婦別姓制度が実現すれば、少なくともペーパー離婚にかかわる手続きは解消されます。「今回は間に合わないとしても、数年以内には改善がないか」と期待を寄せます。
国連が是正迫る
冒頭で紹介した選択的夫婦別姓を求める訴訟の弁論で、もう一つ、原告側弁護団による新たな調査結果が示されました。弁護団が調査した95カ国のうち、夫婦同姓が可能な国が62カ国ありましたが、すべての国で夫婦別姓が可能でした(33カ国は原則別姓)。
かつては、夫婦別姓を選択できない国も多くありました。しかし、夫婦同姓を強制することが女性差別にあたるという認識や、姓が個人のアイデンティティーの重要な要素であり自己決定が認められるべきであるという認識が広がっていきました。原告側弁護団の橘高真佐美弁護士は、「日本の夫婦同姓強制は、国連人権機関からも繰り返し厳しく批判され、是正を迫られている。日本が民法改正を行わないまま、夫婦同姓を強制する最後の国となってしまったことは、国際的に恥ずべき事態である」と指摘しました。










