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2025年1月13日(月)

2025焦点・論点

UNRWA活動禁止法施行どう見る

北海道パレスチナ医療奉仕団団長 猫塚義夫さん

医療・教育・ライフライン奪う 人道危機救う国連機関に支援を

 パレスチナ難民への人道支援を担う国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の活動を禁止するイスラエルの法律の施行が今月28日に迫り、UNRWAの清田明宏保健局長はパレスチナ自治区のガザへの支援を止める法律を施行しないよう訴えています。この法律の影響をどう見るか、今どんな行動が必要か、北海道パレスチナ医療奉仕団として2011年から現地で医療支援活動を続けてきた猫塚義夫団長(医師)に聞きました。(伊藤紀夫)


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(写真)パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区の町・ジェリコの難民キャンプで診察する猫塚さん

 ―現地で医療支援活動を続けてきて、UNRWAの役割をどう感じていますか?

 2009年にイスラエルによるガザ侵攻に反対する札幌市でのキャンドル行進に参加し、ガザの住民に何か貢献できることがないかと相談したことがきっかけで、翌年、北海道パレスチナ医療奉仕団を結成しました。私たちが最初に訪れたのは、ジェリコという町のUNRWAが運営する難民キャンプ内にある診療所でした。

 その後、私たちはガザにも入って支援を続け、昨年11月から12月まで東エルサレムを含むヨルダン川西岸で16回目の医療支援活動を行いました。

 実際に現地で活動すると、UNRWAはものすごい働きをしていることが分かります。そのことをたくさんの方々に知ってほしいと思います。私たちは医療のほか、学校で絵画教室やバレーボールもやってきました。日本人として初めて保健局長に就任した清田先生は僕らが現地に行くと、どんなに忙しくても必ず1回は来て意見交換し、お互いに助けあって活動を続けてきました。

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(写真)ヨルダン川西岸地区のがん拠点病院・オーガスタビクトリア病院(後方)の医師と猫塚さん(左)=東エルサレム

 ―ガザで人びとの生存が脅かされている中で、UNRWAの活動を禁止するイスラエルの法律が施行されると、どんな事態が予想されますか?

 とくに今、UNRWAの活動が禁止されると、イスラエルの中でUNRWAの職員が自由に移動できなくなるのが一番困ることです。職員は外交特権を持っていますので、検問所などもフリーパスで通れます。それができなくなってしまうと、深刻な人道危機の中でUNRWAが果たしている医療・保健、学校教育、労働・社会保障などパレスチナ人の生活を支える機能が失われ、いっそう大変なことになると思います。

 私たちも関与している医療の問題では、難民キャンプには診療所があり、そこに来ると医療費は無料で、病院でも診療所の証明があれば無料です。それが壊されると医療を受けられず、貧困な人たちに追いうちをかけることになります。イスラエルは今、病院を標的にして破壊していますが、診療所も攻撃の対象にしています。そのなかでも、診療所が破壊されたら、テントを担いで移動診療所をつくり、診療を続けています。

 教育の問題では各難民キャンプに小中学校がありますが、そこに通っている子どもたちが学校に行けなくなり、路上に放り出されることになります。そうなると、子どもたちの中に平和的な考えが育つのではなくて暴力的な考えが育ち、治安も悪くなることが、すごく心配です。

 労働・社会保障、食料・燃料支援など生活の面でもUNRWAは大きな役割を果たしています。その活動ができなくなると、難民キャンプの経済的な貧困に拍車をかけることになります。

 イスラエルは、人道支援を続ける国連を目の敵にし、パレスチナの人々には国連そのものであるUNRWAの活動を止めることまで実行しようとしています。それはかつてない人道危機をひどくする暴挙であるとともに、いずれ仮に停戦になって復興の時期が訪れた際に、ガザの200万人以上の人たちを助ける主体の組織をなくしてしまうことを意味します。

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 ―23年10月からイスラエルによるガザへの大規模攻撃が始まり、その月に計画していた15回目の医療支援活動ができなくなり、昨年、再開したわけですね。ガザではなくても、危険を伴うものだったのでしょうね。

 今回はヨルダン川西岸のあちこちの村に行ったりして、総計で360人の患者さんを診療しました。障害児やお年寄りなどの患者で、難民キャンプでもキリスト教会でも、要望があれば行って診療をしてきたんです。高い分離壁を通らないと入れない仕組みになっていて、イスラエルの占領を物語っています。昨年は6月も行きましたが、10日ぐらいでした。

 危ないということでは、狙われることはありませんが、巻き込まれる危険もあるので、注意しながら無理をしないでやってきました。だから、北にあるナブルスやジェニン、南のへブロンとか、要望があって行く予定を組んでいましたが、前日に明日は無理ということで、違うところに行ったこともありました。

 今回は8人のチームでしたが、2人がイスラエルから強制送還されたんです。私もイスラエル当局から尋問を受けたうえで医療支援活動を行いました。

 東エルサレムでは元医師で地元の慈善協会理事長を務める方は、医師がヨーロッパから入らなくなって僕らだけ出入りしているので、「暗いところを照らす1本のろうそくだ」と話していました。

 ―パレスチナの人びとのライフラインを奪う法律の施行を阻むために、われわれができるのはどんなことでしょうか?

 昨年末に清田先生と東エルサレムでこの問題で話し合い、大変な事態なので日本でもUNRWAを支援する行動をできないかと考え、2月1日に札幌市で16回医療支援活動の報告集会を開くことにしました。その時に私も報告しますが、清田先生にヨルダンのアンマンからオンラインで参加してもらい、支援を訴えることにしています。

 さらに今、札幌市議会にUNRWAを支援することを国に求める意見書をあげることを要請する取り組みを始めたんです。2月議会での決議をめざして各政党の市議や国会議員などにも申し入れ、実態を知らせて協力してもらう準備をしています。

 その取り組みを他の自治体にも、とにかく広げたい。昨年11月、東日本大震災の時にガザの子どもたちが日本の支援に感謝と連帯を表すために困難な中でも毎年行ってきた凧(たこ)揚げにちなんで、私たちはガザへの連帯・支援を呼びかける凧揚げに取り組みました。それを一緒にやってくれた沖縄を含め50カ所の自治体にも呼びかけ、政治を動かす運動を進めようと思っています。

 ねこづか・よしお 札幌市生まれ。医師(整形外科医)。医療9条の会・北海道共同代表。北海道パレスチナ医療奉仕団団長。著書に『平和に生きる権利は国境を超える―パレスチナとアフガニスタンにかかわって』(共著)

代替機関はない

UNRWA保健局長 清田明宏さんの話

 UNRWAの役割について「保健の分野でもポリオの予防接種で4割はうちがカバーし、外来患者の半分はうちが診ている」「うちは1000人働いていますが、WHO・世界保健機関のガザの職員は40人」「そういう意味で代替機関はない。輸送も避難所もいろんな活動を含めて代替はない」「学校が300ぐらいで生徒数が30万人ぐらいいる。それが閉まってしまうと代替できない」と指摘。「国連加盟国の1カ国の意見で止めるということはできない」「大きな状況はどんどん悪くなっているので、その支援の中心となるUNRWAを止めるということは非常に問題がある」と批判しています。(昨年11月28日の記者会見から)


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