2024年12月30日(月)
米兵犯罪 被害者補償に難点
「公務外」は支払い義務なし 日本政府の見舞金に大穴
地位協定の抜本改定必至
![]() (写真)質問する山添拓議員=19日、参院外防委質問 |
在日米軍関係者による複数の犯罪を日本政府が隠ぺいしていた問題が発覚し、日米同盟のもとで被害者の人権が踏みにじられていると批判の声が高まりました。米軍に特権的地位を与えている日米地位協定は犯罪被害者への補償でも米側を優位に置くなど、守られるはずの被害者が泣き寝入りを強いられている実態があります。
146万円で免責要求とは
2008年に沖縄県沖縄市でタクシー運転手の宇良宗一さんが米兵2人に頭や顔を酒瓶や拳で殴られ、重傷を負う事件が発生。宇良さんは心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症し、就労にも復帰できないまま12年に亡くなりました。米側は、遺族側が再三賠償を求めても回答を先送りし、回答時には事件から10年がたっていました。内容は約146万円の示談金を支払う代わりに加害米兵の免責を遺族側に要求する不当なものでした。遺族は納得できず民事訴訟を提起。結果、米側に事件発生日からの年率で加害者に課せられる遅延損害金900万円を含む約2640万円の判決が命じられましたが、米側は示談金と同額の約146万円しか支払いませんでした。
このため、米側に代わり日本政府は遺族側に賠償金の差額1590万円を支払いましたが、遅延損害金900万円を除外し、その支払いを拒否。遺族が日本政府を相手に遅延損害金の支払いを求めた訴訟を起こしましたが、最高裁は今月16日、遺族側の上告を棄却しました。
賠償の決定権 公務外は米側
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日米地位協定18条では、「公務中」では米側が補償額の75%、日本側が25%支払うことになっていますが、「公務外」の犯罪で日本人が被害を受けた場合、被害者への賠償金を支払うかどうかやその金額も含め米側が決定できるとする、圧倒的に米側有利な規定を定めています。米犯罪のほとんどが「公務外」に起きており、多くの被害者が泣き寝入りを強いられてきました。
このため、1996年12月のSACO(沖縄に関する日米特別行動委員会)最終報告で、裁判で確定した賠償額との差額を日本政府が肩代わりする「SACO見舞金」が創設されました。防衛省の資料によれば、96~2023年までの在日米軍犯罪で米側が負った賠償額、計約9億8900万のうち米側が支払ったのは約4億8000万円で、日本政府は米側が支払わなかった約5億5000万円をSACO見舞金で肩代わりしています(注)。一方で、政府は、裁判において賠償金と同時に必然的に発生する被害者への遅延損害金の支払いを見舞金の対象から除外しています。
遅延損害金の除外規定なし
日本共産党の山添拓議員が19日の参院外交防衛委員会で、政府が遅延損害金を除外している問題をとりあげ根拠をただすと、防衛省の田中利則地方協力局長は、「(遅延損害金は)直接の被害にあたらない」などと繰り返し強弁。山添氏がSACO最終報告や同報告に関する18年の閣議決定を提示し追及すると、同損害金除外の明示的な規定は存在しないことを認めました。
1996年~2023年までの27年間で米軍人・軍属による刑法犯検挙件数が2132件に対して、SACO見舞金の支払い件数はわずか23件にとどまるなど、被害者のほとんどが救済されていないのが実態です。根拠のない遅延損害金除外の規定を改めるなど、現行制度の運用の改善とともに、日米地位協定の抜本的改定が求められます。
(注)自賠責保険等による支給を別途受けている場合は、米側支払額と日本側支払額の合計が確定判決額と符合しないことがあります。